日本 プロライフ ムーブメント

先端医療の論じられ方

私の出身は科学史で、もともとの研究テーマはヨーロッパ近代以降の医学・科学における生命観の歴史的な変化です。そしてここ15年ほど、歴史研究をベースにして先端医療と生命倫理の在り方も検討してきました。また、そもそも私は、自己決定権を基盤としたアメリカ型の生命倫理学に違和感をもっていましたので、主催者の思惑通り今回のシンポに際しても、アメリカ型の生命倫理学を擁護しているかに見受けられる岡本さんの『異義あり!生命・環境倫理学』(ナカニシヤ出版、2002年)を再読し、批判を加え、議論を交わそうと思って参ったわけです。しかし、ただいまのお話を伺って、むしろ岡本さんと私の問題意識は重なっていると感じました。岡本さんのおっしゃったように私もまた、現状から様々な問題性をえぐり出して議論の場を創っていくこと、それが生命倫理学の役割だと思っています。結論は出ないとしても、永続的な議論の場を形成すること自体が重要だという立場です。したがって、当初の意気込みと話の予定を変えざるを得ないので、いささか当惑しているのですが、ともかく「先端医療の論じられ方」という本論に入ります。 

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ヒト胚性幹細胞研究(hescr)の最新情報

I. 「幹細胞」という言葉を勝手に使うこと 「ヒト胚性幹細胞」というフレーズの使用には、多くのまやかしがあるにも関わらず、長年にわたって利用されている。そのような細胞は存在しない。このフレーズの使われ方では、早期のヒト胚の細胞と「幹細胞」が同等視されている。  

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メディアとヒト発生学

1990年に「それは適切ではない。メディアの偏見に関する参考指針」と題した情報提供型の書籍が発行された。(1)著者はBrent BozellおよびBrent Bakerである。これは、基本的に政治的な曝露本であり、政治的問題に関するメディア(実際には、レポーター、ライターおよび特派員)による自由主義者の偏向を詳述している。疑惑の影から、著者らはそのポイントを立証する。 

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いのちの始まりと連続体の確立

いのちの始まりとその連続体の確立は、生物学者(発生学者)にとって理解が難しい事実ではない。残念ながら、これらの事実は、政治的な見解に都合がいいように再解釈、再定義されてきた。したがって、ヒト発生学は、社会法律的・政治的な声明として書き直される危険に面している。 

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幹細胞研究

「幹細胞」という言葉は、元々組織学者によって作られた言葉である。この言葉は、かなり以前から組織学の文書に登場し、「再生」または「修繕」細胞として紹介されてきた。事実上、人体のすべての組織に幹細胞は存在する。幹細胞の存在目的は、亡失した細胞あるいは損傷を受けた組織を瘢痕組織などの組織や細胞で代用することである。幹細胞は部分的に分化しているが、末端分化には至っていない。これらの細胞の特徴は、分裂が必要なときに自己再生する能力を持つことである。幹細胞が分裂して誕生した娘細胞のひとつは特定の細胞に分化するが、もうひとつの娘細胞は幹細胞のままの残り、新たな分裂を起こす。組織によっては、幹細胞を容易に特定することができるが、その特定が非常に困難な組織もある[キッシャーら、1982年。肥厚性瘢痕とケロイド:その起源の検証と新しいコンセプト。走査型電子顕微鏡、iv:1699~1713;キッシャーら、1989年。肥厚性瘢痕およびケロイドの細胞株によるフィブロネクチン生成量の増加。結合組織研究、23:279~288;キッシャー、C.W.およびJ.ピンダー。1990年。ヒト皮膚・瘢痕繊維芽細胞によるフィブロネクチン(FN)生成量に対する血小板由来成長因子(PDGF)の影響。細胞検査、3:231~238。] 

