オランダでは、病気に苦しむ高齢者と身体に障害のある新生児が、彼らの両親や近親者の同意無くして日常的に死に至らしめられていることが公知の事実となっている。ヨーロッパの他の国々もオランダの場合と大差なく、アメリカに一番似ているイギリスの最近の動向も、先進国における安楽死の今後を暗示するものになっている。
ウイークリー・ブリーフィングの読者なら、西ヨーロッパおよび日本を中心とした第一世界の国々が、人口を維持できるだけの数の子どもが誕生しない、その差を埋めるだけの移民を受け入れることができない、最新技術により寿命が大幅に伸びた、という3つの要素を原因とする急激な高齢化に直面していることをご存知だろう。これらの国々では、今後45年間で、65歳以上の人口の割合が3倍に、また、80歳以上の人口割合は5倍になると予想されている。それに従い、年金や医療費も増加する見込みである。
少ない労働人口でこうしたコストをどう支えればいいのか?おそらくそれは無理だろう。では、高齢者や病人の大量安楽死が近い将来行われるのだろうか?その方向性を示す3つの動向がイギリスにおいて認められる。3つの動向とは、年齢による医療内容の区別を政府当局が認めたこと、医師グループが末期患者自身による治療法の選択権に反対していること、精神的不能者に関する法案により、精神障害の患者に対する治療において水と食料を与えないことが認められたことである。後者の2つは高齢者にのみ当てはまるわけではないが、これらの影響を受ける患者の大半は高齢者なのである。
他の西欧諸国と同様、イギリスは、社会主義的な医療保険制度(国民医療サービス、NHS)を持っており、政治家や官僚には、国民が受けられる治療、受けられない治療を決定する権限がある。彼らは、さらにコストを削減する方法を模索しており、今後は、そうしたコスト削減がさらに急務になると考えられる。
ファミリーライフインターナショナルUKの取締役、グレッグ・クロービスは、次のように述べている。「イギリスにおいて過去45年間、人口管理政策を支持してきた労働党内閣は、同国が高齢化を迎えている現実に直面し、もはや保険医療制度で病人や高齢者をケアする余裕がなくなっている。」「精神的不能者に関する法案により法律が改正され、食料と水が医薬品と認められるようになった。したがって、現在では、患者の生活の質が低いと判断されれば、医師が患者に食料を与えず、脱水症状に陥らせる権利が認められている。トニー・ブレア政権下において、イギリスの政府はかつてない生命軽視の政府になっている。」
年齢による差別は政治的に不適切だが、不当な差別は数年ごとに増加している。NHSの国立臨床評価研究所(オーウェル式NICE)は、その方針を一部修正する考えである。NICEは、先月発行したガイドラインの草案において、医師が薬を処方する際に年齢を十分に考慮するよう提案している。最終的なガイドラインの発行は、6月末以降になる予定である。年齢と投薬治療に関する話題について、ガイドラインは次のように結論している。「年齢によって健康の価値が変わるべきではない。個人の社会的役割が、年齢の違いによってコスト効率の検討に影響すべきではない。ただし、年齢がリスクとベネフィットの指標である場合、年齢による区別は適切である。」
これらのガイドラインは、善意に解釈できる。さもなければ、女性の平均寿命が78歳であることから、統計的に70歳の女性が治療のベネフィットを受けられるのはわずか8年であり、70歳の女性に高価な薬を投与すべきでないという意味に解釈できる。あるいは、70歳の女性は、若い人と比べて治癒の可能性が低いため、高価な薬を使用すべきでないとも受け取れる。イギリスの高齢者を擁護する人は、こうした新しいガイドラインを重大事へ発展しそうなささいな事柄として批判している。
今月、NICEは、これらのガイドラインをNHSに適用しないとして、その立場を擁護した。NICEの最高責任者Andrew Dillonは、次のように述べている。「NICEは、治療を効果的に実施し、NHSにとって金額に見合う治療を実現するために、判断を変える必要がある。年齢やライフスタイルといった要素が、治療の臨床面あるいはコスト面での効率に影響を与えることは我々の理解するところであり、したがって、我々は、ガイドラインの作成においてこうした要素を考慮することがNICEにとって適切かどうかを国民に問うている。」
Dillonは、過去にNICEが、「この年齢範囲において最も治療効果が出やすい」という理由で、23未満の女性と39歳より上の女性を不妊治療の対象外とする年齢差別を勧めていたことに言及している。コスト効率に基づくと、40歳の女性に適応する必要はない。これは、平均に当てはまらない人は、まったく対象にはならない、という社会主義に基づいている。
医師に関する基準を設定、実施する医師グループであるイギリスの医学総会議(GMC)は、人工的に送達する食事や水は、「患者の状態がきわめて重篤である、あるいは予後が非常に悪いため、人工的な栄養補給や水分補給が患者に苦痛をもたらす、または考えられるベネフィットに対して負担が大きすぎる」場合に、その患者に対する食事や水の補給を中止できるという決定を下した。
言うまでもなく、食事や水には生命の継続というベネフィットがあるが、これらが与えられなければ、そのベネフィットを実現することもできない。
小脳性運動失調で死を宣告されたLeslie Burkeは、状態が悪化して話ができなくなる前に、自分の治療方針を決めておきたいとして訴訟を起こした。彼は、意識があるにもかかわらず、物を飲み込めなくなったときに、医師が食事や水の供給を中止して自分を死に至らしめること、ならびにそのようなやり方で死に至る場合の苦しみを恐れている。彼は、チューブを使った栄養補給という自分の希望がかなえられることを望んだ。彼は裁判で勝訴したが、GMCは控訴した。GMCは、Burkeではなく、医師が治療方針を決めるべきだと考えている。
GMCの弁護人は、Burkeの要望を認めれば、「臨床的に適切でないと考えられる特定の治療を患者に与えるよう医師に要求すべきでないという見地から」Burkeの主治医が「きわめて難しい立場に置かれることになる」と主張した。
先月、下院を通過したイギリスの精神的不能者に関する法案では、医師に精神的不能者を死に至らしめる権利を認めている。また、患者がチューブによる食事や水の補給といった治療の中止による死を望んだ場合、医師にその要求に応えるよう求めている。生命尊重の医師や看護師は、医療現場からの退去を余儀なくされるかもしれない。
英国王立精神医学会は、精神的不能と判断された患者の治療を中止することについて、冷静にその見解を述べている。「治療拒否を事前に決断することで、患者に意図しない苦痛、損害、長期的な苦痛を生じる場合がある。医療専門家は、事前の決定により、患者に望まない苦痛が生じないよう努力し、その方法を確保する義務がある。」つまり、あらかじめその患者を死に至らしめる決断をすることはできるが、それを本人に言うべきではない。精神医学会は、こう断言する。「患者には、自分がどのような治療を受けたいかを表明する権利があり、それは配慮されなければならない。ただし、その要望は、医療専門家を拘束するものではない。」「弁護士や国選代理人には、同意を拒否する権限がある一方で、医療専門家に対し特別な治療を提供するよう求める権限はない。」
同じ文書で「自己決定を尊重する」ことを勧めている。この自己決定は、今後、イギリスやヨーロッパにおいて、高齢者や障害者が期待できるものと考えられる。
Mosher, Steve (モッシャー・スティーブ)
およびディ‘アゴスティノ・ヨゼフ エイ
5月27日2005年
Copyright ©2005.8.25.許可を得て複製
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net