日本 プロライフ ムーブメント

正義と平和委員会学習会

「生命倫理を考える」第3回

「ゲノム編集の危険性」

前回、遺伝子組み換え(外部の遺伝子を対象作物に取り入れ、突然変異を起こさせることで収穫量増や害虫に強いといった特徴を持たせる技術)作物(以下GMと略)が人体や環境への複合汚染の危険性があると指摘したが、新たな技術ゲノム編集は「原則として対象作物の遺伝子自体を改変するため、安全性が高いとされ、さらに品種改良の時間やコストを削減できる。」(日経19、3/10)からと、2019年9月19日、消費者庁はゲノム編集食品の表示を義務付けないと発表した(東京新聞)。理由は「(外部遺伝子を組み込まない食品は)…表示義務に違反する商品があっても見抜けないため」と説明(同東京新聞)。つまり、危険な食品も流通するとの政策なのだ。国民は危険なものと知らず食べさせられることになるのだ。「生命を守る」べきカトリック者として、このことを看過して良いのだろうか。9月11日に「生命倫理を考える」第3回を開き、「ゲノム編集の危険性」というテーマで講師の大沼淳一さんから話を聞いた。要旨は下記の通りである。

ゲノム編集とは

 「ゲノム(全遺伝情報)を人為的に操作することで遺伝性難病の治療につながると期待されるほか、農産物の大幅な品種改良に役立てる技術もある。」(日経19、2/7)。安倍首相は「ゲノム編集を成長戦略のど真ん中に位置付け」た(2018年6月15日閣議決定)。将来の市場規模は600兆円と予想されている。研究が活発化し、医療用では、白血病の新治療法「白血病患者の免疫細胞をゲノム編集して体内に戻す。(キメラ抗原受容体CARを組み込んだT細胞ががん化した白血球などを攻撃)。一回の治療費5000万円。保険適用認める」が了承された(中日19、2/21)。また、臓器移植用のヒト内臓を豚で作ることを文科省が3月1日付で出産をOKした。理由は臓器移植を希望する人に対して、提供者が少ない状態は慢性的に続いているから(中日19、4/29)。食品ではGABA15倍のトマトを開発。「GABAとは血圧の上昇を抑えたり、ストレスを軽減したりする効果があるとされるアミノ酸」(日経同)。他に収量を増やしたトウモロコシ、小麦の品種改良の開発がある。

 ゲノムとは特定の生物の遺伝子の総体を言い、遺伝子はDNAから出来ている。DNAは4種類の塩基(A、G、C、T)配列からなる「文章又は楽譜のようなもの」。つまり「生命の設計図」である蛋白質の設計図と製造工程図だ。そのゲノムの塩基配列を削除(ノックアウト)したり、別の塩基配列を挿入すること(ノックイン)をゲノム編集と言う。

ゲノム編集の道具

 ゲノム編集の道具にはゲノム編集酵素(DNAを切断・分解するハサミ)、CRISPR(Cas9、DNAを切断するハサミ)と案内役ガイド(gRNA、標的DNAに結合)が最も多く使われる。

ゲノム編集の技術的問題点

  • オフターゲット効果

 DNA分解酵素による標的DNAの認識エラーから標的外に結合するミスマッチ、標的遺伝子1個に対し編集効果を上げるためにハサミ(DNA分解酵素)を数十万~数百万個の濃度にするため、標的外の切断による影響をオフターゲット効果と呼び、オフターゲット変異が増加することとなる。(1兆分の1の確率で存在する配列にくっついて、その先をハサミが切る。これが、ゲノムの狙ったところ、特定のところを切る。しかし、20塩基中1塩基とか2塩基が違う、という程度のよく似た塩基配列があると、間違ってくっつき、その先のDNAを切って変異させる場合がある。それがオフターゲット変異)

  • Cas9酵素自身の問題

 Cas9でゲノム編集出来た細胞は、いったん切れたところが間違って修復されるので癌になりやすい。

  • マーカー遺伝子の問題

 マーカー遺伝子とは、ゲノム編集が出来た細胞と出来なかった細胞を識別・選択するもの。発光蛋白質を作る遺伝子と抗生物質耐性遺伝子がある。しかし、ゲノム編集過程で必要だが終われば不要な外来遺伝子となる。

ゲノム編集に対して何ができるか

 これらの技術的問題からゲノム編集は特定遺伝子を効率よくターゲットにできる以外は技術的には従来の遺伝子組換えとあまり変わらない。従って、冒頭に上げた消費者庁の説明は原発政策と同じく「安全」より「経済性」優先、弱者切り捨てとなっている。クリスチャンとして、安全審査の徹底と食品の表示義務を求め、「生命を守り、誰も置き去りにしない」ことを第一とした生活をして行きましょう。

Motoi Takeya(タケヤ・モトイ)
竹谷 基
カトリック半田教会
カトリック名古屋教区ニュース (4 0 9号)
Copyright ©2021年2月掲載
2021.3.12.許可を得て複製