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クローン形成、幹細胞研究および歴史上の類似例

幹細胞研究にヒト胚性細胞を使用すること、幹細胞を「治療的」クローン形成により入手するか、あるいは「余剰」胚から入手するかどうかについて、大衆の意見は必ずしも一致していない。これらのクローンおよび「余剰胚」は、初期胚と同等の価値を持っている。多くの科学者たちが、「治療的」クローン形成や「余剰」胚の使用を求めているが、彼らは、その結果生じ得る破滅的な事態を含めた一連の影響について、十分な配慮を欠いている。例えば、ハンフリーとその研究グループは、マウスを使った実験において、核移植によるクローン形成は効率が悪く、大半のクローンが死に至るという研究結果を発表している。1生存したマウスには、たびたび成長異常が観察された。また、彼らは、胚性幹細胞についても検証を行い、そのゲノムが「非常に不安定である」ことを発見した。そこで次の疑問が生じる。ヒトクローン形成でも同様の結果が生じるのか、幹細胞治療を受ける患者に移植される核についても同じ事が言えるのか?こうした疑問があるにも関わらず、米国実験生物学会(FASEB)と米国解剖学会(AAA)という2つの著名な学会は、その会員による討論や投票を行うことなく、幹細胞の使用を擁護している。 

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ヒト発生学の堕落

私は、科学者でありヒト発生学者である。私は、研究プログラムを継続し、主に医学生を対象にした教育を続けるための資金の獲得を願い、助成金の申請に多くの時間を費やしながら、「論文を書かないのなら、研究者生命を失う」という気持ちで経歴を重ねてきた。しかし、1989年、私はヒト発生学が政治的な正当性に基づいて書き直されていることに気付いた。それ以来、私は改訂された内容の修正を試みる決意をした。 

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クローン:その法的、医学的、倫理的、社会的問題

私はボルティモアの大司教で、米カトリック大司教協議会・中絶反対運動委員会メンバーのカーディナル・ウィリアム・キーラーと申します。今日はこの協議会の代表として、「人間クローニングの道徳への挑戦」について話したいと思い ます。

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女性の生殖生活早期における経口避妊薬ピル(OCP)の服用と妊娠中絶行に関する世界の成り行き

女性の生殖生活早期における経口避妊薬ピル(OCP)の服用と妊娠中絶実行について研究しているたくさんの調査員達はアメリカ合衆国から来ています。なぜなら、この国はOCPの服用も妊娠中絶も両方早期に高い割合を占めており、私達はきっと乳癌の新しいケースの進展において最も高い危険のある国のうちのひとつです。その他の国々はどうでしょうか?他の国々における相当数の女性達は、乳癌の危険が増しています。特に、もし、若い人達が早期にOCPを服用したり、妊娠中絶を行った経験があったり、または現在服用したり妊娠中絶を行っていたり、あるいはこれから服用したり妊娠中絶をするつもりでいたりするなら高い危険性があります。女性がOCPを服用している国々では子宮頸部の癌の危険が増加していることを忘れてはいけません。(すなわち、控えめに見積もって、4年間服用し続けた場合50%増加します。(『BREAST CANCER』13章参照)最後にアジアやアフリカ、その他肝臓癌の割合が高い国々に住む女性達の中で、避妊用のホルモンを5年以上使用している人達は、肝臓癌の危険率が4倍に増加するため、極度の危険にさらされているということを繰り返し強調されなければなりません。1

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勇気の使徒職メンバーのあかし

四旬節が近づき、私は自分の霊的生活で改善すべき点のリストを作っています。直すべき所がいろいろありますが、 今ある自分に心は喜びで満たされます。Courageのメンバー、Encourage(励まし)の支援者としての役割 、祈りの生活、小教区の活動のおかげで、キリスト者としての良い、健全な、貞潔な生活を送ることができています。 

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ヒト胚も生きる権利をもつ人間です!

