HIV/エイズへの国家的対策を成功させるには、協力関係が不可欠である。カンボジア、ウガンダ、タイ、オーストラリア、ブラジル、スイスなどの国では、相互尊重と責任の共有に基づいた市民団体と政府との協力が活発に行われ、効果的な対応の象徴となっている。HIV/エイズにおける協力関係は、あらゆるレベルにおいて、政府、地域団体、医療、ヘルスケアおよび科学団体、ならびにHIV/エイズに感染し、これらを抱えて生きる人々が、HIVの拡大防止に協力し、この疾患による社会や個人への影響を最小限化するために共同で行う効果的な取り組みと定義できる。協力関係によるアプローチは、対応のあらゆる面で話し合いを持ち、共同で意思決定を行うという方針に基づいている。HIVの伝播を防ぐには、政府の指令ではなく、むしろ地域社会の規範と価値に合わせて修正される個人の私的な行動への対応が必要となる。したがって、HIV/エイズの影響を最も強く受けるこれらの地域社会の方針およびプログラムの開発への参加は、任意ではなく、必須事項なのである。
協力関係においては、HIV/エイズによって生じた問題を解決するために、すべての関係者が協力し、対等に責任を果たすことを骨格となる発想や観点とする。これはすなわち、政府の内外から幅広い専門知識を集め、病気の蔓延による影響を最も強く受けている人々に参加の機会を与えることを意味する。また、それは、当事者によって役割や責任が異なることを認識し、それを尊重するという意味も含んでいる。協力関係を築くことは、HIV/エイズの予防およびケアプログラムの効果的かつ効率的な実施を確保する上で不可欠な手段である。HIV/エイズ問題の解決は、さまざまな当事者が提供する人的資源を最適化し、重複を回避するだけでなく、情報交換の強化により信頼の構築と競争の低減を図り、異なる見解に対する理解を深めることで達成される。
協力関係の構築は、それ自体がゴールではなく、むしろ共通の目標を達成するための手段と言える。協力関係においては、明瞭かつ具体的な成果を設定し、各当事者の関与について明確な理由を持つ必要がある。これにより、意思の疎通が活性化され、HIV患者、感染の影響を受けやすい人口集団、現地で活動するNGO(宗教団体を含む)および地域社会の見解について理解を深めることができる。表面的な協力だけでは不十分なのである。
HIV/エイズを抱えて生きる人々との協力
HIV/エイズを抱えて生きる人々が関与することで、彼らに対する誹謗を減らし、人々にエイズの蔓延という事態を理解さる他、時にはそれが対策の成否を左右することさえある。例えば、タイ北部では、HIV/エイズを抱えて生きる人々のグループが第一線に立ち、HIV陽性の人々にケアとサポートを提供している。彼らは、その関与を強化するために政治家に働きかけ、法的権利について人々の相談に乗り、より良い社会サービスを求める運動を展開している。彼らの活動は、必然的に、HIV/エイズという医療問題のみならず、政治家の態度や社会経済学的状況に課題を投げかけることになった。世界各地で、HIV/エイズを抱えて生きる人々の団体が、エイズの蔓延とその影響への対処に必須とされるプログラムを立ち上げ、先頭に立って活動を行っている。自助グループやネットワークは、病気をオープンにし、彼らのニーズを広く知ってもらうことで、国内および国際的な対応を喚起しようとしている。
こうしたイニシアチブは、地域社会を基盤としたケアやサポートのネットワークから、仲間同士の教育プロジェクト、カウンセリングサービス、確固たる対策へのニーズを主張する体系的な活動にまで及んでいる。彼らが示した勇気と実例は、無数に存在する同様の取り組みにも刺激を与えることになった。その成果は、国および地域社会レベルにおいて、ずっと効果的なHIV/エイズ・プログラムとなっている。見習うべき国の例として、ブラジル、オーストラリア、コートジボアール、フランス、ノルウェー、タイ、ウガンダ、イギリスが挙げられる。これらの国では、HIV/エイズを抱えて生きる人々が国家計画の草案づくりに協力し、大衆に適した案にするための調整を行っている。さらに、HIV/エイズを抱えて生きる人々は、ウイルスに感染した人々に対し、国や会社の支援において優先されるべき活動として、地域社会を基盤とした根本的なケアとサポートを行っている。こうした状況にも関わらず、ブルキナファソでの調査を含めた複数の調査において、誹謗と差別に対する懸念により、HIV/エイズを抱えて生きる人々の積極的かつオープンな関与が妨げられる可能性が指摘されている。このことは、HIV/エイズを抱えて生きる人々を法的に保護し、それによって彼らがエイズ蔓延に対する地域社会および国の対応に安全かつオープンな態度で、自信を持って参加できるようにすることの重要性を表している。
