日本 プロライフ ムーブメント

生命に特許はいらない!キャンペーンニュースレター(2012年5月)

これまで何世紀にもわたり、作物の収穫量を増やそうと交配が繰り返されてきましたが、その目的はつねに、 食用の種子や実を増やすことでした。しかし、

遺伝子組み換えバイオマス 

これまで何世紀にもわたり、作物の収穫量を増やそうと交配が繰り返されてきましたが、その目的はつねに、 食用の種子や実を増やすことでした。しかし、セルロース系バイオマス(雑植性バイオマス)の価値が高まりつつある現在 、アグリビジネス業界は作物の茎や葉、殻、皮などのセルロース部分を増やそうと、研究開発に取り組んでいます。 石油に代わる燃料としてのバイオマス(食用・繊維作物、草類、森林の木質残渣、植物油、藻類など)[編者注:太陽光、 風力、波力、地熱などではない代替燃料] の利用が狙いです。推進派は、化石燃料ではなく、 最先端バイオエンジニアリング技術によって燃料に変えられたバイオ原料がプラスチック類、化学薬品、燃料、医薬品、 エネルギーなどの工業生産を支える、未来のポスト石油時代を構想しています。 世界トップクラスの企業や有力な数々の国家政府が、バイオマスを高価値製品に変えるゲノム研究、ナノテクノロジー、 合成生物学などの最新技術を積極的に推進しています。たとえばBASF社は、 トウモロコシなどの作物の遺伝子を組み換えてバイオマス収穫量を増やす手法を開発しており、 これについて一連の特許を申請しています。これらの特許には、トウモロコシ、大豆、綿、キャノーラ(菜種)、稲、小麦 、サトウキビから得られるバイオマスそのものの所有権も含まれています。 (合成生物学は「究極の遺伝子組み換え」です。合成生物学では、遺伝子を切ったり貼ったりするのみならず、 まったく新しい遺伝子、遺伝的形質、生命体を創るために遺伝子コードを書くなどもします。 

出典: <http://www.geneethics.org/enews/display/65> ) 

この地球上には、バイオ燃料を基盤とする経済に切り替えられるだけの、必要な量のバイオマスは存在するのでしょうか?  答えは明らかに「ノー」です。地球は危うい「オーバーシュート(定常値を超えた)状態」にあり、 地球生態系の急激な悪化と、壊滅的危機への限界点が切迫している現状を見れば、いまバイオマス生産量の「許容レベル」 を定めようとするのは、出血している患者に献血を強要するようなもので、不適切であることがわかるでしょう。 その生命を懸命に維持しようとしている地球には、バイオマスを供給する余力などありません。産業文明が現在の「 エコロジカル・フットプリント(訳注:自然資源の需要と地球の生態学的許容量および資源再生能力を対比させて算出する 、人間の活動が地球の生態系に与える負荷を示す数値)を大幅に縮小しない限り、私たちは「バイオマス銀行」 から借り越している危険な状態で、このまま「エコロジカル破産」へと突き進み、崩壊する恐れがあります。 そうなればもう、いかなる救済措置も効きません。 

地球上における陸生および水生バイオマスの最大の宝庫はグローバル・サウス(アフリカ、中南米、アジアの一部)にあり 、その土地で農業、畜産業、漁業を営む人々や、森林で生活する人々が、それによって生計を維持し、守っています。 ETCグループは、バイオ経済は企業集中化に拍車をかけ、この500年以上で最大規模の資源強奪につながる、 と警告しています。企業の「バイオマスター(BioMasster)」たちは、 かつてない規模で自然を商品化しようと目論んでおり、生物多様性を破壊し、 辺境の人々を住み慣れた土地から追い立てようとしています。 

出典: ‘The New Biomassters’, ETC Group, (2010); 
‘Who will control the Green Economy?’ ETC Group(2011) 

気候条件に適応できる作物

世界の上位6社の農薬および種子会社が、植物ゲノム配列の独占支配を目指して、対象が広範におよぶ、 複数の遺伝子が絡む特許を申請しています。乾燥、高温、低温、洪水、 塩類土壌などさまざまな環境負荷に耐えられるよう遺伝子を組み換えた作物が市販されており、こうした流れは、 世界の植物バイオマス–食用、飼料、繊維、燃料、プラスチック類など、その用途にかかわらず–の支配につながる可能性があります。これらの企業は、気候変動に対処する特効薬的な、「気候条件に適応できる( climate-ready)」作物の研究開発の名を借りて、知的財産権史上もっとも対象が広く、 潜在的にもっとも危険な特許を認めるよう、政府に圧力をかけています。しかし、こうして特許を取得した、 対症療法的な種子は、小規模農家が気候変動に対処するために必要としている適応策を、はたして提供できるのでしょうか ? これらの特許技術は、むしろ逆に、企業の力を集中し、コストを引き上げ、独立研究を抑制し、農家が種子を採取・保管・ 交換する権利を削ごうとするものです。巨大バイオ企業の目標は「バイオマス支配(biomasstery)」すなわち 、世界のバイオマスによる利益獲得なのです。 

