日本 プロライフ ムーブメント

私の「現代環境論」(4)廃棄物

「ごみをみれば暮らしがわかる」といわれるように、廃棄物の排出実態は暮らしや経済の現実をリアルに反映します。

1980年代後半から1990年代はじめまでの、いわゆる「バブル」期にも、ごみが急増し、その処理をめぐってどうするかがあらためて問題になりました。このなかからリサイクルをよびかける市民の活動が広がり、リサイクル事業者の活動も目立ち始めるのです。それは1992年の国連環境開発会議(地球サミット)を前にした環境問題のブームを支えるものでした。

1950年代後半からはじまった高度経済成長のもとで、わが国の暮らしも経済も大きく様変わりしました。洗濯機、テレビ、冷蔵庫など、電化製品が暮らしの中に入ってきました。マイカーの普及にともない交通事情も変わりました。スーパーの進出により、対面形式の販売からセルフ方式の販売が一般化し、容器包装事情もすっかり変わりました。

このようななかで大量消費社会すなわち大量廃棄社会が形成されていったのです。ごみは増え、その質も変わっていきました。

高度経済成長のピーク時、1970年代の初め、東京をはじめ各地で増え続けるごみを処理できない事態に直面したといわれています。「分ければ資源、まぜればごみ」といわれはじめたのもこの時です。増加するごみを処理するためのごみ処理施設の新設が必要になった地域では、住民から反対の声が出されるなど、社会問題になった事例も生まれました。

<「ごみ問題」の構造>

 ここであらためて「ごみ問題」とは何かを考えてみます。「ごみ問題」とは、
1 ごみの量が増加し、ごみ処理施設(埋立施設、焼却施設)が限界に達する
2 ごみの質が変化、すなわち自然にかえらないプラスチックごみ等の増加等により、それらの適正処理が困難になり、環境汚染問題が発生するという構造を持っていました。


このように考えると、「ごみ問題」の解決の方向として 
1 ごみ減量・リサイクル(再資源化)
2 ごみの適正処理
ということが必要になるわけです。


しかし、現実にまず問われたことは、リサイクルで「ごみ問題」が解決するのかということでした。市民が始めたリサイクル運動も理念や善意だけではどうしようもない事態に直面することになりました。牛乳パックのリサイクル、空き瓶回収など、始めたものの行き詰まってしまった事例は数多くあげられます。
少しリサイクルということについて踏み込んで考えてみますと、次のようなリサイクルの条件がそろわないとうまくいかないということがわかってくるのです。


1 対象になるものが大量にあること
2 対象になるものを集めることができること
3 リサイクル技術があるのか
4 再生品が商品になりうること
5 経済的に成り立つこと


結局、リサイクルができるものは限られており、「ごみ問題」の解決のためにはリサイクルからさかのぼってごみの発生抑制をはかるがどうしても必要だということがはっきりすることになりました。
このようななかで、循環型社会形成推進基本法が制定され(2000)、循環型社会形成を目標にした取組みとして「3R」(Reduce/Reuse/Recycle)という目標が示されるようになるのです。さらに、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設資材リサイクル法、食品リサイクル法などが制定され、循環型社会をめざす施策が動きだすのです。


その取組みがいかなるものであったのか、何が実現できたのか、あらためて考え、あらたな目標づくりが必要になっているといわねばなりません。

<廃棄物行政の課題>

日本の廃棄物行政の根拠法は廃棄物処理法です。廃棄物処理の現場の実務に関わる法律ですので、具体的な処理基準を示さなければならないため、条文も多く、何度も改正されています。また、それにともなう規則類も細かなルールを取り決めています。


この法律では、廃棄物を一般廃棄物と産業廃棄物に区分しています。そして、産業廃棄物を除く一般廃棄物についてその処理責任は市町村にあると規定されています。ですから、ごみ問題は身近な市町村の行政課題になるのです。そこでは、増え続ける廃棄物をめぐって、いかに「ごみ減量」対策をすすめるのか、ということが中心的な課題になっています。


市町村の「ごみ減量」対策としては、まず「資源ごみ」の分別・リサイクルの取組みが推進されてきました。各種リサイクル関連法の整備もこの取組みを後押ししてきました。続いて「有害ごみ」の適正処理のための分別もよびかけられてきました。


しかし、「ごみ減量」のための分別も、他方では収集運搬体制やコストに関わる問題になることもあり、実際には試行錯誤がくりかえされてきたともいえます。


このなかで「ごみ減量」対策のひとつとして「ごみ有料化」の問題が多くの市町村で浮かび上がりました。「ごみ有料化」については住民の中でも賛否が分かれる問題であり、どのように住民合意を形成するのかが問われた問題でした。この取組みを通じて廃棄物行政への市民参加の重要性も強調されてきたのです。

<産業廃棄物>

産業廃棄物は、事業者が排出する廃棄物のなかで、汚泥、廃油など、法が定めた20種類のものをいいます。産業廃棄物は量も多く、中には環境汚染につながるものもあり、適正な収集・処理が行われなければなりません。したがって、その処理責任は排出する事業者が負うことになっており、その処理を他に委託する場合には、都道府県等の許可を受けた廃棄物処理事業者と契約を結び、排出時には廃棄物の種類・数量等を記載した産業廃棄物管理票(マニフェスト)を交付し、それらの廃棄物が適正に処理されたかどうかを確認することが求められることになっています。しかし、ときどきマスコミで報じられるような社会問題となる不法投棄問題が起きていることも現実です。

<当面している「ごみ問題」の政策的な課題>

「ごみ問題」は実に幅の広い問題であり、分野ごとに、テーマごとにそれぞれ論じなければならないと思います。当面している政策的な課題として、以下の項目をあげておきます。


1 「食品ロス」削減
2 プラスチックごみ対策 レジ袋、PETボトル
3 水銀含有廃棄物対策 蛍光管、乾電池、体温計、血圧計

Tuyoshi Hara
ハラ ツヨシ
原  強
2021期 立命館大学講義テキスト
2021年10月29日複製許可を得る
2022年2月24日複製