山のあなた
以前私は、人が住む場所によって物の見方にどんな影響があるのか興味を持ち、『四雁川流景』という短編集を書いたことがある。水の豊かな架空の町で、湿地帯や盆地の中央部、坂の途中や丘の上、あるいは古代の墓地跡に建てられた高層ビルなど、主人公の設定次第で住む場所も自然に選ばれ、土地の力(地霊)によって物語が動きだしたような記憶がある。 その際、特に重視したのは、その家の窓からどんな景色が見えるのか、ということだ。不穏な気分も楽観的な見方も、なぜか日常的に眺める風景が呼び寄せるような気がする。「四雁(シカリ)」とはアイヌ語で「うねうねと流れる水」で「イシカリ(石狩)」にも共有されるが、その川と山々がどう見えているのか、全体の地図まで描いてそれぞれの物語を書き進めたのである。
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