日本 プロライフ ムーブメント

どうする医療と介護(序文)

私たちはたとえ元気でも、年齢を重ねれば、いずれ病気になり介護を受けます。若者は老人になり、震災や事故で障害者になる可能性があります。このような運命を背負った私たちにとって、生命の必要経費ともいうべき医療介護の惨状をこのまま放置していてよいのでしょうか。 

救急患者のたらい回し事件、医療事故や医療訴訟の多発、勤務医不足と過重労働、相次ぐ産科や小児科の撤退、と病院の閉鎖と入院患者の強制退院による医療難民の出現。このような悲惨な現実が次々に報道され、多くの人たちは日本の医療の深刻さをある程度理解していると思います。また医療にたずさわる者は、崩壊しつつある医療を直接肌で感じているはずです。 

この危機的状況から脱却するには、原因分析のみならず、分析に基づいた改善を急ぐことです。口先だけの評論家ではなく、実態調査などの時間稼ぎはやめ、改善に向けて目を覚まし、行動しなければなりません。 

両親や祖父母のため、先輩や後輩のため、次世代の若者や子どものため、「医療崩壊から医療新生へ、介護危機から安心できる老後へ」、この道しるべをつくり、「不安のない老後、夢のある社会」をつくらなければ、私たちの生活は下からさらに下へ転がり、そして奈落へと沈んでしまいます。 

医療に関する論評のなかには、世間や政府に媚びた見当違いの論文、医療崩壊を認めず医療の効率化を唱える論文、医療や介護の古いイメージから脱しない論文などが混在しています。しかしこのような論文は紙資源の無駄のみならず、改善への道を迷わせることになります。またマスコミは表面的な事例を列挙し、感情に訴えてきますが、何ら解決策を示していません。行政に任せても、小手先だけの対策では傷を広げるだけです。今、必要なことは医療介護の現場の悲鳴を聞き、福祉行政の欠陥を指摘し、危機的現状に歯止めをかけ、新たな仕組みをつくり、平等であるべき医療、尊厳ある介護を守ることです。 

現在の医療は10年前、5年前、1年前とはまったく別物です。それは「平均寿命がこの40年間で10歳以上延びた」という世界に類をみない急速な高齢化、それを可能にした医療の進歩、それに対応できない医師不足、必要な財源を出そうとしない国や地方の財政事情。そして世界的な経済危機、さらには自民党から民主党への政権交代。このように医療や介護を取り巻く環境が刻々と変化しているからです。 

この数年間、年金問題は迷走を深め、1億総中流から格差社会へと国民の意識が変わり、医療や介護は壊滅的な状態になりました。そして私たちはそれらを導いた自民党政権に大きな失望を抱き、平成21年の夏の総選挙で民主党に歴史的勝利を与えました。この総選挙で各政党はバラ色のマニフェストを掲げ、マスコミはこの総選挙をマニフェスト選挙と位置づけました。しかし私たちが民主党を選んだのは、マニフェストの行間に書かれた「政官の利権まみれの政治から市民 中心の政治」という理念に賛同したからです。民主党の具体的政策の輪郭はまだ見えませんが、マニフェストは単なる優先課題として、国民にへつらうことなく、誤摩化すことなく、国民のための政治を断行してほしいのです。 

さいわいなことに、民主党政府には真面目に政策に取り組む姿勢がみられます。医療や介護についての具体的な内容はまだですが、肝心なことは医療や介護を 従来の「社会保障」という生ぬるい言葉で捉えるのではなく、「国民の生命を守る安全保障」と認識を改め、医長や介護を含む福祉政策を大きく転換し、国民の切望に答えてほしいのです。本格的な超高齢化社会を目前にひかえ、医療介護をこのまま放置すれば、私たち全員が不幸になるだけでなく、私たちの命さえ危ぶまれることになるからです。民主党は「医療介護のあるべき姿」を明確にして、泥をかぶってでも日本の将来を明るくしてほしいのです。 

子どもが夢をもち、若者の瞳が輝き、長生きを喜びとする社会にするには、安心して暮らせる将来保障が前提になります。もはや過去の政治責任を追及している余裕はありません。むしろこれまでの政治の過ちを検証し、過ちを教訓として改善の道を急ぐべきです。そして患者が求めている医療、高齢者が必要とする介護、私たちが求める福祉、これらを何としても実現しなければなりません。 

私たちは、私たちの1票で、民主党に日本の未来を託しました。任せた以上、民主党の政策を見守ると同時に、私たちも古い考えを捨て、日本再生に参加する気概が必要です。日本の社会を崩壊させ、自殺大国を導いたのは天災ではなく回復可能な人災といえます。病魔におかされた医療政策からの脱却、心ない介護政策からの解放、弱者いじめの社会構造の打破。これら人災にメスを入れ、黄昏のなかで沈没寸前の日本を、私たち1人ひとりの力で立て直すことが必要です。 

Suzuki, Atsushi (スズキ・アツシ) 
鈴木 厚(内科医師) 
Copyright ©2010年2月18日掲載 
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