2008年6月から2010年6月までに公表された対応特許のうち、少なくとも261件が、植物に対する特定の「 非生物ストレス耐性」(乾燥、高温、低温、洪水、塩類)に関するものでした。一種類の遺伝子組み換え品種だけではなく 、類似する遺伝子配列を持つすべての遺伝子組み換え食用作物が対象になっており、多くの場合、 その産物である食品や飼料にまで特許が適用されています。たった6社の巨大バイオ企業(デュポン、BASF、 モンサント、シンジェンタ、バイエル、ダウ)と、その提携企業(メンデル・バイオテクノロジー、エヴォジーン)が、 261件の対応特許(交付済みのものと申請中の特許)の77%に相当する201件の特許を握っています。 

グローバル・サウスの農村コミュニティ、つまり、地球規模の温室効果ガス排出にもっとも荷担していない人々が、いま、 気候変動の脅威にもっともさらされています。いわゆる「気候条件に適応できる」形質をめぐる熾烈な特許争奪戦のせいで 、気候変動に対処し、乗り切るために農家が本当に必要としている、手頃な対策に費やせる資金と資源が奪われています。 企業は、気候条件適応作物の特許を取得することによって、世界の食料安全保障のみならず、 いまだ商品化されていない世界のバイオマスをも支配しようと企てているのです。巨大バイオ企業各社は、 気候変動の混乱に乗じて、遺伝子組み換え作物を支持する世論を広げ、特許の取得を容易にしたいと考えており、「 気候条件に適応できる遺伝子を組み込めば、収穫量が増え、世界の人口を養うことができる」、「痩せた土地、 少ない降雨量や肥料でも生育できるよう遺伝子を組み換えた作物は、もっとも貧しい農民にとって、 飢えるか生き延びるかの重大な差を生む」など、相も変わらぬテーマに新手のひねりを加えて、働きかけを強めています。 そして、倫理的な正当性を得るために、ビル・ゲイツやウォーレン・ バフェットなど慈善活動に熱心な露出度の高い資産家や、米国・英国など大国の政府、国際農業研究協議グループ( CGIAR)などの大規模育種組織と組んで、とくに資源の乏しいアフリカのサハラ以南の貧しい農家に、 ライセンス料フリーの遺伝子や技術を無償提供しています。ただし当然、その見返りとして、グローバル・ サウスの諸国政府は、組み換え作物の商用化の妨げとなる規制の緩和に応じ、 バイオテクノロジーに好意的な知的財産法を受け容れざるを得なくなっています。 

「干ばつ耐性」品種として市販されているトウモロコシの世界市場は、およそ27億ドル規模と推定されていますが、 バイオ技術による化学薬品およびプラスチック類の世界市場は、それだけで2025年までに年間5, 000億ドルに達すると、米国農務省(USDA)は予測しています。 

気候条件に適応できるよう遺伝子を組み換えた、人工的に作られた生物やバイオ燃料作物が、 少数の強力な巨大企業の手に握られ、工業生産されれば、 気候変動にも食品安全保障にも深刻な影響がおよぶことになります。もし、遺伝的に同じ組み換え品種だけが広範な農地に –とりわけ、太陽光が強い熱帯および亜熱帯地域で–栽培されれば、間違いなく遺伝的浸食が進み、 生態系が変わってしまう恐れがあります。なにより、これまで工業的農業生産と無縁だった地域(湿地、泥炭地、 森林地帯など)が農地化されれば、生物多様性やそこに住む人々の暮らしが脅かされます。 気候条件に適応させるために組み込まれた形質が、異種交配や土壌中の遺伝子水平移動によって野生品種に移るなどすれば 、生態系が大きく変わっていく可能性があります。組み換え品種が特殊な農薬の散布を必要とする場合、 農薬使用量の増加が、地域の固有動植物や農民、消費者に害をおよぼす可能性もあります。 

