日本 プロライフ ムーブメント

幸福と豊かさを考える責任

平成18年9月、英国の社会心理学者エードリアン・ホワイトが、世界各国の国民の幸福度の順位を示す「世界幸福地図」を作成しまた。178ヶ国を調査対象として、各国の基礎データや国際機関の報告書を調べ、8万人から聞き取り調査を行い、幸福度を調べたのです。その結果、1位はデンマーク、2位はスイス、3位はオーストリア、米国は23位、英国は41位、中国は82位、日本は90位、韓国は102位、インド125位、ロシア167位でした。アジアではブータンが8位、マレーシアが17位、台湾は68位、香港は63位、シンガポールは53位で幸福度は日本より高かったのです。つまり日本は幸福度後進国と言えるのです。 

日本は戦後、高度経済成長を遂げ、欧米と肩を並べるまでになりました。科学技術にも優れ、教育水準も高く、国民は豊かな生活を享受してきました。貧困や戦争のない平和で豊かな日本なのに、なぜ幸福度は低いのだろうか。日本は豊かさが当たり前すぎて、それゆえに幸福感がないのでしょうか。 

いっぽう「国民の豊かさ指数」というのもあります。国民の豊かさ指数とは健康、環境、労働経済、教育、文明、マクロ経済の6つに分類し、56の項目の平均値順位づけたものです。この国民の豊かさ指数の国際比較(OECD30ヶ国)では日本は第7位で、1位はルクセンブルグ、2位ノルウェー、3位スウェーデン、4位スイス、5位フィンランドで、6位オーストリア、米国は12位、英国16位、フランス18位、ドイツ19位、韓国20位でした。 

日本は環境指標が4位、健康指標が5位、逆に教育指数17位、経済指標が23位、日本の1人当たり政府累積債務、経済成長率、国際観光収入は最下位でした。また日本の労働コストの低下率は世界1位でした。前年度に比較し順位が上がったのはパソコン台数で昨年の14位から9位、順位が下がったのは家計支出が10位から17位、失業率が5位から9位、交通事故死が7位から10位でした。 

豊であっても幸福ではない。この国民の豊かさと幸福度のギャップはどこからくるのでしょうか。豊であってもストレスがある、心が満たされず不満や不安が多い、将来に希望も夢もない。よく分からない閉塞感、何のために生まれて来たのか分からない。このようなことが理由なのだろうか。確かに年間3万人以上が自殺する日本は豊であっても不幸な国かもしれません。 

昭和の30年代から40年代は貧乏でしたが、夢がありました。力道山、長島茂雄が国民を夢中にさせ、道行く人は流行歌を口ずさんでいた。幸福とは「ただ生きているだけ」の人生ではなく、目的のある、喜びのある、夢のある生き方なのです。それが立身出世であれ、学問であれ、金儲けであれ、ボランテアであれ、それらが生き甲斐につながればよいのです。生き甲斐が、学問から金儲けに変わっても、金儲けからボランテアに変わってもよいのです。生き甲斐という喜びを持てる国は幸せであり、持てない国は不幸です。まして喜びという生き甲斐を奪うような国は最低です。これまでの日本人のテーマは生活の向上でした。しかし生活は人生の一部にすぎず、人々が求めているのは「人生の充実、喜び、夢」なのです。そして相手を信頼し、連帯感を持つことなのです。 

「いかに生きて、いかに死ぬか、何をもって自分の喜びとするか」なのです。そして政治のやるべきことは、個人の生き甲斐や夢、自由や権利を奪わないことです。 

国民の幸福とは何か、日本の幸福度は調査ごとに低下しています。この幸福度を高めるにはどうすれば良いのでしょうか。多分、有識者が議論をすればするほど、悪くなるだけです。ご隠居さんならば「あまりうるさいことは言わず、好きなことを仲良く気楽にやることだね」、「お上が何かやれば、悪くなるだけだから、お上に期待するなんて、最初からダメだよ」、「不景気というけど、昔に比べれば全然ましさ、だいたい「野垂れ死に」という話しは聞いたことがないもの」、「幸福になりたい? 幸福なんて考えるから、ダメになんだ。考えれば考えるほど不幸になるよ」、「人の役に立つ喜びを共有することが一番。他人の不幸は甘い蜜だって?馬鹿を言 うんじゃないよ、他人の不幸はみんなの涙、他人の幸福はみんなの喜びでなければ」、「日本は犯罪率が世界一低く、世界一の長寿国だろ。それだけでも幸せというものじゃないかい。幸せと思えば幸せ、不幸と思えば不幸、それだけのことさ」と言うだろう。 

このご隠居さんの考えが案外正しいのかもしれない。日本人のひとり1人が他人を思いやる気持ちを持ち、それが当たり前になれば、日本人の身も心も豊かになるのです。「困った時はお互い様」という日本人の美徳を取り戻すことです。日本人の良識とやさしさの底上げによって、医療や介護だけでなく、日本そのものが良くなるものと確信しています。 

Suzuki, Atsushi (スズキ・アツシ) 
Copyright ©2010年1月29日掲載 
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