日本 プロライフ ムーブメント

経口中絶薬の真実

 

いのちの危機が迫る幼子の隣人になりましょう。

2020年1月に日本で初めて患者が確認されてから、新型コロナウイルス感染症は全国民の最大関心事となっています。死者数は毎日数十人と報道されています。多くの重症者の方々もおられます。若年者から高齢者まで、いつ感染して同様の状態になってしまうのかという恐怖感の中で生活している状態ではないでしょうか。新しい変異ウイルス感染報道で恐怖に震えたり、ワクチン接種業務の遅滞や医療ベッドの不足を声高に非難するのもその流れからでしょう。

 その一方で日本では毎日約500人もの私達と同じ人権を持った赤ちゃんが、最も安全なはずの母のお腹の中で、いのちを奪われていますが、赤ちゃんはその危険から助けてと、声すら上げられないのです。更にここに来てお腹の赤ちゃんにとって、大変な危機が訪れようとしているのです。現在堕胎手術は産婦人科医の手で行われていますが、何と母親が自らの手で薬物を使って行う経口堕胎剤の製造・販売承認がなされようとしているのです。薬物による堕胎は「ミフェプリストン」(別名RU-486)と「ミソプロストール」という2種類の物質を順番に服用することで行われます。「ミフェプリストン」は黄体ホルモン作用を阻害し、子宮内膜を非妊娠状態とさせてしまう為、胎児や着床している胚への栄養が絶たれ、子宮内で餓死させられ命を絶たれてしまいます。二日後に子宮収縮剤の「ミソプロストール」を投与して死滅した内容物と血塊を排出させて堕胎が行われます。多量の出血等重篤な副作用例もあり、決して手術よりも簡便・安全と言えるものではありません。

 多くのケースで2週間近く強い腹痛と嘔気が認められ、膣からの出血は更に長期間続く事もあります。時に止血手術を要する大量出血や感染症も引き起こします。また子宮内容物の排出が不完全で遷延化し、結局掻把手術が必要になるケースが数%発生しています。経口堕胎剤による堕胎は医療機関内ではなく、自宅で女性自身によって行われる為に、緊急時にも医師の治療が受けらず大変危険な事もあります。また投与前には子宮外妊娠、子宮内避妊具使用、副腎障害、ステロイド薬使用、抗凝血剤使用の有無等を、超音波検査も含めて厳重にチェックする必要があり、怠ると死に至る危険すらあります。

 また手術との安全性の比較においては、掻把術ではなくて副作用の少ない吸引法と比較しなければ正確ではないのです。経口堕胎剤の使用は、吸引法手術よりも、母体の危険も苦痛もはるかに大きいのです。勿論吸引手術によるものであれ、薬剤によるものであれ、堕胎は妊娠の継続が母体の死を招く場合のみに限定されるべきものである事に違いはありません。製造販売が承認され市場に流通すれば、完全にコントロールする事は不可能で、母体保護法の規定を無視した個人による堕胎が急増する恐れがあります。また多くの女性がその副作用によって重大な健康被害を受ける危険も考えられます。

 子どもの数・出産間隔及び時期等を女性がコントロールし決定する事は国際的にも認められています。つまり妊娠につながる性行為を女性がコントロールする事は可能であり必要な事です。しかし、授かったいのちを手術や薬物など、その手段の如何を問わず堕胎する事は、このコントロールする範疇に入らず、私達と同じ人権を持つお腹の赤ちゃんの生きる権利を奪う事です。最も弱者であるお腹の赤ちゃん・胎児への残酷な差別となります。多くの女性の健康を守り、幼い全ての命を守る為に、私たちは経口堕胎剤「ミフェプリストン」の製造販売承認に反対する必要があると思います。

 1981年訪日されたマザーテレサは講演で話されました。「胎児は神の愛の最高の贈物です。神は「例え母がわが子を忘れても決して私は忘れない。」と言われています。しかし今日、小さな胎児は世界中で死の標的です。破壊と殺害の標的です。平和を破壊するいちばん恐ろしいものは堕胎です。なぜなら、子どもを殺すのはその子の母親自身だからです。日本は世界の中で特に多くの美しい物で満たされ、日本人も素晴らしい。でもお忘れなく、子を望まねばそれも消えます」。日本の2020年の年間出生数は、87万2,683人で過去最低。堕胎件数145340件(届け出分のみ)、出生数から死亡数を引いた「自然増減数」はマイナス51万1,861人でした。政府の予測では、わずか40年後には今の人口が約3分の2に減り、60歳以上が半数を占め、その後も急速に減り続けるとなっています。

 この訪日時の講演をきっかけに有志によって生命尊重センターが作られ、受精卵を流す作用があり、女性の健康を阻害するピルや緊急避妊ピルの危険性を訴え、妊娠女性を助ける電話相談や円ブリオ基金を立ち上げてきました。今回の経口堕胎剤の製造販売承認にも反対の要望書を提出しています。しかし神の声に従い、この問題に関わろうとする方は、カトリック教会内においても極めて少なく、胎児の命の危機・人類の危機はますます増大してきています。2019年11月に訪日されたフランシスコ教皇様は、訪日のテーマ「すべてのいのちを守るため」の意味について、「命は神から頂いた恵みです。この恵みに感謝するための一番の方法は全ての命を守ることなのです。現代において世界の文明はひとつの傾向が見られます。それは不要と思われるものは排除するという傾向です。様々な場において子どもたちが見捨てられています。生まれることをゆるされず、食事や医療や教育も与えられずに排除されてしまっているのです」。と説明されています。

 神は旧約時代から人類が破滅に向かう前に必ず預言者を送られています。40年前のマザーテレサと2年前の教皇様による胎内の子のいのちについてのお二人の預言的メッセージを、私達はどれだけ真剣に受け止めて考えてきたでしょうか。誰かがやればよいではなく、自分自身がその事に積極的に関わり、働いてきたかを反省する時ではないでしょうか。ルカ10章25以下には、危機に瀕した人を積極的に助ける事で隣人となり、自分のように愛しなさい。そうすれば命が得られる。と述べられています。私達には今、新型コロナウイルス感染症による危険を、必死に回避しようとしている気持ちと同じ気持ちで、はるかに大きな危機に瀕しているお腹の赤ちゃんの事を考えて、助ける働きが求められていると思います。確かに私達の働きは大海の一滴に過ぎないかも知れません。しかし大海もその一滴が集まって出来ているのです。とマザーは言われました。まず各教区・教会で受精卵からの人の命を守るプロライフの集いを作る事もその一滴になると思います。新型コロナ感染症が話題にされる時には、さらに大きないのちの危機にさらされている幼子の事も、どうか忘れないでください。

参考図書

講談社現代新書667   生命あるすべてのものに   マザーテレサ
ペトロ文庫   回勅いのちの福音   教皇ヨハネ・パウロ二世

Hirata Kunio(ヒラタ クニオ)
平田國夫
医学博士
生命尊重センター副代表
聖母の騎士 2021年11月号掲載
2021年11月4日許可を得て複製