「生命倫理を考える」(上)
教区正義と平和委員会は今年度の定例会で、「生命倫理」について学んでいます。6月12日に催された第1回講義の内容を、11月と12月の2回に分けて掲載します。
2020年度のノーベル化学賞は「ゲノム編集」の新たな手法を開発した女性研究者二人に授与された。しかし、その二人が警告を発しているように「原子力と同様、生物兵器に使われる可能性がある」ことに耳を傾ける必要がある。
科学技術の発展はたしかに人類に大きな貢献を与えたけれど、他方、環境破壊、人類絶滅の危険をももたらした。科学技術の暴走を止める、教会の掲げる「すべての生命を守る」ためには「生命倫理」を熟考しなければならない。その問題意識から正義と平和委員会では20年度の定例会において計4回、学びの場を設けることにした。講師には原子力市民委員会の大沼淳一さんにお願いした。
まず、第1回は、2020年初春から未曾有の危機が続く新型コロナ感染症爆発とは何か、対策はどうしたら良いのかを学んだ。
新型コロナとはウイルス
ウイルスはスペイン風邪、エイズ、SARSなど、感染症を人類にたびたび起こし、甚大な被害をもたらして来た。しかし、地球誕生以来、生命の進化と共に歩み、生命には欠かせないウイルスは、人間にとって害敵とばかりは言えない。長い生命進化と共にあり、たとえば胎児を守るなどの働きもする。従って、人間は戦いではなく共存の道を探るべきだ。ウイルスは生き残るため、他の生物を宿主とし、寄生して自己増殖をする。宿主を害しては自己滅亡するので共存共栄が当然だ。しかし、時には強毒となり、宿主に害を及ぼすこともある。
エイズウイルスは宿主のチンパンジーを食べたアフリカの先住民にうつり、発症した。植民地化前は、感染はその小さな部落に拡がり、全員の死により収束した。しかし、植民地化後の開発が人口増加、交通・経済活動をもたらし、瞬く間に世界に拡がり、人口密集地の大都会で大量感染するようになった。
今回の新型コロナは、コウモリから野生動物を介して人へ宿主を移動した。それも、乱開発による環境破壊から、ウイルスと人の距離が縮まり感染の拡大となった。従って、ウイルスとの共存の道は経済利益追求による際限のない環境破壊、大都市への一極集中の文明のあり方を見直すことから始めなければならない。
スペイン風邪からの教訓「検査」と「隔離」
100年前の1918~20年日本でもスペイン風邪が大流行し、死者45万人を数えた。その時、ウイルスは未発見であったが、感染症に対し国は現在と同じく、マスク着用、外出自粛、密集を避ける等を呼びかけ、さらに、検疫により、感染を国内外へ広げるのを防ぎ、検査による陽性者、陰性者の分離、陽性者の隔離の対策を取って拡大を防止した経験があった。
今回、その100年後でもあるのに、日本ではPCR検査拡充の要請にも応えず、「無策」との批判がある。100年前同様、3密の回避、外出自粛、国民の自主性に委ねているのみだ。
「感染の兆候が体に一つでも現れた時点で検査して隔離することが有効だ。接触機会を減らす対策はひとえに市民生活と経済を犠牲にする一方、検査と隔離のしくみの構築は政府の責任である。その努力をせずに8割削減ばかりを強調するなら、それは国の責任放棄に等しい」(九州大学小田垣孝)
ワクチン開発
ウイルスのワクチン開発は早急にできるものではない。HIVウイルスのワクチン開発は20年を超えて成功していない。たとえ完成しても、突然変異が速く、すぐに効かなくなる。ワクチンは健康な人に接種するので安全確保が絶対条件である。SARSやMERSでもワクチンは出来なかった。けれど、日本政府はワクチン確保に予備費6、714億円を閣議決定している(9月8日)。
経済格差による弱者の被害拡大
新型コロナウイルス感染症の感染者数とこれによる死亡者数が世界最多となっている米国では、白人よりも黒人をはじめとするマイノリティ(社会的少数者)に深刻な影響をもたらしている。たとえば、黒人の人口比率が30%のシカゴでは、新型コロナウイルス感染症による死亡者の60%を黒人が占めている。ニューヨークでは、黒人の人口比率が18%であるにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症の入院患者の3人に1人が黒人だ。(20年6月19日ニューズウィーク日本版)
新自由主義経済下での医療・保健体制の縮小、削減
国立感染症研究所の研究者は、2010年の325人から19年現在、294人に減らされている。アメリカCDCと比較すると、人員は42分の1、予算は1077分の1しかない。さらに、保健所は、1992年には全国に852カ所あったのに、2019年には472カ所と、じつに45%も減っている。
コロナ後の世界
ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの日本社会では、政府のマイナンバーによる監視社会の強化、基本的人権の制限が進むだろう。それに対し、教会は環境保護によるウイルスとの共存、人権・いのちを守る取り組みをしなければならない。
Motoi Takeya(タケヤ・モトイ)
竹谷 基
カトリック半田教会
カトリック名古屋教区ニュース (4 0 6号)
Copyright ©2020年11月掲載
2021.3.12.許可を得て複製