二十世紀後半から遺伝子操作や細胞融合など、生命科学(ライフサイエンス)の発展に伴って、生命をどこまで人為的に操作すべきか.あるいは個人の生命の尊重などの問題が、従来の生命観では対処できなくなってきた。このような生命の倫理上の問題を扱う専門分野が、バイオエシックスである。これはギリシャ語のバイオス(bios=生命)とエシケ(ethike=倫理)からきた造語と、国際化新時代の外来語辞典で知った。 

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80回目の正月に思う

門松80回目の正月を前にしてこの一文を綴っている。日本人の平均寿命を超える、 ずいぶんと長い人生をいただいたものである。戦前、戦中、戦後を経て今日まで、 めまぐるしく変わっていった時代に生きてきて、出遇った様々な人や出来事を感慨深く思い浮かべている。そして今年は、 どうしてか長い間忘れていた「年の始めの歌」を思い出した。 

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離婚しない結婚の準備

先日、珍しい友人が突然訪ねてきてくれた。イエズス会の元管区長粟本昭夫神父である。80歳になる彼は、 東京からレンタカーでドライブしてきて、九州各地の殉教地や教会を巡礼しているのだという、老いても元気な神父である 。その夜は、隣に住んでいる同じくイエズス会員である「内観」の岡俊朗神父を交えて夕食を共にして語り合った。 

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「白衣の天使」が「カラフル天使」に

先日の定期診察で採血をしてくれた看護師は緑の衣服を着けていた。隣で採血していた看護師は真っ赤な服だった。 何か変な感じがして、思わず「もう白衣の天使ではないのですね。なんと呼んだらいいんでしょう?」とつぶやいたら、「 先日ある会合でカラフル天使と呼ばれました」という返事が返ってきた。「なるほど、そういえばそうですね」 と答えたものの、親しんできた看護婦さんから看護師さんに変わってまだ十分心の整理がつかないうちに、 白衣の天使がカラフル天使に変身する。長生きしているといろんなことに出会う。 

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エロスと甘え「求める愛」をめぐって

「エロスと甘え」とは奇妙な取り合わせだが、最近読んだ本の中でこの二つは「求める愛」という表現の中で一つにつながったのである。その本とは、一つは教皇ベネディクト16世の回勅『神は愛』(2005年・邦訳はカトリック中央協議会)であり、もう一つは土居健郎の『続「甘えの国」』(2001年、弘文堂)である。これは、独りでは生きられない人間本来の姿を理解するうえできわめて重要だと思うので、あえて話題にしたい。 

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あるシングルマザーのうぬぼれ

先日、テレビのチャンネルを変えていたら、精子バンクを利用して子供を産んだアメリカの、あるシングルマザー( 未婚の母)のインタビュー番組が目に入った。まず驚いたのは、精子バンクという商売が繁盛していること。 さらに驚いたことに、そのシングルマザーは言ったのである。「精子バンクを使えば後腐れがない。 自分独りで自由に子育てができる」と。後腐れとは何たる暴言、独りで育てるとは何たるうぬぼれ。一言、 世に警告を発せざるを得ない気分になった次第。 

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「ゆるし」を体現した人の物語

このほど、今評判になっている本、『生かされて。』を一気に読んだ(イマキュレー・イリバギザ著、PHP、2006) 。十年余り前、アフリカのルアンダで吹き荒れた民族浄化の大量虐殺の時代、両親と兄弟二人を奪われた中で、 肉親への愛情と共に、これに反比例するかのように繰り返し沸き起こる憎しみと復讐の情念に打ち勝って、「ゆるし」 というキリスト教の恵みを文字通り身を持って体現した一人のカトリック信者の物語である。 彼女が神のゆるしに与って救われたということは、彼女が真にカトリック信者としての教養を身に着けていたと同時に、 本書の中で彼女自身が言うように、深く長い祈りの中で神の愛に触れたためだと思うのだが、このゆるしのゆえに、今、 本当に平和であり幸せであると彼女は断言している。 

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「貧しさ」、キリスト教のキーワード

キリスト降誕の神秘的な夜、天使たちは羊飼いたちに告げて言った。「恐れることはない。わたしは、 すべての民に及ぶ大きな喜びの訪れをあなた方に告げる。きょう、ダビデの町に、あなた方のために、 救い主がお生まれになった。この方こそメシアである。あなた方は、うぶ着にくるまれて、 飼い葉桶に寝ている乳飲み子を見るであろう。これがしるしである」(ルカ2,10-12)。 

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