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女性はなぜ中絶するのか? ー 最近の研究データの考察

望まない妊娠に直面した女性には3つの選択肢が用意されている:1)妊娠を継続して子どもを持つ、2)子どもを養子に出す、3)中絶する。望まない妊娠という問題をすばやく解決する方法として、女性の大半は他の選択肢を熟考しないまま中絶を選択する。中絶の前に女性が唯一相談できる相手が中絶クリニックであることも少なくない。多くの場合、そうした施設で働くカウンセラーは妊娠の継続や子どもを養子に出すという選択肢を勧めず、中絶を望ましい選択肢として売り込もうとする。したがって、中絶する女性にのみ知識や調査不足の責任があるのではなく、中絶前にカウンセリングを行う女性にもその責任はある。 

また、女性の多くは中絶によって否定的な影響や後遺症がもたらされる可能性に気づいていない。我々は中絶を決断する前にもっと多くの女性が、より効果的で十分な情報を得られる相談を行える方法がないか検証している。妊娠した女性が中絶を最善の解決策と考える前に、教会が彼女らの力になるべきである。司牧カウンセラーは、中絶前の女性と中絶後の女性の双方に教会がどのようなサービスを提供しているかを理解し、既存のプログラムの強化と新しいプログラムの導入に向けた取り組みを積極的に行う必要がある。 

中絶を選択する理由

平均して、女性は中絶を選択する理由を3つ以上挙げている:子どもを生むことで仕事、学業、その他自分の責務に支障が生じると述べた人が75%;子どもを育てる余裕がないと述べた人が約66%;片親になりたくない、あるいは夫やパートナーとの関係に問題を持ちたくないと述べた人が50%いる。 

こうした調査結果から、個人の目標、成果、経済的安定が一番重要であるという社会的観念が作られていると言って良いだろう。成功を目指すことも大切だが、そうした成功のために人の生命が軽視され、危機にさらされるのは全く別の問題である。 

こうした理由に加え、中絶した女性の約1%が子どもに障害があると言われ、12%が服薬などによって子どもが危害を受けているのではないかと心配している他、約15,000人の女性がレイプや近親相姦の結果として中絶を行っている。女性の13%が子どもに何らかの障害があるという理由で中絶しているが、そうした女性の12%は子どもに障害があるかどうかも確認していない。このことから、子どもに障害があるという「恐れ」は、中絶を決定する過程において実際には未知の要素であることがわかる。 

望まない妊娠から最終的に中絶を選択する女性の大半にとって、周囲からの有言無言のプレッシャーが最大の懸念と思われる。そうしたプレッシャーをかけるのは、友人や相手の男性、両親であるが、両親に妊娠を告げられない女性の場合は特に両親からのプレッシャーを心配する。その他の理由は基本的に現実的なものである。未婚で妊娠した女性にとって経済的な不安は大きい。ひとりで子どもを育てる負担は、女性が中絶を選択する十分な理由になる。その他の現実的な問題として、学歴の取得、既存のキャリアの維持や将来のキャリアの獲得などがある。 

多くの女性に中絶を選択させる決定要因として、法律の影響にも注意しなければならない。デビッド・リアドン(David Reardon)によると、「中絶する女性のほとんどは中絶の道徳性に疑問を持っていても、中絶が合法的であることに強く影響されている。」女性に「中絶の合法性を知っていたことで、中絶の道徳性に関するあなたの考えに影響がありましたか?」と質問したところ、70%の女性が法律の道徳的見解に大きく影響したと答えた。リアドンは「中絶する女性の大半は中絶を不道徳と考えているが、中絶に対する社会の法律的見解に安心し、そこに正当化の根拠を見出している。中には自分の道徳的価値観に疑問を持ちながら『合法的なのだから、きっと正しいはずだ』考える女性もいる。」と結論付けている。 

望まない妊娠をした女性には、道徳的、感情的、精神的、金銭的及び医学的サポート制度が必要な場合が多々あるが、家族や友人にそうしたサポートを求められないこともある。女性が出産を決意した場合、両親や友人から協力や支援を得られないことも珍しくない。そこで、彼女らは別のサポートを探す必要がある。 

司牧者によるカウンセリングの役割

妊娠を継続して出産しようと考える女性は、概して司牧カウンセラーや教会の代表者に助言を求める。一方、中絶を考えている女性が教会の代表者に助言を求めることはほとんどない。これが教会や司牧者が直面する大きな課題であり、矛盾なのである。 

女性の多くは中絶に対する教会の教えをかなり明確に理解しており、そこでの一般的な忠告や助言をあらかじめ予想ができている。 

中絶を真剣に考えている女性が司牧カウンセリングを求めない第2の理由として、彼女らの精神的・道徳的成熟度のレベルが未発達であることがあげられる。アラン・ガットマッチャー(Alan Guttmacher )研究所が1995年に発表したデータによると、中絶の52%が妊娠8週目までに行われている。このことから、妊娠が発覚して24週間で大半の女性が対策を打ち、中絶していることがわかる。 

さらに、リアドンは「妊娠がわかってから中絶するまでの間は精神的苦痛が大きく、他の選択肢を慎重に注意深く検討する余裕がない。このジレンマから逃れるには中絶が最も明白で手っ取り早い方法なのである。」と述べている。したがって、この段階で司牧カウンセラーなどのカウンセラーに助言を求めようと考え付く女性はほとんどいない。彼女らにとって「問題」の排除が最優先に思えるのだ。 

否定的な結着

中絶を決意する背景には、感情、人間関係、現実問題などさまざまな要素がある。両親、友人、金銭面などの直接的なプレッシャーや懸念も関係する。中絶するという女性の決定にほとんど影響しないのが、女性が中絶後に経験するであろう結果や後遺症である。 

中絶が女性に及ぼす否定的な影響を示した報告がある一方、ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーションの1992年10月号に「中絶トラウマ症候群の迷信」と題し、「この記事は存在しない医学的症候群に関するものである」という書き出しで始まる記事が発表された。この記事は、中絶後トラウマ症候群の存在を裏付ける科学的な研究は行われていないと主張している。 

その主張において、ストットランド(Stotland)は「トラウマ」という言葉は「人間の通常の経験を超えた衝撃的な経験により引き起こされる悪夢やフラッシュバックを特徴とする障害性の状態」と定義される精神症候群「外傷後ストレス障害」から引用したものと指摘している。この記事において、著者が中絶した女性にそうした症状は起こらないと言いたいのか、単に中絶に反対する人たちが医療に不慣れな人々に誤解をもたらすような用語を使っていると言いたいだけなのかはわからない。 

しかし、我々は中絶後の女性を支援する司牧カウンセラー、心理学者などのカウンセラーに個別にインタビューを行った結果、一部の女性に中絶後に深刻な影響や後遺症があることを確信している。女性の過半数が重度の後遺症を経験しているかどうかは定かでない。我々は、かなりの数の女性が中絶による短期的・長期的影響に苦しみ、専門的な支援や心のケアを必要とする場合も多いことを確認している。司牧カウンセラーは中絶問題について教育を受けているべきである。 

Laura Serfilippi Hoeing, M.A. and Kathi Healy, M.A.
( ローラ・サーフィリッピ・ホ−イング文学修士とカティ・ヒーリ−文学修士)
倫理と医療
第24巻12号 3〜4ページ
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