オリンピックもいよいよ大詰めを迎えました。コロナとの闘いの中、無観客試合がほとんどという史上まれにみる異例の大会でした。それでも、アスリートたちの活躍は感動を与えてくれるものが多く、ついつい引き込まれてしまったのではないでしょうか。数多くの印象的な試合の中で、女子ソフトのライバル米国を破っての優勝は格別でした。先発の39歳上野由岐子投手の粘投、20歳の若手リリーフ後藤希友投手の抑え、ともに見事でした。
13年ぶり連覇の立役者で優勝投手の上野由岐子さんは大のアンパンマンファンという記事が目に留まりました。彼女の部屋はアンパンマングッズで飾られているそうです。アンパンマンこそ<ソフトボールにおける大事な精神を象徴する>存在と考える彼女は、こんな発言をしています。
“自分を犠牲にして何かを助けようとするじゃないですか。話の中でも、自分の顔をちぎってあげたりとか、そういう優しさっていうか、人のために働けることがすごいと思うし、いいですよね。このキャラクター、好きです”。
国民的キャラクター「アンパンマン」の生みの親は2015年10月に帰天した、やなせたかしさんです。氏は日本漫画界の長老として多くの人に尊敬されていました。詩人でもあり、イラストレーターでもありました。彼が生み出す作品はいずれも、愛と優しさ、普遍的な正義に満ちていて、その作品やメッセージと本人の生き方が見事に一致しているという意味でも稀有な存在でした。彼の作品によって、どれほど多くの子供たちが励まされたことでしょうか。実は、『ローマ教会のカテキズム』の青少年版テキスト『YOUCAT』の中にも、やなせたかしさんの言葉が引用されているのです。質問331の<世の中に不平等があるのは、なぜ?>という質問の答えのところに、次のような言葉が引用されています。
「正義とは実は簡単なことなのです。困っている人を助けること。ひもじい思いをしている人に、パンの一切れを差し出す行為を“正義”と呼ぶのです」(やなせたかし)
氏は聖公会の洗礼を受けたクリスチャンでした。彼の作品の根底に、単なる善悪二元論を超えた超越的な正義感や、ひたすら他者を喜ばせるという、キリスト教的な愛の精神が流れていることに気づく方は多いのではないでしょうか。
例えば、次のような語録です。
・「人生で何が一番うれしいかというと、人を喜ばせること。人を喜ばせることで、自分もうれしい」
・「お互いに相手を喜ばせれば、何もかもうまくいくいはず」
・「アンパンマンは世界一弱いヒーローだけれど、自己犠牲の精神なんだよ」
・「自分はまったく傷つかないままで正義を行うことは非常に難しい」
・「困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、立場が変わっても、国が違っても『正しいこと』には変わりません」etc.
もしかすると、パンである自分を食べさせて他者を救うアンパンマンの原型は、イエス様なのかもしれません。
「わたしは、天から降ってきた生きたパンである。このパンを食べるならば、その人は永遠に生きる」(ヨハネ6章51節)
Matsuo Mitsugi(マツオ ミツギ)
松尾 貢
主任司祭
Copyright ©2021年8月8日
掲載許可取得日 2025年8月6日(電話にて)