日本 プロライフ ムーブメント

私の「現代環境論」(6)人口・食料

「人口爆発」の時代

20世紀の特徴のひとつが「人口爆発」の時代だということはよく知られたことです。
人類はそのあゆみとともに人口を増加させてきました。その歴史をふりかえると、瞬間的に激減したこともありますが、基本的に増えつづけてきたのです。人口の増加は、食糧・エネルギーの需要を増加させ、そのバランスが崩れるとき、その文明は亡びることにもなりました。文明の興亡を決める一つの要素が人口の増加ということでした。
しかし、長い歴史を見渡した時、人口が増え続けたといってもごく限られたものでした。
局面が大きく変わったのが産業革命でした。産業革命後、人口は急速に増えはじめ、それとともに食糧・エネルギー問題もあらたな段階を迎えました。この流れをうけた20世紀は、ポール・エーリック『人口爆発』が象徴するように、「人口爆発」の時代であったのです。
世界の人口の推移の推移をみると、20世紀のはじまりは16億人、1950年は25億人、
20世紀末は63億人、そして、いまや約78億人に達しています。
世界の人口は、このままいくと、近い将来90億を超えるのでは、と見込まれています。英エコノミスト編集部『2050年の世界』によると、とくに人口増が目立つのはインド、アフリカなどだといわれています。これに対し、先進国は停滞傾向、高齢化傾向がみられるとのことです。 
各種の近未来予測が出されていますが、当分、世界の人口が増えるという点では一致していますが、人口増がいつまで続くのかとなると、見通しが分かれるようです。
最近、日本語訳が出たダリル・ブリッカーらの『2050年世界人口大減少』などは、書名のとおり、2050年くらいになると世界人口は減り始め、もとにはもどらなくなる、その予兆的な動きはすでに各地でみられる、と指摘しています。
このような人口増加(減少)と環境問題がどのような関わりをもつのか、さまざまな角度から考えてみる必要がありそうです。

世界の食料問題

食料問題もそのひとつです。増え続ける人口に見合った食料を確保できるのかどうかという問題です。
最近、食糧生産の制約要因が目立ってきたといわれています。すなわち、干ばつ、砂漠化の進行などにより生産適地が減少し、加えて気候変動の影響も現実のものになってきたというわけです。この間、「緑の革命」ともいわれましたが、農薬や化学肥料の多用によって生産力の向上をはかってきましたが、今後、これまでのようにはいかなくなっているといわれています。
他方で、世界で多くの人が飢餓で苦しんでいるといわれますが、この問題も簡単ではありません。絶対的に食料が足りないという見方があるいっぽう、食料があっても社会的・政治的な事情により食料が公平に配分されていないのが現実だという見方もあるのです。また、何らかの事情によって国際的な物流がストップした場合、国際的に食料価格が急騰することも考えられるとの指摘もあります。
最近では食料市場が一部の多国籍企業によって独占される傾向があるとの指摘も無視できないでしょう。

日本の食料問題

このようななかで、日本の食料問題に目を向けると、「食料自給率37%」の現実が見えてきます。これは、先進国の中でもとくに目立つ数字です。これでよいのか、どうしてこうなってしまったのか、今後どうするのか、よく考える必要があります。
ところで、食料自給率という場合、カロリーベースの数字で言われることが多いのです。37%というのもカロリーベースの数字です。食料自給率には金額ベースの数字もあります。また、いまではあまり使われませんが、穀物自給率という数字もあります。
いずれにしても日本の食料自給率は下がり続けてきました。1960年代のはじめには70%の食料自給利であったものが、いまや37%まで下がってしまったのです。農林水産省の政策目標では食料自給率の引上げが長年掲げられていますが、達成の見込みはほとんどありません。
このようななかで、農林水産業に未来があるのかというきびしい問いかけがされるにいたっています。
他方では、「食品ロス」の問題があります。まだ食べられる食品をごみにしてしまう「食品ロス」削減も緊急の課題だといえます。この問題はごみ問題でもありますが、食料問題という視点から見ても重要な問題だということができます。

日本の人口問題

世界の人口増加の流れのなかで、戦後、日本の人口も増え続けてきましたが、1億2800万人くらいをピークに人口減少の時代になったといわれています。まわりをみてもあきらかに少子化、高齢化が目立ちます。日本の人口減少の未来図も示されるようになりました。なぜ日本の人口は減少するのか、人口減少の先にあるのはどんな社会がまっているのか、人口減少と環境問題の関係はどうなるのか、など、検討すべき問題が数多くありそうです。
このような日本の人口減少の動きは、世界の人口の今後を考えるうえで一つのモデルになるともいわれています。

Tuyoshi Hara
ハラ ツヨシ
原  強
2021期 立命館大学講義テキスト
2021年10月29日複製許可を得る
2022年4月29日複製