政府が6社の企業に食品の独占を許せば、社会的な利点はありません。もっともらしい理由のもとに「気候条件に適応した 」遺伝子が導入されれば、農家は遺伝子組み換え(GM)作物への依存度を高め、生物多様性は損なわれ、 世界の食料主権が脅かされることになります。政府は、 気候変動に関連する遺伝子および形質に関するすべての特許の許諾を延期すべきです。まだ実証されていない、 これらの新しい品種が、社会・環境におよぼす影響を含め、徹底的な調査を行う必要があります。ETCグループは、 緊急事態にある世界の現状に鑑み、制限的な種子法、知的財産制度、伝統的な品種改良や種子の保管・交換を妨げる契約・ 貿易協定などを特定し、排除するよう、政府間機関に強く求めています。 急速に変動する気候に対処しようと苦労している農民にとって、遺伝資源へのアクセス制限は、 余計な困難以外のなにものでもありません。気候変動に適応し、生き延びるための、農民主導の対応策を認め、強化し、 守ってゆく必要があります。 

出典: References: ‘Capturing “Climate Genes”‘, ETC Group, (2011); 
‘Geopiracy’, ETC Group, (2010) 

米国における遺伝子特許の法的問題

乳癌および卵巣癌の素因である「BRCA1」および「BRCA2」遺伝子の特許をめぐり、 米国で現在係争中の訴訟について、米国司法省は、ゲノムDNAは自然の産物であるため、 たとえ生物から分離されたとしても、ゲノムDNAに対する特許は認められるべきではない、との見解を示しました。 ただし、組み換えDNA(遺伝子組み換え生物(GMO)を作るための新たなDNAの組み合わせ)や、遺伝子治療、「 合成(人工)生命体」は、引き続き、特許の対象に成り得るとのことです。 

米国では2010年現在、推定2,000種類のヒト遺伝子、または約20% のヒトゲノムに関する約4万件の特許が存在しており、分離された遺伝子、分離遺伝子を使用する方法、 遺伝子と病気との関連に基づく病気の診断法に対して特許が認められています。 

出典:<http://www.i-sis.org.uk/isisnews/sis49.php> (2011) 

インド政府が「バイオパイラシー」でモンサントを起訴

遺伝子を組み換えし直して特許品種を開発するために、インド固有の植物種を盗んだとして、インド政府がモンサントを「 生物学的海賊行為(バイオパイラシー)」で起訴することを決めています。 

出典:<http://blog.p2pfoundation.net/indian-government-files- biopiracy-lawsuit-against-monsanto/2011/12/31

米国が提案する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の知的財産に関する章について、法学者たちが批判的な見解を示す

学者たちは、「米国の提案は、もし採択されれば・・・これまで締結されたあらゆる自由貿易協定のなかで、 もっとも高い水準の知的財産保護および施行基準を実現するものだ」と結論しており、おそらく「多くのTTP加盟国で、 価格の上昇と、幅広い消費製品–医薬品から教科書、インターネット上の情報まで–がより入手しにくくなる状態」 を招き、「革新、創造、地域経済の活性という意味では、加盟国にもたらす利益は皆無に等しい」だろう、 と予測しています。 

このレポートは次のように述べています。「TTP提案は、その検討プロセスに国民をほとんど参加させないまま、 国内規則に関する国際基準を、大幅かつ重大な内容で転換させようとしており、その一方で、 一部の限定された商業的利害関係者のあいだに高度で建設的な関係を構築しようとしている。これでは、 TTP交渉担当者は、公開フォーラムにおける慎重な討議でやりとりされるような、さまざまな視点・見解・分析などを、 十分に知ることができない。このようなやり方ではなく、米国のTTP提案は丸ごと拒否し、知的財産、インターネット、 医薬品に関する規則はすべて、透明で多角的な公開プロセスを経て採用された既存の基準に譲るべきである。」 

アメリカン大学ワシントン法科大学の情報公正・知的財産プログラム(PIJIP)の副主任で、 このレポートをまとめたショーン・フリン(Sean Flynn)は、次のように述べています。「 その検討プロセスに国民を参加させないまま協定の交渉が進められているにもかかわらず、米国の提案は、 すべてのTPP加盟国に法律の改変を迫る内容になっている、とこのレポートは結論している。 リークされた秘密文書でしか、公共政策に関するこうした詳しい分析ができないのは、驚きである。」 

出典:<http://blog.p2pfoundation.net/legal-scholars-release- critical-analysis-of-u-s-proposals-for-intellectual- property-and-pharmaceutical-chapters-of-the-trans- pacific-partnership/2011/12/18

知的財産に関するノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)の見解

「米国は(実は)自由貿易に強く反対しているのだ。 横暴な民間企業に価格を独占的に操作する力を保証する権利というのが、知的財産権の実態だ。」 

出典: http://blog.p2pfoundation.net/noam- chomsky-on-intellectual-property/2011/12/25

