1938年11月09日は「11月のポグロム」の日だ。ドイツ、オーストリア、チェコスロバキア(当時)でユダヤ人が経営する7000軒以上の店舗や約250のシナゴーグ(ユダヤ教会堂)が燃やされ、ユダヤ人の墓や学校は破壊された。ナチス・ヒトラー政権のユダヤ民族へのホロコーストの始まりを告げた日だ。多数のユダヤ人は虐殺された。路上の飛び散ったガラスが夜の明かりを受けて水晶のように光っていたことから、「水晶の夜」(クリスタル・ナハト)と呼ばれた。
このことは前日のコラムで紹介したが、その51年後の1989年11月09日は東西両ドイツを分断してきた「バルリンの壁」が崩壊した日だ。ユダヤ民族を殺害した「クリスタル・ナハト」と、ドイツ民族を東西に分断してきた「ベルリンの壁」の崩壊の日が全く同じ日に起きている、という歴史的事実は非常に興味深い。
1989年11月09日、旧東独政府の旅行自由化に関する発表が混乱を招き、ベルリン市民が壁に殺到、その結果、国境検問所が事実上開放された。夜には多くの市民が壁に集まり、ハンマーなどで壁を壊し始め、翌11日からは壁の撤去作業が始まった。51年前、ユダヤ人の商店街を襲撃し、ショーウインドーを破壊したハンマーは今度は「ベルリンの壁」の破壊に使用され、旧東独のベルリン市民の自由をもたらしたわけだ。
「ベルリンの壁」崩壊は、ドイツ統一への大きな一歩となり、翌1990年10月3日に東西ドイツは統一された。ベルリンの壁の崩壊は、約40年続いた東西の冷戦終結を象徴する出来事だったわけだ。
オーストリア最大紙「クローネン日曜版(11月09日)でオーストリアのシェーンブルン枢機卿は定例のコラム欄で、「クリスタルナハト」と「ベルリンの壁」崩壊が同じ日に生じたことについて言及し、「破壊され、苦悩を残した出来事(11月のポグロム)で歴史は終わらず、復活と生命をもたらす世界へと導く(人間を弾圧し、迫害してきた共産主義国旧東独を打ち破り、自由と民主主義の世界が生まれてくる)」と述べている。
新約聖書「ヨハネによる福音書」第2章では、イエスは「この神殿をこわしたら、私は3日のうちに、それを起こすであろう」と述べている。律法学者たちや弟子たちは当時、イエスの言葉を理解できなかった。実際、エルサレム神殿は西暦70年、ローマ帝国軍によって完全に破壊され、多くのユダヤ人は殺害され、それ以外はディアスポラ(離散)となっていく(第一次ユダヤ戦争)。
その後、キリスト教徒は復活したイエスの福音を世界に述べ伝えていく。そして西暦312年、コンスタンティヌス帝がミラノ勅令を発し、キリスト教を公認。西暦392年、テオドシウス帝がキリスト教をローマ帝国の国教とした。キリスト教の初期歴史は、迫害され、苦悩の道を歩まざるを得なかったが、それで終わらず、必ず復活し、生命を蘇らせてきたことを教えているわけだ。
先述したように、「11月のポグロム」と「ベルリンの壁」崩壊は同じ日に起きている。それは単なる偶然ではなく、神が一定の数理性を持って人類を導いているのを強く感じさせるのだ。
Editorial (オピニオン)
国連記者室
Copyright © 2025年11月10日
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