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神よ、ネタニヤフ氏にアドバイスを

少々突飛な響きがするかもしれないが、ネタニヤフ首相の悩みを解決するためには「神のアドバイスが不可欠だ」という結論に達したので、今回のコラムのタイトルとなった。


奇妙なことだが、ネタニヤフ首相はロシアのプーチン大統領以上に欧州では嫌われ者になっている感がある。理由はガザのパレスチナの人々の惨状がここにきて度を越してきたからだ。連日,飢餓に苦しむパレスチナの人々が食糧配布所に鍋を持参して殺到する姿がニュースで放映されている。それを見るだけでも辛い。そしてその非人道的な状況を生み出したのはイスラエルのネタニヤフ首相の頑迷な「ハマス壊滅」政策にあるということから、同首相は国内外から批判され、糾弾されている。

ネタニヤフ氏は非情な政治家ではないと信じている。空腹で苦しむパレスチナの子供たちの状況が分からないのではない。ひょっとしたら、誰よりも理解しているかもしれない。それではなぜ、ネタニヤフ氏はガザのパレスチナの人々に医療品、食糧を支援しないのか、なぜ軍事攻勢をストップしないか、と当然言われるだろう。しかし、ネタニヤフ氏は出来ないのだ。だから、悩みが出てくるのだ。

ネタニヤフ氏の悩みについては、このコラム欄で「ネタニヤフ氏『ハマス壊滅』の深層心理」(2025年3月17日)と「指導者が『神の祝福』を失った時」(2025年3月31日)で書いたので再読していただければ幸いだ。

少し説明する。ネタニヤフ氏は2023年10月28日、突然、「アマレクが私たちに何をしたかを覚えなさい」と述べた。アマレクについては旧約聖書「申命記」や「サムエル記上」に記述されている。モーセがエジプトから60万人のイスラエルの民を引き連れて神の約束の地に向かって歩みだした時、アマレク人は弱り果てていたイスラエルの民を襲撃した。「アマレク人は神を恐れなかった」と記述されている。ネタニヤフ首相は当時、「ハマスの奇襲テロ」を「アマレク人の蛮行」と重ね合わせて語ったのだ。

神は預言者サムエルを通じてユダヤ統一王国初代国王サウルに「今、行ってアマレクを撃ち、そのすべての持ち物を亡ぼし尽くせ」と命じたが、サウルはアマレクと闘い、勝利したが、アマレク人の王アガダを人質にして生かし、勝利品のよきものを残した。それを知った神はサウルに激怒し、「あなたは私の言いつけを守らなかった」と述べ、神の祝福はその後、サウルから離れていった。

この話をネタニヤフ氏に当てはめる。神はイスラエルの民1200人以上を殺害したハマスを壊滅せよと命じた。ハマスを生かしておけば、遅かれ早かれ彼らは再武装化し、イスラエルにテロを再び仕掛けてくるだろう。だから、ハマスを壊滅しない限り、イスラエル国家の安全は保障されない。ましてや、それが神の願いならば、ネタニヤフ氏には他の選択の余地がない。

神への信仰にはある意味で絶対的な献身が要求される。都合のいい時は信じ、都合が悪くなれば信じないといったことはできない。「ヨハネの黙示録」に記述されているように、「冷たいか、熱いか」のどちらかであるべきだ。最悪のシナリオはなまぬるい状況だ。

ネタニヤフ氏は「ハマス壊滅」を貫徹するか、ある段階で妥協して停戦に向かうかを考えるだろう。その場合、国際情勢や同盟国米国の出方も検討されるだろう。ネタニヤフ氏を批判する声は彼の耳にも届いている。「ガザでの軍事攻勢はこれぐらいにして終わるべきだ」という声が外からだけではなく、彼自身の内からも出てくる。

ネタニヤフ氏の悩みはトランプ米大統領やプーチン大統領のそれらとは異質だろう。神に約束したことを完全に貫徹するか、中途半端でやめるかの間にあって、ネタニヤフ氏は悩んでいるのだ。そんな悩みを抱えている政治家は多くはいないはずだ。

トランプ氏はガザ区のリゾート構想をネタニヤフ氏の耳元で囁いている。トランプ氏は神の召命を受けていると豪語していたが、同氏はひょっとしたら予言者かもしれないが、神ではない。

ドイツ・ナチス政権下で600万人の同胞を殺害されたユダヤ民族には、アウシュビッツ解放後、「なぜあなたは苦難にあった我々を見捨てたのですか」と神の不在を糾弾するユダヤ教徒が多く出てきた。それ以後、受難の民族ユダヤ人は神に問いかけることに躊躇しだした。しかし、答えは神からしか来ない。神がネタニヤフ氏の悩みに耳を傾け、適切なアドバイスをしてくれることを願う。ネタニヤフ氏には謙虚になって神に祈り求めてほしい。

Editorial (オピニオン)
国連記者室 

出典 ウィーン発『コンフィデンシャル』

Copyright © 2025年05月26日
2025年5月26日許可を得て複製