HIV/エイズを抱えて生きる人々による関与の拡大(GIPA)
1994年12月、42ヶ国の政府がパリに集結し、HIV/エイズを抱えて生きる人々による関与の拡大を含めた様々な課題に対応したパリ宣言に調印した。その第4条には次のように書かれている:「ここに集まった我々政府首脳または国家代表者は…HIV/エイズを抱えて生きる人々と地域社会を基盤とする団体のネットワークが持つ能力とその調和を強化するイニシアチブにおいて、HIV/エイズを抱えて生きる人々による関与の拡大を支援する…」GIPAの運営を有意義なものとし、HIV/エイズを抱えて生きる人々の幅広い参加を促すには、政府が地域社会による関与を承認、促進、誘起し、HIV陽性の人々以外にも注目することが解決策になると考えられる。
HIV/エイズを抱えて生きる人々のための関連サービスの利用を促すことに加え、NGOや地域社会を基盤とする団体の多くは、その予防・ケアプログラムにボランティアや従業員として感染者を雇い入れている。HIV/エイズを抱えて生きる人々は、十分な研修とサポートを受けることで、同じ悩みを持つ人々にとって頼もしい教育者および相談相手となる。さらに、HIVに感染した人々は、活動の計画および評価において重要な役割を果たし、予防メッセージの内容やそのメッセージの普及方法について、貴重な助言を呈することもある。彼らは、HIV/エイズ政策、特に誹謗や差別の減少、有効な治療法の利用促進、関連法案の作成に関する国家的な意見交換において不可欠なパートナーなのである。
地域社会との協力関係
おそらくどの政府も、病気の蔓延に対して、単独で有効な対策を講じることはできないだろう。プログラムの質および有効性を維持し、国家的な対策の拡大を実現するには、地域社会を基盤とする組織との協力が不可欠と考えられる。地域社会を基盤とした組織は、信仰心や商業活動など、共通の価値観に基づく人々による正式な団体、もしくは、同じ地域に居住している人々、または似たような関心事を持つ人々の緩やかな交友関係といえる。地域社会との協力では、意思決定および方針作成の全段階において、地域社会の関与を支持し、尊重する。それは、地域社会を基盤とする組織や代表者に単に相談することよりはるかに大きな意味を持っている。
HIVの流行は、地域社会で最も軽視されている集団を起点とすることが多いが、こうした集団との協力は、我々に全く異なるタイプの貴重な経験をもたらすことになる。
協力関係の構築による利点とは?
- 人や場所との接触
- 優れたアイデア
- 援助
- 知識およびスキル
- 実践的な支援
- 影響力
- 金銭
- 政治的支援
- 教訓
これらの集団が過小評価されていることは、政府に代わる強いリーダーシップを通じて、協力関係における彼らの関与を支持し、奨励する必要があることを意味する。我々は、これらの集団(大衆やその指導者の間では不評な場合が多い)が広範囲にわたる流行の入口点であることを忘れてはならない。流行の被害を受けやすいこうした集団とのパートナーシップを早期に確立できない場合、1980年代後半にタイで起こったように、一般人口への急激な蔓延というリスクを負うことになる。例えば、多くのアジア諸国では、男性とセックスする男性に、個人的に、または集団として意見を聞くどころか、彼らの存在さえ認めていない。こうした男性を見つけ出すことに消極的な政府機関は、肯定的かつ非批判的な方法で彼らに接触するスキルとモチベーションを持った適切なNGO(または民間組織)による援助活動を支援するべきである。
性産業従事者をHIV/エイズ対策に参加させる:チベットの場合
タイ、インドおよびバングラデシュの性産業従事者を対象にしたプログラムでは、保健当局などが情報の普及を試みる場合と比較して、産業別の行動改革プログラムを企画および実施し、性産業従事者のスキル習得を可能にすることで、その産業全体で有効な結果が得られることが証明されている。
性産業従事者をプログラムに参加させる試みとして、まず、ラサの大型ナイトクラブや美容室に性産業従事者を斡旋する女性を対象にしたワークショップが行われた。ワークショップには、彼らに安全なセックスに関する助言と教育を行い、次に彼らがそれを職場の性産業従事者に伝える;保健セクターと娯楽産業の間に関係を確立する;という2つの目的があった。こうした相談型のアプローチは、チベットにおけるHIV/エイズの脅威を最小限化する共同努力への第一歩となった。
