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彼女がキレるとき–月経前症候群(PMS):パート1

PMSとは

PMSとは月経が始まる10〜14日前に突然出現し、月経の直前に最高となり、月経が始まるとおさまってしまう多彩な症状を示す、いわゆる不定愁訴症候群です。

よく見られる症状としては、わけもなくイライラし、怒りっぽく、少しのことが気になる、集中力がない、不眠、うつなどの精神的変調、食欲増進あるいは減退、吐き気、下痢、便秘などの消化器系の症状、頭痛、乳房痛、めまい、むくみ、腰痛、下腹部の張った感じ、体重増加などです。

また、これは病気といえるかどうかわかりませんが、突然人が変わったように家中を徹底的に掃除し、周囲をびっくりさせる明るいPMSもあります。

PMSは三〇代から四〇代の方に多く40%〜50%、思春期から二〇代では20%前後の女性が悩んでいると考えられています。日本では欧米の女性に比べて少ないようですが、ライフスタイルの西洋化とともに最近増加の傾向にあるようです。

PMSの原因

1)ホルモンバランス

エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れたときにPMSが発症すると考える学者もいますが、まだ結論は出ていないようです。

しかし、思春期前の女性や、閉経後の女性あるいは卵巣摘出した女性にはPMSがみられないことから、PMSの発症のメカニズムに何らかの女性ホルモンの異常が関連していることは間違いないでしょう。

2)高インスリン

今から40年ほど前に、リース博士は血液中のインスリン濃度が高い女性にPMSが多く見られることを発見しました。

(1)高インスリン状態は肉食中心のライフスタイルによってもたらされますので、欧米の女性にPMSが多いこともうなずけます。

3)微量元素の欠乏

月経前緊張症の女性はマグネシウム、亜鉛、マンガン、カルシウムなどが不足しています。カルシウムやマンガンを補助的に摂取させたグループでは、月経前緊張症で現れる感情、集中力、行動の異常が明らかに緩和されたと言います。さらに、生理の10〜14日前の亜鉛の濃度が低い人はPMSの症状が出やすいようです。

(2)ある研究者は月経前緊張症の女性がチョコレートを欲しがるのは、チョコレートにマグネシウムが多く含まれているからだと考えています。しかし、残念なことにチョコレートには月経前緊張症の女性が避けた方がよい砂糖が多く含まれています。砂糖はマグネシウムを尿から出してしまうのです。

4)ビタミン欠乏説

ビタミンB-6の欠乏がPMSに関係があるという説が古くからあります。しかし、反対にビタミンB-6は効果がないという研究もあるようです。確かにビタミンB群は過剰なエストロゲン(これがPMSの原因と考える学者もあります)を肝臓で処理するのを助けてくれますので、ビタミンB-6の欠乏説には説得力があります。私はビタミンB-6を薬としてではなく、緑黄色野菜、ナッツ類などからとるようにおすすめしています。

5)脳内物質

PMSの原因については前述のようにいろいろな説があります。私は、原因は一つではなく複合的なものであろうと考えております。その中で今、研究者が最も注目しているのは、セロトニンなどのいわゆる脳内物質とPMSとの関係です。カルフォルニア大学精神科のパーリー博士は、脳内物質のセロトニンの量が少ないと、PMSが発症しやすいと考えています。

(3)月経前になるとエストロゲンとプロゲステロンというホルモンが急に体のなかから減って行きますが、それに伴ってセロトニンの分泌も低下します。セロトニンが減ると食欲が亢進し、異常なくらい甘いものが欲しくなります。 PMSではこのような食行動の異常がよくみられますので、セロトニンとPMSが関連あることは間違いないでしょう。

PMSの女性が砂糖をとると一時的にセロトニンが増えては食欲が満たされますが、この方法はあまりすすめられません。ふだんから複合炭水化物をたくさん食べて、セロトニンが脳内で枯渇しないようにしておくことが大切です。なおタンパク質や脂肪をたくさんとりすぎると、セロトニンを減るようです。日本人は年々米を食べなくなって、高タンパク、高脂肪の西洋的な食生活に変わってきています。また、運動不足の女性がふえていますが、運動しないとセロトニンの分泌が悪くなります。PMSに悩む女性が増えているのは、こういう背景と無関係ではありません。

引用文献

(1)Rees.L: The premenstrual tension and its treatment, Bri. med. J 1, 1014-1016, 1953.

(2)Penland JG; Johnson PE : Comment in: Am J Obstet Gynecol 1993 May; 168(5):1640 : Am J Obstet Gynecol (United States), May 1993, 168(5) p1417-23)

(3)Parry BL: Psychobiology of premenstrual dysphoric disorder.: Semin Reprod Endocrinol (United States), Feb 1997, 15(1) p55-68)

Tominaga Kunihiko (富永 國比古)
産婦人科 医師
米国公衆衛生学博士
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