日本 プロライフ ムーブメント

マスコミに報道されなかった意図的な死の現実

30年以上前、私が看護婦になりたてだったとき、その他の面ではとても教養のある祖母が、病院に入院するのが恐いと打ち明けました。「病院には黒い壷があると聞いているわ。非常に多くの全く健康な人がそこに入って行ったけど、そこから出てこなかったことを知っているわ。」と祖母は言い張ったのでした。 

その時私は黒い壷のことを一笑に伏しましたが、もはや笑うことはできません。1997年、オレゴン州の有権者は、黒い壷と同様の医者による自殺幇助として知られている安楽死に賛成したのです。 

この法律の成立を絶賛する報道がマスコミを賑わしました。しかしよく見れば、この巧みに作られた外観には大きなひび割れが見えるのです。 

その適切な事例は、つい最近報道された昨年10月にオレゴン州であった医者による合法的な自殺幇助の例です。それが報道されたのはオレゴン州においてだけでした。それ以外の州のマスコミは意図的に報道しませんでした。 

85才のケイト・チェイニ-は、末期ガンと診断され、彼女が薬物による死を求めたとき、彼女には痴呆の進行の兆候が見られました。彼女は、耐えられないような苦痛が生じた場合や身体的機能の喪失が耐えられなくなった場合に備えて、自殺という選択肢がほしいと言いました。チェイニ-夫人は、そのような決定を下す彼女の精神的な能力を疑問視した医者によって、自殺の要求を却下されていましたが、娘のエリカは、オレゴン州の医者による自殺幇助法の誇らしい安全策は母親の死の障害とはならないと確信していました。エリカは母親を別の医者のところへ連れていき、最終的にチェイニ-夫人の健康管理団体の中から自殺に賛同してくれる医者であり倫理学者である人を見つけました。そのような医者探しと自殺幇助を求める家族の熱意は稀なことではないのです。 

死ぬ権利の保障にもかかわらず、医者による自殺幇助は、他の全ての治療が効かなくなった場合、外部からの抑えがなければ薬物による自殺を選ぶ可能性のある、耐えられない苦痛の状態にありながらも判断力がある末期状態の人には厳格に留保されるでしょう。チェイニ-夫人のケ-スは合法化された自殺を規制することができると信じている人々にとってはよい教訓となる話です。 

疼痛除去促進法案の成立へオレゴン州の有権者が1997年に、医者による自殺幇助の法律に賛成して以来、報告されている全てのケ-スで、バルビツル酸塩のような規制薬物が使われています。このことは問題となりました。なぜなら、このような物質を使用することは、医者がこのような物質を使用することを合法的な医療と認めず規制してきた1970年に成立した規制薬物法に違反するように思われるからでした。 

実際、最初アメリカ麻薬取締局の取締官のト-マス・コンスタンチンは、患者のいのちを終わらせるためにこのような薬物を使用することは正当な医療行為ではないと決定を下しました。しかし後になって、司法長官のジャネット・リノ-はこれを覆して、何が合法的な医療行為であるかを決定する権限は州にあると主張しました。(皮肉なことに、ジャネット・リノ-は、有権者が医療目的のマリファナの使用に賛成をした時、カリフォルニア州には医療目的のマリファナの使用を合法化する権限はないとする前の決定を実際に支持したのです。) 

ジャネット・リノ-の行動に対して、アメリカ合衆国下院は11月に圧倒的多数で「疼痛除去促進法」を可決しましたが、その法律は意図的に患者の死をもたらすために規制薬物を使用することを規制するばかりでなく、患者のケアと症状の緩和の手段の提供をも行ないました。 

このことは大部分のマスコミの憤慨に会うことになりましたが、そのマスコミは安楽死を中絶と同じような選択の問題だとみなしているように思われます。ニュ-ヨ-クタイムズ紙のような、中絶や学校の選択のような分野における州の権限を拡大させることに対する反対の立場の忠実な支持者は今、オレゴン州は連邦政府の規制を受けない自殺幇助の方針を追求することが認められるべきだと主張する立場に変わっています。オレゴン州選出の上院議員のロン・ワイデンが、疼痛除去促進法案が法律になるのを妨げるために上院の議事妨害をするぞと脅しをかけたため、上院での投票が今日まで遅れているのです。 