ミリアド・ジェネティクス社がシドニーで起訴される

DNA分子の所有権をめぐる初の訴訟で、オーストラリアの裁判所が、被告であるミリアド・ジェネティクス社(MYGN )などバイオテクノロジー企業各社に、 ヒトの遺伝子素材を特許の対象にすることによって治療法を独占することを禁じる判決を下しました。2010年に、 乳癌および卵巣癌のリスクを高める遺伝子突然変異に対する特許をめぐり、癌患者を代表する全国組織「Cancer Voices Australia」と、ブリスベン在住で乳癌と診断されているイヴォンヌ・ダーシー(Yvonne D’Arcy)が、特許を取得していたミリアド・ジェネティクス社およびジェネティック・テクノロジース社(GTG) を相手取り、訴訟を起こしていたものです。 

出典: http://www.bloomberg.com/news/2012-02-19/myriad- genetics-australian-cancer-gene-patents-go-on-trial-in- sydney.html

モンサントの殺虫成分生産細菌DNAが、いまや北米の80%以上の女性の血中から検出されている

米国の消費者団体「Organic Consumers Association」は、次のように報告しています。「モンサントの殺虫成分を生産する細菌のDNAが、 体内に入っても消化されず、北米の80%以上の女性と、その胎児の血中から検出されている。 GMO作物を飼料として与えられた動物に由来する食品など、ごく一般的な食品から摂取されたものだろう、 と科学者たちは見ている。遺伝子組み換えBt遺伝子に曝露した場合の長期的な健康影響は不明だが、 モンサントの自社実験では、GM作物を与えたラットの肝臓と腎臓に損傷が見られた。」 

出典:  Scientists Seek EPA Action on Monsanto Crop Failure (2012) 

GM大豆と先天性異常・発癌との関連を認める新たな研究報告

モンサントの遺伝子組み換え(GM)品種「ラウンドアップ・レディ」の栽培に使われる同社の除草剤「ラウンドアップ」 と、ヒト細胞死、先天性異常、発癌、流産との関連を示す研究報告が、 科学者の国際組織によって欧州議会に報告されています。 

出典: <http://www.geneethics.org/enews/display/32> (2010) 

癌関連分子に対する特許取得を拒否

ハーバード大学のジェイ・ブラドナー(Jay Bradner)の研究室は、癌細胞が癌細胞であることをどのようにして知るか説明できるかもしれない分子、「JQ1 」を突き止め、さらにこの分子を使って、発病する前に癌を抑制できないか研究しています。 ブラドナーの微生物学研究室は、「JQ1」の特許取得を断り、逆に研究データを公開し、40カ所の研究室に送り、 その後の研究の進捗状況も公表しています。この事例から、二つのことがわかります。一つは、 競争ではなく協力が科学の発展をもたらすこと。そしてもう一つは、金銭的利益で動く人もいるが、 純粋な目的と熱意で動く人もいるということです。 

出典: <http://blog.p2pfoundation.net/essay-of-the-day-is- there-such-a-thing-as-ethical-capitalism/> 2012/03/10 

(書籍)ハリエット・ワシントン著、『Deadly Monopolies: The Shocking Corporate Takeover of Life Itself – And the Consequences for Your Health and Our Medical Future (命に関わる独占–生命そのものを乗っ取る企業と、私たちの健康および今後の医療への影響)』 

ある米国企業が、一回の治療サイクルの投薬に400ドルかかる医薬品について、7年間の独占的特許を認められ、 その価格をを3万ドルに引き上げました。「エフロルニチン(Eflornithine)」 は睡眠病に対する効果が認められた薬です。この会社は当初、発展途上国でこの薬を発売しましたが、 もうからなかったため、すぐに発売を中止してしまいました。そしてその後、新たな用途を見つけました。いま、 この薬は西欧諸国で、女性の顔の毛を除去するために「ヴァニカ(Vaniqa)」の商品名で販売されています。 西欧の女性たちは顔の毛を除去するために毎月50ドルを払えますが、アフリカで睡眠病に苦しむ人たちは、 命を救う薬を買うことができないのです。 

出典: http://www.democracynow.org/2011/10/31/ deadly_monopolies_medical_ethicist_harriet_washington http://democracynow.jp/dailynews/11/10/31/1 
http://blogs.yahoo.co.jp/tessai2005/64905350.html

McCartin, Paul (マッカーティン・ポ-ル) 
随時ニュースレター  
2012年5月 
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