日本国憲法と地方自治体
そもそも「地方自治体とは」と考える機会があまりないのではないでしょうか。この機会に、日本国憲法のもとでの地方自治体の位置づけに関わる関連条項を見直しておいてください。
日本国憲法92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
同93条① 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
同93条② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
同94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
同95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
環境問題と地方自治体
環境問題と地方自治体との関係についていえば、地方自治体は、
・地域レベルの環境政策の主体として
・住民要求にこたえる各種事業の主体として
・住民にとって身近な「協働」のパートナーとして
とても重要な役割をもっています。
条例の制定・運用
地方自治体は、国が定めた法律のもとで与えられる役割や責務をさまざまな施策を通じて実現していくわけですが、より具体的な根拠をもつ各種条例を独自に定めています。
環境分野でも、国の環境基本法に対応する環境基本条例が制定され、そのもとで審議会が設置され、環境基本計画の策定・運用が行われています。
また、地方自治体の置かれた状況に応じて「河川をまもる条例」「森林を守る条例」「景観を守る条例」など独自の条例を制定する場合もあります。
「京都議定書」を採択した地の京都府、京都市では「地球温暖化対策条例」のもとにCO2削減計画を掲げ、系統的な温暖化対策がすすめられてきました。このような取組みがあってこそ、「パリ協定」をうけた新たな目標に向かっての取組みも可能になったといえます。
パートナーシップ組織
環境分野の施策の推進のためには住民の協力が不可欠です。したがって、住民(住民組織)との連携を密にし、施策の実効性を高めるために、行政と住民(住民組織)とのパートナーシップ組織を育てていくことがとても重要です。ときには事業者組織もふくめたパートナーシップ組織も必要になってきます。より現場に近いところで課題やニーズを見つけ、その実現のために「協働」の取組みをすすめていくことが重要なのです。
たとえば、現在、どの地方自治体でもレジ袋削減などの課題にむけた取組みをはじめていますが、この課題などは行政だけでできるものではなく、事業者組織も、消費者・市民も、共通する目標のもとに連携しながら、それぞれが役割をはたしていくような取組みが必要なのです。そして、このような取組みをコーディネートするパートナーシップ組織がもとめられるといえます。
環境教育の推進
環境問題の解決のためには住民の意識をたかめ行動を促すための教育啓発が重要です。地方自治体としても、小中学校の学校教育から社会人教育まで環境教育を体系的に取り組むことが必要になっています。このための「環境学習センター」機能も必要になっています。
地方自治体がになう各種事業
地方自治体は、交通、水道、エネルギー、廃棄物処理、病院など、さまざまな公共事業の担い手でもあります。これらの事業を通じて住民要求にこたえ、環境政策を推進することができるのですが、他方では、これらの事業が環境に負荷をかけることもありうるわけです。
したがって、環境問題と企業の部分で取り上げた「環境経営」ということが地方自治体でも課題になることがあります。
すなわち、地方自治体における環境マネジメントシステムの構築をはかるということで、ISO14001に取組んだ地方自治体の事例も多数ありました。
また、地方自治体における物品・資材の調達に関わり、グリーン購入の取組みもすすめられてきました。なかには入札事業者に環境という側面から一定の条件制約をかける「グリーン入札」に取り組む事例もありました。
あらたな地域のビジョンづくりへ
こんにち重要になっているのが、環境先進自治体としてのあらたなビジョンをつくりあげ、あらたな目標の実現のために取組みを推進していくことです。とくに、地球温暖化対策、交通・エネルギー政策などが焦点になっています。
また、地域のSDGs目標をまとめることも課題になっています。
これらの取組みについては、住民側からの課題提案がもとめられるとともに、首長や議会の姿勢がとても重要になるでしょう。
政府に大きな政策・理念提示を求めながら、地方自治体発の独自のビジョンと行動を創出していく、リーダーシップあふれる政策主体としての取組みがはじまることを期待したいものです。
「先進モデル」に学びながら
地方自治体が環境先進自治体にむかううえで、内外の「先進モデル」に学ぶことは大変有効なことです。
たとえば、ドイツのフライブルグなどの「シュタットベルケ」(都市公社)の事例は注目され、日本にもその経験や教訓が紹介されています。電力、ガス、熱供給などのエネルギー事業を中心に広範なサービスを提供する公益事業体の「収益」を活用しながら、住民本位の各種の事業を組み合わせ、新しい地域の循環経済を実現していく取組みは、日本の各地ではじまった「地域循環共生圏の創出により持続可能な地域づくり」の動きにつながっているといえます。
Tuyoshi Hara
ハラ ツヨシ
原 強
2021期 立命館大学講義テキスト
2021年10月29日複製許可を得る
2022年8月26日複製