憲法記念日にちなんで
五月三日は憲法記念日、昭和二十二年同日の日本国憲法施行を記念し国の成長を期する祝日とされている。
日本における憲法という名称は、古くは日本書紀に十七条憲法がある。十七条憲法は西暦六〇四年に制定されたとされ、一二一五年のマグナカルタよりも古い。マグナカルタは日本国憲法のような成文憲法ではないが、英国では現在も有効のようだ。十七条憲法は「以和為貴」で始まる。第二条に「篤敬三寳」とあり仏法を尊重している。主に貴族や官僚に対して道徳的な規範を示したもので、現代的な意味の憲法とは異なっている。国の基本法で古いものとしては七〇一年の大宝律令がある。この方が日本書紀編纂よりも古い。また「聖徳太子が十七条憲法を制定した」ということは最近一部疑問視もされている。
現代的な意味での憲法はコンスティテューションの訳語であり、国の構造というような意味だ。この意味で考えると、日本という国の構造を決める最初の試みに大宝律令や日本書紀が関係している。藤原不比等らによる日本古代国家のグランドデザインであり、シナリオの創出としての記紀編纂、シンボルの構築としての平城京築造、システムの樹立としての大宝律令制定
近代日本の憲法に明治憲法がある。権力を憲法によって制限する立憲主義で、日本の歴史と文化を考慮した憲法であった。現在の日本国憲法はGHQの草案に基づくもので、前文に「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」とあり、日本の歴史は反省のみが考慮されている。このような憲法は社会契約説という一つの学説に基づくものであるが、前文で「これは人類普遍の原理であり」と間違って断定している。無条件降伏のもとに作られた憲法には、利害関係での妥協の産物と違う良い点も非常に多く含まれている。そのような良い点を残して、日本の歴史と文化を考慮した新憲法を制定することこそが、国の成長を期することだと思う。日本国憲法も五十八才、骨粗鬆症対策が必要のようだ。
骨粗鬆症
憲法は国の法律の骨格といえる。そこで今回は骨格の病気である骨粗鬆症を話題にしよう。高齢化に伴って増加し、現在日本に一千万人以上の骨粗鬆症患者がいると推定されている。骨量が減少した結果、骨が脆くなり骨折しやすくなった病態が骨粗鬆症だ。代表的な骨折に脊椎圧迫骨折がある。いつ骨折したのかわからない脊椎圧迫骨折が六、七割を占め、次第に腰が曲がって腰背痛が起こる。
転倒による骨折で多いのが大腿骨頸部骨折だ。転倒の原因として脳動脈硬化やアルツハイマー病がある。バリアーフリーの環境にしてプロテクターを装着することである程度は大腿骨頸部骨折予防が可能だ。それでも転倒骨折は起きてしまう。以前は大腿骨頭置換術などの手術後しばらく安静を保ったが、最近は手術後すぐにリハビリを開始し早期に歩行訓練が行える。転倒では上腕骨や前腕の橈骨の骨折もある。
骨形成には先ず骨破壊を起こすことが必要なので、以前は骨量を増やす良い方法が無かった。骨量を増やす薬はフッカソーダだけだった。しかもフッカソーダは日本薬局方に無いため、そのことを含めて個別的に患者に説明し同意を得た上で使用されていた。
最近は骨量を増やす薬物療法が可能となった。食事療法でカルシウムの摂取は必要だが、特別にカルシウムの多い食物を摂取する必要は無い。通常の食物に充分量のカルシウムが含まれている。また、カルシウムを沢山食べれば多く吸収されるという分けでもない。カルシウムの腸管からの吸収は活性型のビタミンDで調節されている。活性型ビタミンDは腎臓でビタミンDから作られる一種のホルモンだ。これは薬物として医師の処方で使用可能だ。活性型ビタミンDの過量摂取は危険で、血中カルシウム濃度が上昇すると意識障害や腎不全や肺水腫を起こす。
骨破壊を抑制するビスフォスフォネートという種類の薬がある。Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチドの検査で骨破壊が亢進していることを確認して使用する。朝起床時に十分量の水で内服し、少なくとも三十分は横にならず、水以外の飲食や他の薬剤の服用を避ける。
閉経後の女性では骨量の減少が進みやすい。女性ホルモンの減少が原因なので、エストロゲンの補充療法が行われた。しかしエストロゲン濃度の上昇は乳癌の発生率を高めてしまう。エビスタという薬はエストロゲンの骨に対する作用を持ち、乳房や子宮に対しては逆にエストロゲン作用を抑える働きがある。選択的エストロゲン受容体調整薬とよばれ、乳癌発生率を抑えるという報告もある。閉経後骨粗鬆症に有効な薬剤だ。
この他にオステンやグラケー、カルシトニン製剤等もある。将来は骨粗鬆症患者の状況が改善すると期待される。
Tanaka Masahiro (タナカ マサヒロ)
田中 雅博(1946年ー2017年3月21日)
坂東20番西明寺住職・普門院診療所内科医師
出典 藪坊主法話集
Copyright ©2005年5月掲載
2025年05月19日複製(ご家族からの許可取得)