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「教会は正直でなければならない」

イタリア日刊紙イル・フォリオは1日、先月27日の枢機卿会議でのヴァルター・カスパー枢機卿( 前キリスト教一致推進評議会議長)の開会スピーチの全文を掲載した。テーマは教会の夫婦・家庭牧会への新しい捉え方だ 。フランシスコ法王はスピーチを高く評価したという。同内容は今年10月の世界司教会議で協議される「夫婦と家庭」 に関する基本テキストと見なされている。 

そこでカスパー枢機卿のスピーチの中から注目すべき発言を紹介する。 

フランシスコ法王は昨年11月28日、使徒的勧告「エヴァンジェリ・ガウディウム」(福音の喜び)を発表し、 信仰生活の喜びを強調したが、カスパー枢機卿はその演説の初めに「家庭は文化的危機に直面している」 という法王の嘆きを引用し、「家庭の伝統的な文化は個人主義と消費主義の挑戦を受けている」と語った。 

「経済・労働条件は家庭生活をより困難にしている。家庭を築くことに不安を感じ、子供の数も制限される状況下にある。 教会はそのような人々の喜びと苦しみを共有すべきだ。多くの若者は安定した家庭の下で幸せを求めている。 教会の教えと信者たちの現実には大きな亀裂があることを正直に認めざるを得ない。教会の教えは今日、 多くの信者たちにとって現実と生活から遠くかけ離れている」と指摘し、「イエスの教えの根源に戻ることだ。 家庭の福音は負担ではなく、喜びの福音であり、光と力だ」という。 

カスパー枢機卿は、「欧州のキリスト教社会ではこれまで当然だったものが崩壊してきた。多くの人が洗礼を受けるが、 福音化していない」と主張。離婚者や 再婚者問題に言及し、「この問題は解決が難しいが、対応しなければならない。しかし、 この問題をサクラメントの是非の問題に縮小してはならない」と釘を刺している。 

その上で旧約聖書の創世記を引用し、「神は自身の似姿として男と女を創造された。だから、 人は独身として創造されたのではない。 社会が男と女をつくり出すといったイデオロギーから男と女を同権とすることでエロスと愛を破壊している。 相違をもつ同じ価値の存在だから、相互引き合うのだ。創世記の創造観点から、 夫婦はそれだけで成り立っているのではない。新たな命を生み出すことを切り離された夫婦はあり得ない。 子どもは神の祝福だ、最も価値あることは新しい命を生み出すことだ。家庭は単なる個人的な私的な集まりではなく、 社会の基本的な生き生きとした細胞だ。国家の基本的なモデルでもある」という。 

ちなみに、カスパー枢機卿は、 1960年代後半から起きた女性解放運動ウーマンリブに大きな影響を与えたフランス実存主義者シモーヌ・ ボーヴォワールの 「第2の性」の有名な一節、「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」という思想に対し、 明確に反対を表明しているわけだ。 

次は夫婦の永続性について、「アウグスティヌス(古代キリスト教神学者、354~430年) は夫婦の永遠の絆という教えを作り上げた。今日、多くの人は その教えを理解するのに困難を感じている。男と女の結びつきは神との結びつきだ。 イエスの福音は家庭教会で具体化される。家庭教会は初期キリスト教で大きな役割を果たしてきた。第2バチカン公会議( 1962~65年)でも家庭教会という概念は登場している。教会は苦しむ人々と同じ目線から牧会すべきだ。 教会は家庭で人生の現実に直面する、それゆえに、牧会の試金石だ」と述べている。 

世界の司教会議はフランシスコ法王の要請を受け、「家庭と教会の性モラル」(避妊、同性婚、離婚などの諸問題) に関して信者たちにアンケート調査を実施した。 各国司教会議が実施した信者へのアンケート結果は今年10月5日からバチカンで開催予定の世界代表司教会議で協議され る。カスパー枢機卿の開会スピーチは、 教会の教えと信者の現実の間の溝を何とか克服しようとするフランシスコ法王の意向に沿ったものだけに、 その内容はかなり衝撃的だ。 

Editorial (オピニオン)
国連記者室 
出典 ウィーン発『コンフィデンシャル』
2014年3月4日掲載 
Copyright ©2014.5.25.許可を得て複製