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「福島原発のトリチウム―何が問題か」

名古屋教区正義と平和委員会定例会が6月11日に福信館で行われ、講師の河田昌東(かわた まさはる 分子生物学)さんから、福島のトリチウム汚染水海洋放出の問題について話を聞いた。

日本政府は2021年4月13日、2011年3月11日の事故以来福島第一原発に溜り続けている放射能汚染水のうち処理できないトリチウム汚染水(120万トン、1200基の貯蔵タンク)を「海水で薄めて放出」することを漁業関係者や国内外で広がる多くの反対や懸念の声を無視し、決めた。政府の「海洋放出ありきで良いのか」の問題意識の下、正義と平和委員会では6月11日の定例会で河田昌東(分子生物学者)さんを講師に招き、上記の題で以下のように学ぶ機会を持った。

トリチウムとは

トリチウムは日本語では三重水素と呼ばれ、化学的性質は水素(H)と同じである。しかし、水素と違い不安定なため新しい元素(ヘリウムHe)になって安定化する。この時放出される電子がベータ放射線である。原子炉の中では冷却水(H2O)からトリチウムが出来る。従って、原子炉の冷却を続ける限りトリチウムは新たに生産され続ける。当然、稼働中の原発からトリチウム汚染水は海中に流され続けられている。過去の核実験や宇宙線の影響で、地球上の水の中には1~2Bq/L程度のトリチウムが含まれている。

トリチウムは何故除去出来ない?

国や東電、原子力規制委員会などは、トリチウム水は処理できないから海洋放出せざるを得ない、という。何故処理できないのか。トリチウムの化学的性質が水素と同じで、トリチウムを含む水(T-O-H)と通常の水(H-O-H)が区別出来ないから、放射物質を化学的性質の利用による吸着や濾過などを行う化学的方法では除去できない。その結果、沸騰水型原発で生成された殆どを年間22兆ベクレルの海洋放出基準が定められている。トリチウムの放出基準は事実上存在せず、現実追認であり原発を運転すれば必ず発生する。これも原発を稼働してはならない原因の一つである。

トリチウムの何が問題か

トリチウム水は通常の水と同様、経口や呼吸、皮膚を通じて体内に入り、タンパク質や遺伝子(DNA)の中の水素の代わりにその成分として入り込む。細胞内の有機物の構成成分として取り込まれたトリチウムは容易に代謝されず、その分子が分解されて水になるまで長時間留まり(15年以上)、ベータ線を出し続けることになる。トリチウムの出すベータ線はエネルギーが極めて小さく、外部被爆は殆ど問題にならないが、こうして体内の構成成分に取り込まれると、全てのベータ線は内部被爆の原因になる。

DNAに取り込まれたトリチウムの問題

トリチウムの効果は崩壊時に出すベータ線の被爆だけではなく、DNAの破壊が必ず起こる。核実験が始まった1950年代以降、トリチウムの生物学的影響に関する研究は数多く行われている。最も広く知られているのは染色体の切断などの異常である。生体次元での研究も数多くあり、染色体異常の結果、致死的なガンなどの健康障害が指摘されている。特に問題なのは子宮内胎児への影響である。トリチウムによる催奇形性の確率は致死性ガンの確率の6倍にのぼる。カナダのオンタリオ湖はカナダ特有の重水原子炉から出る大量のトリチウムによる汚染が知られている。その結果、周辺地域で1978~85年の間に出産異常や流死産の増加が認められ、ダウン症候群が1・8倍に増加し、胎児の中枢神経系の異常も確認された。以上のように、トリチウムの海洋放出は、政府の言うような単なる風評被害ではなく実害が起こる。では、海洋放出以外にトリチウムの除去の方法はあるのか、次回に続く。

Motoi Takeya(タケヤ・モトイ)
竹谷 基
正義と平和委員会
カトリック半田教会
カトリック名古屋教区ニュース (414号 3ページ)
Copyright ©2021年7月4日掲載
2021.10.11.許可を得て複製