「生命倫理を考える」第4回
“生命倫理の関わるゲノム編集”
私たちは意識しないと単に、安さや便利さにだけに目が行きがちである。しかし、安全性の確認されていない遺伝子組換え作物やゲノム編集作物を摂取していると、自己の健康を害し生命を損ねるだけでなく、将来世代や環境に負の遺産をもたらす加害者になってしまう。
「すべての生命を守る」ために召されているキリスト者のわたしたちが加害者とならないため正平委主催学習会「生命倫理を考える」第4回を2020年10月8日、大沼淳一さんを講師に招き開催した。以下、その要約である。
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ゲノム編集の例を三つあげる。受精卵改変には歯止めがないことがわかるだろう。
HIV予防のためのゲノム編集
中国の研究者が遺伝子を自在に改変できるゲノム編集技術を受精卵に適用し、双子の女児が誕生したと報道された。エイズウイルス(HIV)への感染防止目的で行ったという。(18/11/28中日)
ヒト受精卵の遺伝子改変は、生命の設計図ともいえる遺伝情報を人為的に書き換えることである。目的外の遺伝子が改変されてしまう恐れがあるなど、安全性や倫理面の問題から、各国とも改変した受精卵を子宮に戻すことは法律や指針で規制しているが、日本では指針のみで罰則はないため、以下の問題が指摘される。①遺伝病治療の場合、卵子や胎児のゲノム編集を誰が決めるか。②生まれた赤ちゃんには責任がない。③出生前診断とセットでゲノム編集は始まる可能性がある
皮膚から卵細胞が造られるようになる。
ヒトのiPS細胞から卵子になる手前の段階にある「卵原細胞」の作製に成功したと発表される。(18/9/22朝日)
iPS(ゲノム編集)技術は遺伝子の発現を抑制し、分化した細胞を未分化状態にし、様々な刺激を与え目的の細胞に分化させる。結果、同一遺伝子を持つ人が多数作れるようになる問題がある。
種間キメラ動物作成(生物学におけるキメラとは、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態や、そのような状態の個体のこと。嵌合体とも(ウィキペディア))
ヒトの臓器もった動物の出産、解禁を文科省が19年3月1日指針改定。これにより、禁じられていた動物性集合胚(動物の受精卵が成長した胚に、ヒトの細胞を注入した)の動物への移植や、この胚を使った出産が可能になる。(19年3月4日朝日デジタル)
つまり、ヒトの臓器を豚で作ることが可能になった。それは、日本では臓器提供数、移植数ともに米国に較べ極端に少ないことが理由に上げられる。2011年では日本提供112件、移植329件。米国提供8、126件、移植22、517件となっている。
さて、身近な大切な人の命を救いたいと思う時に移植は良いことのように思われるが、しかし、社会制度として認められた時に問題はないのだろうか。①臓器の売買は禁止されているが、金持ちが貧乏人の臓器を買うに等しいことが横行する。(例、海外移植ツアー)②脳死は人の死とイコールではない。③移植を待つ人々の順番はフェアに決められているのだろうか(海外で子供の移植をする人々の多額な費用は、順番を飛び越えるための費用が含まれているとの情報もある。)④戦争地域などでさらわれた子供の臓器が移植に回っているのではないかとの危惧もある。等々
以上から、受精卵改変やヒトの臓器を豚で作るゲノム編集の問題点が明らかになった。①生殖細胞のゲノム編集は種の保存を脅かす危険性があり、②編集した遺伝子が子孫に伝えられる、③社会のニーズ次第で生命が左右される(優性生物学)。特に、遺伝子差別による優性思想はナチズムによるユダヤ人、障害者、ロマ(ジプシー)などの大量虐殺を思い起こさせる。英国では出生前診断により子どもがダウン症と診断された後に中絶を選んだ女性は約92%の高率で安定しているとの調査がある(2002年人工妊娠中絶率レビュー)。
ゆえに、ゲノム編集の課題は学術会議の提言(囲み記事)のように、①環境・生態系に対する影響と人間のゲノム編集について生命倫理の観点からの規制と②国際的な規制とが必要である(農業、医療、産業、環境など幅広い分野を網羅)。
私たちキリスト者は遺伝子組換え、ゲノム編集などの生命工学の流れを注意深く見守り、優性思想に負けないイエスの「どの人も大切だ、誰をも見捨てない」、教皇の「すべての命を守る」の呼びかけに応えていきたい。
Motoi Takeya(タケヤ・モトイ)
竹谷 基
正義と平和委員会
カトリック半田教会
出典 カトリック名古屋教区ニュース (410号)
Copyright ©2021年3月掲載
2021.5.18.許可を得て複製