日本 プロライフ ムーブメント

トリアージと「障害者の権利」問題

  ドイツ連邦憲法裁判所(独南部カールスルーエ)の第1上院は28日、トリアージの際に障害者の保護を要求した9人の障害者の訴えを認め、「障害者権利条約に基づき、トリアージが発生し、医師が誰を救うか、誰を救わないかを決定する状況になった場合、障害者を保護するために直ちに予防措置を講じる必要がある」と裁定し、立法府に迅速にトリアージでの障害者の保護を明記した法案を作成をするように要請した。
 

トリアージについて、トリアージ専門家のバーバラ・フリーゼネッカー氏は独週刊紙「ディ・ツァイト」とのインタビューで、「トリアージとは並べ替えと振るい分けを意味する。コロナ患者の急増で医療崩壊した状況を表現するときに頻繁に使用されているが、この概念は通常、災害医療の現場で使用される。地震や列車事故の場合、事故現場に到着し、医師が少なすぎて全ての患者を適切にケアできない場合、医師はどの患者を最初に救済しなければならないかを判断しなければならない。集中治療を受ける患者とそうではない患者に分け、別々のカードを使って区別する。生存の可能性の少ない患者は緊急治療から外す。トリアージの目的は緊急事態で出来るだけ多くの命を救うことだ」と説明している。

  欧州全土で新型コロンウイルスの感染が拡散し、新しい変異株オミクロン株が猛威を振るいだし、ドイツでもオミクロン株の感染が広がってきた。ドイツではパンデミック以後、トリアージがテーマとなることはなかった。ところが、9人の障害者が「新型コロナウイルスの感染が広がり、病院の入院患者が増え、集中治療室ベッドが少なくなった時、障害者が他の患者より延命チャンスが少ないとして、その権利が蹂躙される危険性が出てきた」と指摘、「医師会が作成したトリアージの推奨事項では障害者の権利が言及されていない」として、全ての国民が平等の権利を有していると明記したドイツ基本法(憲法に相当)に違反している」と訴えたのだ。

  それを受け、連邦憲法裁判所は訴えを受理し、立法府に「基本法の第3条第3項第2項に基づき、障害者の権利を保護するために迅速に関連法を作成すべきだ」と要請した。連邦憲法裁判所が少数の国民の訴えを受理すること自体、非常に珍しい。コロナウイルス感染拡大を受け、トリアージ問題がここにきて浮上してきたわけだ。

  連邦憲法裁の要請を受け、マルコ・ブッシュマン法相(自由民主党=FDP)は「政府は連邦憲法裁の決定を受け、迅速に対応する」と発表、「我々の目標は、トリアージが生じないことだが、もしそのような状況に陥った場合、障害をもつ人々を差別から守るために明確なルールが必要だ」と述べ、政府は早急に関連法案を提出すると述べている。

  これまでトリアージ問題は医師会の決定に従うもので、政府が同問題に関与して関連法案を作成する必要性はない、という立場だった。原告側の障害者は、「トリアージは不公平だ。人の価値を身体の障害で判断すべきではない」と訴えてきた。医師会が作成する基準自体が問題だという声もある。障害ゆえに延命チャンスが低いといった偏見が医師たちにあるからだ。

  トリアージのガイドラインはドイツ集中医療救急医学会(Divi)や他の医学会が作成したものだ。連邦憲法裁判所は、臨床的成功の基準を憲法上異議のないものと受け取ってきたが、「すべての人が利用できるわけではない救命救急リソースの割り当てで誰も不利益を被らないように予防措置を講じる義務がある」として、立法府に法案の作成を要請したわけだ。与党社会民主党(SPD)の健康問題広報担当のハイケ・ベーレンス議員(HeikeBaehrens)は「法案に関する審議は1月に始める」と述べている。

  問題はある。政治家は医療分野の専門家ではない。トリアージの場合、現場の医療専門家が最終的に決定を下すから、今回の連邦憲法裁判所の決定はその点で変化はない、という点だ。なお、医師たちは「年齢や障害はトリアージの決定に影響を与えない」と主張している。

  トリアージ問題の専門家は、「非常に異なる状況にある複数の患者がいる場合、すばやく客観的で正しい決定を下すことは困難だ。その場合、『宝くじ』の倫理原則に従って、サイコロを投げたり、棒を引いたりする。優れた医学的意思決定とは何の共通点もない絶望的な行為だ」と述べている。トリアージは患者たちにとって過酷な運命だが、医師たちにとっても苦しい選択となる。

Editorial (オピニオン)
国連記者室
出典 ウィーン発『コンフィデンシャル』
Copyright © 2021年12月30日
2022年1月31日許可を得て複製