日本 プロライフ ムーブメント

「端午の節句とリウマチ」

鯉のぼりと整形外科学

 万葉の時代には端午の節句に菖蒲などの薬草を摘んで健康を願った。武士の時
代になって「菖蒲」は「尚武」へと変わり、男子の誕生を祝って幟を立てた。こ
れが庶民の間で鯉幟へと変化した。鯉のぼりは「登竜門」の故事に由来し、子供
の元気な成長を願って立てられる。
 日本で鯉のぼりが普及したのは江戸時代中期のようだが、同じ頃に西洋で子供
を真っ直ぐに育てる医学が誕生した。それはフランスのニコラス・アンドレとい
う医師によってオルソペディアと名付けられた。日本語では整形外科学と訳され
るが、オルソは「真っ直ぐ」ペディアは「子供」を意味する。当時は手足や背骨
や関節が曲がった子供が多かった。今ではワクチンによってポリオが殆ど無く
なった。ビタミンD欠乏性くる病も食生活の改善で非常に稀な病気となった。脊
椎カリエスも結核が治療できるようになって激減した。しかしまだ治療が難しい
骨や関節の病気が沢山ある。その一つに関節リウマチがある。

関節リウマチとアレルギー

 関節リウマチは三十五歳から五十五歳の女性に好発し、日本全国で約九十万人
が罹患している。女性ホルモンが影響し、妊娠で改善、出産後に悪化する。縄文
人骨で関節リウマチが見つかり、この病気が日本に縄文時代からあることが確認
されている。古代ギリシャの医師ヒポクラテスが関節リウマチについて記載し
た。ギリシャ語で「リウマ」は「流れ」を意味し、なぜか「頭から流れる病気」
と考えられていた。現代では前回書いたアレルギーの一つに分類されているが、
その原因に関して完全には解っていない。
 子供が溶連菌感染症後に罹るリウマチ熱で心臓病や関節炎を起こすが、これは
溶連菌と心臓や関節の蛋白が似ていて共通の抗体が出来てしまう為だ。溶連菌に
対する抗体が心炎や関節炎を起こす所謂る自己免疫疾患だ。関節リウマチに関し
ては先行する細菌感染は認められない。
 関節リウマチという病気自体は遺伝しないが、罹り安さには遺伝性が認められ
ている。免疫に関する遺伝で、前々回書いた自己主要組織適合抗原に関わる遺伝
子(HLA遺伝子)のうち、DR4という遺伝子をもつ人が罹り易いようだ。さ
らにDNAレベルで検討され、関節リウマチにに関係する部位が明らかにされている。
 関節リウマチ患者の血中に高頻度に認められるリウマチ因子は、抗体である免
疫グロブリンIgGの構造の一部に反応する自己抗体だ。変性したIgGとリウ
マチ因子による免疫複合体が関節等に沈着し、これが補体を活性化して炎症を起
こす。腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカインが関与する。炎症は主
に関節軟骨を包む袋である滑膜に起きる。多関節の痛みと腫脹が続く。炎症性の
滑膜が増殖して関節や骨の破壊が進み、関節の変形や機能障害を来す。
 初発症状は関節の痛みと腫脹、朝のこわばりなどだ。朝のこわばりは、朝起き
て関節を動かすときに抵抗がある状態だ。特に手の指に起きるのが典型的で、一
時間以上続く。活動性の滑膜炎の症状は関節の腫脹と熱感で、指の関節では身体
に近い方の関節が侵されやすく、指先の関節では稀だ。
 関節外症状として、間質性肺炎や肺線維症を起こすと、咳や呼吸困難などが出
現する。

関節リウマチの治療

 最近は早期診断の必要性と早期からの強力な治療の重要性が指摘されている。
治療薬としては、非ステロイド抗炎症薬と抗リウマチ薬とステロイドがある。非
ステロイド抗炎症薬では副作用が少ない選択的COX2阻害剤が使われるように
なった。発症後二年以上経過すると治癒の可能性は少なくなり、また骨破壊も始
まるので、早期に積極的に抗リウマチ薬を使用する。免疫抑制剤のメソトレキ
セートは少量の間欠的使用で抗リウマチ作用を示し、これを早期に開始すること
が望ましい。これらの薬剤の使用は、手術における刃物の使用と同様、訓練を受
けた医師によって行われる。
 ステロイド剤には強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があるが、長期連用による
離脱困難や重篤な副作用が問題で安易に使用すべきではない。しかし少量の内服
で関節破壊の進行を遅らせるという報告もある。関節外症状の活動性間質性肺炎
や血管炎などが併発した場合には積極的に使用する。
 手術療法には人工関節置換術など関節の機能を再建する手術と、滑膜切除術な
ど病気をコントロールする手術がある。適切な装具の使用や、関節可動域の保持
と筋力の維持増強等のリハビリテーションも重要だ。
 TNFαに対する抗体製剤などによる抗サイトカイン療法、その他将来的には遺伝
子研究に基づいた治療薬(ゲノム創薬)の効果が期待されている。

Tanaka Masahiro (タナカ マサヒロ)
田中 雅博(1946年ー2017年3月21日)
坂東20番西明寺住職・普門院診療所内科医師
出典 藪坊主法話集
Copyright ©2004年5月掲載
2024年8月30日複製