大量消費・大量廃棄社会への反省から
消費者・市民が環境問題を理解し、その消費生活・行動を変えたとき、市場・経済も変わるのです。
これまで消費者・市民は「消費者は王様」といわれ、メーカーや販売事業者のいわれるままに消費生活・行動を続けてきたのではないでしょうか、
ここにあげているのは、高度経済成長の時代に、ある広告代理店が商品開発・販売のための「戦略10訓」として使ったものだそうですが、消費者の心理を分析してうまく定式化したものといえます。
1 もっと使わせろ / 2 捨てさせろ
3 無駄遣いさせろ / 4 季節を忘れさせろ
5 贈り物をさせろ / 6 組み合わせで買わせろ
7 きっかけを投じろ / 8 流行おくれにさせろ
9 気安く買わせろ / 10 混乱を作り出せ
このようななかで、大量生産・大量流通・大量消費、そして大量廃棄の暮らしが創り出され、その結果、さまざまな環境問題が起きてきたといってもよいのです。
このことに気がついた消費者・市民のなかで、「グリーンコンシューマー」を志向する動きが出始めるのです。
高度経済成長が「石油ショック」によって終焉しようとする時期に、このことを強く意識した消費者団体・グループの活動が始まりますが、とくに、80年代後半から90年代にかけて地球環境問題がクローズアップされるなかで、「地球をまもるために私にできることは何だろう」ということから、アースデー行事がよびかけられ、ごみ・リサイクル問題などにとりくむ消費者・市民が大きく広がりました。このなかで、「グリーンコンシューマー」をめざす消費者・市民の活動が日本の社会の中で力を持ち始めるのです。
「グリーンコンシューマー」をめざす
「グリーンコンシューマー」とは、「環境に配慮した行動ができる消費者」のことです。とくに「買い物」にあたり、環境のことを意識し、環境にやさしい商品を意識的に選択購入できる消費者のことをいいます。このような消費者が増えることにより市場のグリーン化が促進される、お買い物が社会を変えるという運動理念が形成され、強い影響力を持つに至るのです。
このような活動のなかで、以下のような「グリーンコンシューマーの10原則」が強調されます。それを最初から意識したのかどうかわかりませんが、内容的には「戦略10訓」に対抗する者になっているといえます。
1 必要なものだけ買う
2 ごみを買わない。容器は再利用できるものを選ぶ
3 使い捨て商品は避け、長く使えるものを選ぶ
4 使う段階で環境への影響が少ないものを選ぶ
5 つくるときに環境を汚さず、つくる人の健康をそこなわないものを選ぶ
6 自分や家族の健康や安全をそこなわないものを選ぶ
7 使ったあと、リサイクルできるものを選ぶ
8 再生品を選ぶ
9 生産・流通・使用・廃棄の各段階で資源やエネルギーを浪費しないものを選ぶ
10 環境対策に積極的なお店やメーカーを選ぶ
「環境問題と企業」の部分で「グリーン購入」について紹介しましたが、このような企業の取組みと、消費者・市民の「グリーンコンシューマー」志向の動きが連動するなかで、市場のグリーン化の課題が環境問題解決のためのひとつの課題として浮かびあがったのです。
「グリーンな消費」から「エシカル消費」へ
企業の環境対応が、「環境」のみならず、さまざまな社会的課題に対応することがもとめられるなかで、CSR活動へと展開していったのと同じように、消費者・市民の立場から解決しなければならないさまざまな社会的課題について考え、行動することの重要さが強調されるようになるなかで、「グリーンな消費」から「エシカル消費」へと活動理念の広がりがみられるようになりました。すなわち、「エシカル消費」とは、「地域や社会、環境や人々に配慮して、モノやサービスを買うこと」をいうのですが、それは、毎日のお買いものが世界を変えるための一票になるのだとも言われ、たとえば、以下の活動などがイメージされました。
1 生産者と消費者がつながる(産地指定)
2 公正な価格で生産者を守る(フェア・トレード)
3 海の資源を守る
4 森の資源を守る
5 熱帯の森と人を守る
6 オーガニックな生活
7 国内外の環境を守る活動の支援 (日本生協連のパンフより)
消費者とSDGs
「エシカル消費」については、企業のCSR活動と同じように、何を、どのようにとりあげればよいのか、明確な判断基準がないともいわれましたが、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を決定したことにより、それにしたがって議論されることが多くなったようです。
SDGsには12番目の目標に「つくる責任、使う責任」という目標があります。商品やサービスを作り、提供する側の事業者責任と、それを使用し、消費する側の消費者・市民とを連動させながら、よりよい社会をつくりあげていこうというわけです。
消費者がライフスタイルを変え、環境をまもるだけでなく、より良い社会・経済をつくりあげることをめざして、商品・サービスの選択によって意思表示を行うことに大きな可能性を見出すことができるのではないでしょうか。
Tuyoshi Hara
ハラ ツヨシ
原 強
2021期 立命館大学講義テキスト
2021年10月29日複製許可を得る
2022年9月8日複製