死ぬ権利の支持者の反応

特に今年他の4つ州でも現在同様な自殺幇助法が検討中という理由で、強力な安楽死運動もまたオレゴン州の自殺幇助法を守るために活発に行なわれました。疼痛除去促進法案は自殺幇助を禁止することになるだろうというマスコミの報道に反して、その法案は自殺幇助のために規制薬物を使用することのみを禁止するものです。しかし安楽死の支持者は安らかな死を保証するためにそのような薬物と医学の関与が必要だと主張しています。 

したがって、自殺幇助の支持者は、アメリカ医学協会やアメリカ看護婦協会や全国ホスピス協会のような団体に、その法案に反対するように圧力をかけました。アメリカ看護婦協会は実際に、その法案に反対であると表明しましたが、他の団体は、たくさんの医療協会や、疼痛除去協会や、ホスピス協会とともに、その法案を支持しています。 

その法案が考えられていたさなかに、自殺幇助を禁止する法律に抵触しない自殺の方法を議論するために、死ぬ権利を支持する国際的な団体の会議をシアトルで開いたことによって安楽死運動は予想外に知れ渡りました。安楽死の合法化を推進しているウエブサイトのひとつである「デスネット」によれば、その会議はまた、医者による自殺幇助の合法化に西洋全体の議員が抵抗していることが、人々に「無認可の」策略や手段を使わせているということを示す一つの手段だったのです。会議の大部分は、伝えられるところでは、意識の喪失や苦痛を伴わない窒息を引き起こすためのビニ-ル袋やヘリウムのようなガスの使用に関することでした。(個人的には、私はなぜガレ-ジを閉めてエンジンをかけるような旧来の自殺の方法が公然と話されなかったのかが不思議です。) 

生と死に関する他のニュ-ス

クリスマスの奇跡と呼ばれているケ-スにおいて、42才のパトリシア・ホワイト・ブルさんは、一番下の子どもの分娩中に酸素不足に陥ったのが原因で植物状態が16年間続いた後に目覚めたのでした。最近の数年間、彼女は老人ホ-ムで完全看護を受けていました。彼女は栄養管で栄養補給を受け、伝えられるところでは、クリスマスイブに突然話し始めるまでは全く刺激に反応することはなかったとのことです。 

このような状態から徐々に回復をする大抵の患者と違って、ホワイト・ブルさんは驚くべき速さで快方に向かっています。彼女は今食事をしたり、支えてもらって歩いたり、手紙を書くことさえしているのです。彼女の担当医は、予後は良好だと言っています。ホワイト・ブルさんの夫は、絶望的だと宣告されたときに彼女と離婚したのですが、彼女が望むなら喜んで再び結婚生活に戻りたいと今言っています。 

皮肉なことに、ホワイト・ブルさんの回復は、彼女のようないわゆる植物状態にある人々ばかりでなく、痴呆症の患者からも栄養管を取り除くように新たな圧力がかかっている時に訪れたのでした。 

1999年10月、アメリカ医学協会の機関誌に、痴呆症の老人に栄養管で栄養補給をすることは患者にとってメリットよりもデメリットの方が多いという内容の記事が掲載されました。同様の記事が、2000年1月の「ニュ-イングランド医学ジャ-ナル」にも掲載されました。両方の記事とも新しい研究には全く基づいておらず、様々な患者における栄養管の使用に関する30年も前の研究の再検討に基づくものでした。両方の記事とも、もし口からの栄養補給ができなければ、老人ホ-ムの推定10%の痴呆症と診断された患者から栄養管による栄養補給を日常的に打ち切ったり、控えたりできるように老人ホ-ムの方針と老齢・身障者医療保険制度のガイドラインの変更に賛成するものでした。「ニュ-イングランド医学ジャ-ナル」の記事はさらに、医者と一般大衆が進行した痴呆症を末期状態の病気であると考えることが一般的にできないことを嘆くものでした。なぜならそう考えられるようになれば、治療方針におけるこのような変更が容易になるからでした。 

両方の記事とも、痴呆症の患者に栄養管で栄養補給することにはほとんどメリットは無いと述べ、さらに栄養管による栄養補給には延命の効果はないという驚くべき主張までしました。 

