日本 プロライフ ムーブメント

神と生命を見つめて

聖アウグスチヌスは、改宗してすぐ、次の不朽の名言を著した。「あなたを愛するのが遅すぎた、過去においても未来においても最も美しい、あなたを愛するのが遅すぎた! あなたは私の中にいたのに、私自身が外にいて、自分が探しているものがそこにあるのに気づかなかった。自分の醜さゆえ、あなたが創造した美しい物に溺れ、あなたが側にいたのに、私はそこにいなかった」。

聖アウグスチヌスは真摯だが、常に不安を抱え生きる使徒で、愛と神とを探し求めていた。ついに彼はそれらを、森羅万象の中でも最も予想外な場所で見つけた…自分自身の中に。神と愛はずっと彼の側にあったのに、彼が自分の心の中に目を向けていなかった。

ここにひとつの教えがある。私達は神に現れてもらうために祈るのではない。神はいつも、そこかしこに存在する。私達は自分が神の側に近づけるために祈るのである。シーラ・カシディが面白い例えで表現している。神は教会にいるのではないし、酒場にもいない。だが一般的に、酒場よりも教会にいる方が神に近づきやすい。神の居場所は自分の心に訊くのがいい。

 悲しいかな、心のあり方は、私達の人生の豊かさにも関係する。日々の生活の至る所にあふれている美・愛・英知に、私達が触れられないことはしばしばある。賜物はそこにあるのに、私達がそこにいない。不安・怠惰・逸脱・怒り・圧迫・苦痛・性急などが原因で、自分自身の人生の美しい瞬間に目を向ける余裕がないことが多い。私達は自分の人生を、貧困で、つまらなく、短く、心を捧げるほどの価値がないと考えがちだが、祈る時に神がいないと思うのは間違いで、私達が側にいないだけである。私達の人生には、どっさり宝が積まれているにもかかわらず、私達にそれを享受する心の準備ができていない。興味深いこの見解は、残念ながら真実をついている。

 名高い詩人リルケ(Rainer Marie Rilke)はかつて、小さな片田舎出身の若者から連絡をもらった。その若者はリルケの詩を賞賛し、大都会で暮らし、発想のヒントに満ちた豊かな生活を送る彼のことを羨ましがった。若者はさらに、自分の生活がいかにつまらなく、田舎臭く、閉鎖的で、とても詩がひらめくような刺激がないと語った。リルケの返事は冷く、若者に次のように答えた。「もし自分の生活がつまらないと思うなら、あなたにはその中にある豊かさを見つけて引き出す詩的才能がないのだろう。詩人にとって、全くつまらない、詩の材料が見出せないような場所は存在しない。豊かな生活は、過ぎゆく刹那の中にあるのではなく、時間を超え一瞬一瞬を繊細に観察する心がけから始まる」と。詩人とは、日常のひとつひとつを注意深く見るべき職業である。

 聖アウグスチヌスは幸いにも、手遅れになる前に「あなたを愛するのが遅すぎた!」と気づいた。時として私達は不幸にも、健康や生命を脅かされ、すでにそこにある賜物に気づく前にこの世を去らねばならないこともある。自分から一歩近づけばいいことに気づかずに。もし、あらゆる物を一度奪われてからまた戻されたなら、私達の考え方は急激に変わるだろう。『生きる意味を求めて』の著者ヴィクトール・フランクルも、聖アウグスチヌスと同様に幸運だった。彼は数分間死んでいたが、医師の手によって蘇生した。その後、退院し普通の生活に戻ると、自分をとりまくすべてのものが突然、素晴らしく豊かに感じられた。「蘇生の重要な側面は、あらゆるものが貴重で非常に大切に思えてくる点である。ささいな出来事や花、赤ちゃん、美しいもの、歩いたり息をしたり、食べたり友達と話したりという生活の1コマ1コマに、その都度感激できる。すべてが、今までになく美しく思え、人生の奇跡をしみじみ感じられる」。

 祈りによって神に現われてくれるのを願うのではなく、自分達が神に近づこうと思えばいい。人生の中に美や愛を見いだすのも、基本的に方法は同じである。神と同様に、それらはすぐ側にある。自分がそれに近づけるかどうかが鍵となる。すぐ側にあるのに、私達の心がそこになく、大事な瞬間に気づかず、人生の恵みを受け損ねているという事が、あまりに多すぎる。私達が経験するひとつひとつの出来事は賜物であふれているが、私達の心が他に気をとられてどこかへ行ってしまっている。若き日の聖アウグスチヌスのように、自分自身や自分の経験を十分省みず、外にばかり幸福を求め、身近にあるのに気づかない、『灯台もと暗し』状態である。まず家に帰ろう。神や貴重な瞬間を探そうとする必要はない。もうそこにあるのだから。

 カール・ラーナーはかつて、奇跡を信じるかと問われた。彼はこう答えている。「奇跡を信じないよ。それを信じるというより、日々起こっているから頼りにしているということかな!」まさしく奇跡は常に私達の生活の中に存在する。そう思わないかい?

ロン・ロルハイザー
Ron Rolheiser OMI
Copyright ©October 29, 2000
2002.9.5.許可を得て複製
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net