日本 プロライフ ムーブメント

問われる胎児組織の移植医療

再生は医学の研究における、特に組織の若返りや再生や移植の分野における推進力となっています。しかし、医療としての再生は悪いことなのでしょうか。 

人間の胎児の生物医学的使用というテーマに関して、このことはじっくりと考えてみるべき重要な問題です。というのは、胎児組織研究という明るい展望とともに、不安な現実があるからです。最近のぞっとするようなニュースで明らかになったように、ブリティッシュコロンビア州、ネブラスカ州、コロラド州の大学や他の施設の医学研究者は、提供者に、「胎児組織」を注文するだけでなく、足の骨や肝臓や脾臓や目全体や他の臓器まで注文をしたのです。そして、「新しい再生技術に関するカナダ王立委員会の警告」にもかかわらず、まさにそのような市場が生まれているという明らかな兆候が見られるのです。胎児の体の一部が、営利目的で売られているのです。「文明社会では、売り物にされてはならないものがあります。しかし今、私たちは倫理的に何でもオーケーの状況になってしまっています。」と、『ヒューマンボディショップ:臓器売買と生命操作の裏側』の著者のアンドリュー・キンブレル氏が最近語っています。 

胎児組織の最も直接的な臨床応用例は、ここ十年ほど行なわれてきた、パーキンソン病の患者の脳に、胎児の脳の組織を移植することでした。ここに、必死の望みと、道徳的苦悩と、当初の科学と民衆の熱狂と、いまも強く否定されているけれども、究極的失敗の物語があるのです。 

パーキンソン病は、主として運動神経の喪失や不随意の震えや筋肉の硬化や動きの緩慢さや平衡感覚および歩行の障害に特徴づけられる、進行性、脳の退行異常です。 

新しい治療法を求めて様々な脳の手術が試みられました。胎児組織移植の背景となっている理論は、中絶された胎児から取り出されたドーパミンを作り出す細胞を、パーキンソン病の患者の脳の奥深くにある患部に注入すると、それが根付いて必要とされるドーパミンを作り始める可能性があるというものです。しかし、一連の限られた実験対象となっていないカルテからは、実際的な成功の証拠はほとんどわかりません。最終的に、アメリカ予防衛生研究所の資金援助による計画的な研究によって、胎児組織の使用は本質的に価値がないことが明らかになりました。このことはその分野の研究者にとって大きな失望でしたが、「胎児組織移植による、パーキンソン病治療における進歩と成功のヒント」のような見出しだけで、この結果の全貌は一般大衆には知らされませんでした。 

倫理的観点から、受精の瞬間に人間のいのちが始まることを認識していない人々でさえ、胎児組織移植の問題に関しては、発達段階初期の胎児についてのある科学的な事実に注意を引かれ、当然そのことを少なからず心配しています。中絶はたいてい、8週目から12週目に行なわれます。この時期がまさに、胎児の脳が移植の可能性のために摘出される時期なのです。この時期の胎児は、脳があるばかりでなく、驚くべき程度にまで分化をしているのです。 

純粋な研究室内での研究にせよ、臨床実験にせよ、胎児組織を使う科学者は、中絶論争を避けて通ることはできません。 

胎児組織の使用を擁護する人々はしばしば、二項目の主張をします。一つは、胎児組織移植は、長い間、尊ばれてきた医学的利他主義の形態である臓器提供の延長にすぎないというものです。しかしながら、胎児組織の使用に反対の人々は、臓器移植は私たちが避けようと心がけている死亡事故や殺人といった悲劇から生じていると反撃しています。一方中絶は私たちの社会では選択できるものになっており、多くの人がそれを絶対的な権利の一つだと認めています。 

胎児組織の使用を擁護している人々によってなされる二つ目の主張は、「それを無駄にしないようにしよう」という考え方です。選択的中絶に反対している人々は、そうでなければ捨てられるであろう物で科学に貢献できることに救いのメリットがあることを知っています。そして、どのようにして得られたにせよ、潜在的に有用なデータの使用をこのように正当化することの限界についてはどうでしょうか。マイケル・マーラス教授は、生物倫理的な論争におけるナチズムヘの無差別な傾倒に賢明にも警告を発していますが、第三帝国下の人体実験やアジアの戦争捕虜に対して行なわれた残忍な実験から得られた日本のデータという強烈な事例を参照せずに、不正に得られた医学的データの話題に触れることはできません。 

胎児組織移植を取り巻いている、保障はないけれどもうまくいきそうだという雰囲気には、やっかいな面があります。トロント大学の共同生命倫理学センターの調査で、中絶をしようと考えている女性の17%が、もし胎児組織が医学的使用のために提供されるなら、中絶を進んでしてもよいと考えていることがわかりました。カナダでの現在年間10万件以上の中絶率やアメリカでの年間140万件以上の中絶率のことをじっくりと考えれば、誤った前提に基づいて発生するかもしれない中絶件数の増加は、現実的な公衆衛生問題となります。 

胎児組織移植は実験が始まってからもう10年になりますが、進歩はほとんど見られませんでした。一方、パーキンソン病治療のための新薬が作られ続け、今では、胎児組織を必要とせず、症状の進行したパーキンソン病の患者の身体機能の衰えを先のばしすることに効果があると証明された脳の手術法が二つあります。 

トロント大学の神経外科医のアンドレス・ロザノ氏は、神経科医のアンソニー・ラング氏と共に、淡蒼球切開術(舞踏病の外科手術に応用される法)と深部大脳刺激という手術法における先駆者として認められています。 

最近、幹細胞移植の可能性と共に、新しい希望と論争が生まれています。普通、人間の胚の中に存在しているこの発達の初期段階にある「万能性」の細胞は、脳細胞を含めていくつかの種類の細胞に発達させることができます。論争は、これらの万能性の細胞を取り出すために、中絶された人間の胚を使うことの必要性に関するものでした。しかしこの倫理的なジレンマでさえやがて、そのような幹細胞は大人の人間の組織の中にも発見できるという最近の驚くべき報告があった今となっては回避できるかもしれません。多くの研究がこれからなされなければなりませんが、科学者の中には、私たち一人一人が、病気にかかっている体の部分を再生させたり、若返らせたりするのに必要な全ての細胞を隠し持っているのではないかと考えている人もいます。 

そのことは、やがて、科学者はその過程で人間の尊厳と妥協する必要なく、前進していく道をしばしば見つけるだろうということを示しています。 

Ranalli, Paul (ラナリ・ポール) 
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