企業との協力
多くの企業において、HIV/エイズは、彼らの競争力を抑制するという悪影響をもたらしており、HIV/エイズの罹患率が高い地域および低い地域のどちらにおいても、その潜在的リスクは甚大である。HIV/エイズは、事業活動の核心に影響する問題である。個々の企業に対するHIV/エイズの影響としては、生産性の低下(長期欠勤者の増加、組織の崩壊)およびコストの増加(人材募集や研修の増加、保険や年金の増加、健康管理および葬儀の費用)が挙げられる。スタッフの入れ替わりが多いとスキルや知識の移行が難しくなり、同僚の喪失、HIV/エイズ感染者への差別、業務の破綻により、モラルに重大な影響が及ぶと考えられる。事業に対するHIV/エイズの潜在的影響に関する情報を入手できれば、多くの企業が積極的な対応を行うようになると考えられる。
世界経済には様々な利害関係者が関与しており、彼らの重要性および複雑性が増していることを考えると、企業は、対応力および競争力を保ち、その名声を維持するために、直接の事業パートナーをHIV/エイズの影響から守らなければならない。パートナーには、中小企業を中心とする供給者やサービスネットワーク、そして顧客が含まれる。企業によるアプローチは、ダイナミックかつ革新的で、ニーズに基づいたものになっている。例えば、インドでは、デリーの若いビジネスマンで構成される企業連合が、社会的に軽視されている都市部の集団を対象にした「ユース・リーチ」プロジェクトに対して、電話と電話線を寄付した。UNAIDSは、HIV/エイズへの対抗策として実務経験から得た主な教訓を示している:
- HIV/エイズ対策としての事業例を示すことで、労働力のすべてのレベルにおいて、責任あるリーダーシップ(CEO、取締役、管理職)と理解を確保する。
- ターゲットのニーズに合った会社の中核的ビジネススキルおよび専門知識に合致する企画を策定する。
- 真の有効性を確保し、職場を越えて地域社会として問題に対応できる多面的なアプローチを行う。
- HIV/エイズの患者と共に相談型アプローチを行い、計画の適切な方向付けおよび優先順位付けを行う。
HIV/エイズ対策における宗教団体および宗教指導者の役割
国家的なHIV/エイズ対策プログラムにおける重要戦略の一つに、HIV/エイズへの感染抑制において宗教指導者の役割を重視することが挙げられる。アジアでは、この方法により、大きな進展が認められている。インドネシアの厚生大臣の提唱により、イスラム教の宗教指導者が様々なセミナーを開催している。タイでは、仏教僧により、HIVの予防、治療およびサポートを目的としたプログラムが設置されている。例えば、チェンマイの仏寺HuaRinが行う在宅ケアプロジェクトでは、HIV/エイズの女性に治療やサポートを提供するだけでなく、彼らに対する非難を軽減するために、村人への教育も行っている。カトリック系の組織であるカリタス・フィリピンは、同国内でHIV/エイズの教育活動を続けている。HIV/エイズの予防、サポートおよび治療において、宗教指導者が非常に重要な役割を果たすことが認められている。アセアンおよび非アセアン諸国の様々な宗教団体がその経験を共有することで、多種多様な戦略を学び、理解を深めることができると考えられる。
HIV/エイズ対策に宗教グループが参加することで、多くの利点が期待できる:
- 宗教団体の多くは、HIV対策に利用できる非常に優れた人材資源を持っている。これらの宗教団体は、学校、病院、クリニック、孤児院を保有している。性的問題の議論やコンドームの利用促進をいやがる団体もあるが、少なくとも、治療やサポートを中心としたサービスの提供には協力してもらえるだろう。宗教指導者の中には、自身の宗教的信念を曲げずに、こうした活動を支援している人もいる。
- 宗教は人々の生活に欠くことのできない役目を果たしており、人々の宗教的信仰や習慣を無視して効果的なHIV/エイズ予防プログラムを行うことはできない。例えば、政府やNGOは、宗教的信仰が男女の関係にどのように影響しているかを考慮する必要がある。女性がHIV/エイズのリスクを避けられない運命と考える場合、教育プログラムの効果はあまり期待できない。また、宗教的信仰や習慣は、HIVの患者に対する治療やサポートにおいても重要な役割を持つ。宗教がどのような面で人々の支えになるかを理解することが重要である。
HIV/AIDS (HIV/エイズ)
HIVおよびエイズの攻撃
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