それどころか、その記事は栄養管を、死そのものまでも含んだ危険な合併症の危険をはらんでいると表現しました。栄養管そのものが非常に不快なために、患者が栄養管を抜かないように多くの患者の腕を縛っておかなければならないと述べています。このことで私は数年前のメアリ-・ハイア-のケ-スを思い出しました。メアリ-は痴呆症があり、自分がイギリスの女王だという妄想を持っていました。親族は栄養管による栄養補給の問題のためではなく、むしろ彼女を死なせてあげることができるように、栄養管を抜くための訴訟をおこしました。メアリ-・ハイア-のケ-スは、ある日ボストンの新聞に、ロ-ズ・ケネディ-が栄養管を挿管する簡単な手術を行なったという短い記事とともに正しく報道されました。倫理学者は、栄養補給と水分補給の打ち切りによる死を快く思わない医者や看護婦や家族の数に長い間関心を持ってきました。飢えと脱水の影響を最小限におさえつつ栄養管によって患者に栄養補給をすることには恐ろしい結果が生じると主張している記事が、気の進まない医療関係者に、栄養補給と水分補給の打ち切りが痴呆症の患者を扱う最も優しい方法だと納得させるのはなかなかでしょう。 

大部分は報道されていませんが、ロ-マ法王ヨハネ・パウロ2世は栄養管による栄養補給の問題に関して1998年10月に力強い声明を発表しております。 

いのちを擁護する全キリスト教会の取り組みの成果が進展しているので、カトリック教会のカテキズム(2278)で「熱心すぎる治療」と呼ばれているところの患者の負担になったり、危険であったり、予想される結果と不釣り合いな医療を続けないことと(いのちの福音:65参照)、栄養補給や水分補給や通常の医療のような生命を維持する一般的手段を打ち切ることとの実質的な倫理的相違点を明確にするために大きな教育努力が必要とされています。アメリカ合衆国司教のプロライフ委員会の声明「栄養補給と水分補給:倫理的司牧的考察」は当然のことして、患者の死をもたらすために栄養補給と水分補給を怠ることは拒否されなければならないということと、関わる全ての要素に注意深い配慮をしながらも前提は必要とする全ての患者に医学の助けを受けた栄養と水分の補給の提供に賛成するものでなければならないということを強調しています。この区別を曖昧にすることは、数限りない不正とそれに伴う多くの苦悩の種をもたらし、すでに病気と加齢による体の機能の低下にすでに苦しんでいる人々とその最愛の人々に大きな影響を与えるのです。 

私たち全てのものが、ロ-マ法王とともにあらゆる種類の安楽死と闘い、全ての人間のいのちと尊厳に対する新たなる敬意を復活させようとするこの大きな教育的努力に取り組むことができますように。 

References:

  1. “Rethinking the Role of Tube Feeding in Patients with Advanced Dementia”, The New England Journal of Medicine January 20, 2000 Vol. 342, No. 3, by Muriel R. Gillick, MD.
  2. “Does Tube Feeding Prevent the Consequences of Malnutrition? A Review of the Evidence”, Journal of the American Medical Association, Vol. 282 No. 14, October 13, 1999 by Thomas E. Finucane, MD; Colleen Christmas, MD; Kathy Travis, MD.
  3. “Is Mom capable of choosing to die?”, by Erin Hoover Barnett, The Oregonian, Saturday, October 16, 1999.
  4. “Miracle Awakening After 16 Years Woman Out of Vegetative State After 16 Years”, By Shawna Vogel of ABC NEWS.com, 12/29/99.
  5. Oct. 2, 1998 EWTN Feature Story “Pope Tells American Bishops: Fight Death Culture”, full text of an address delivered by Pope John Paul II to the bishops of California, Nevada, and Hawaii. The American bishops were in Rome for their ad limina visit.
  6. Information on groups supporting and opposing the Pain Relief Promotion Act from private correspondence with Richard Doerflinger, NCCB. 

Valko, Nancy (ヴァルコ、ナンシー)
Copyright © 2002
2002.9.5.許可を得て複製
英語原文 www.lifeissues.net