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“デザイン・ベビー”と優生思想

独連邦議会は7日、着床前の遺伝子の診断を条件付で容認する法案を賛成多数で採択した。議会には、条件付き賛成、反対、例外容認の3つの法案が提出され、最初の法案が賛成326票の過半数を獲得して採択された。

ドイツではスイス、オーストリア、アイルランドと同様、これまで「着床前診断」(Praimplantationsdiagnostik)は「胚の乱用」という理由から禁止されてきた。そのため、遺伝子病の苦しむ夫婦や遺伝子の障害を事前に除去できるという理由などから、着床前診断を希望する夫婦がPIDを容認している国に出掛けて診断を受けるケースが絶えなかった。 

ちなみに、ドイツでは「胚の保護法」に基づき、PIDは禁止されてきたが、独連邦裁判所が昨年夏、「一定の状況下では着床前診断は違法とはならない」と表明したことを受け、政府は法案作成に乗り出してきた。 

独連邦議会では約40人の議員が党の拘束なく、自身の見解を自由に述べた。4時間余りの論争後、採択された法案では、遺伝子病を抱える夫婦が健康な子供を生みたいという理由から着床前診断を希望する場合、倫理委員会の容認を受けて実施することができる。 

一定の条件付きとはいえ、着床前診断が認められたことで、「試験管の胚の選択は認められ、最終的には『優生思想』に繋がる危険性が出てきた」という声から、「神聖な生命の領域に人間が関与することになる。生命の倫理から言っても容認できない」(独ローマ・カトリック教会ケルン教区のマイスナー枢機卿)といったキリスト教会関係者の批判が出ている。 

また、「一度、容認されれば、ダムの崩壊と同じように、誰もがもはや止めることができなくなる」といった懸念を抱く医療関係者もいる。すなわち、「胎児の直接の性別選択はできないが、ダウン症候群の子供の出産を回避できる」からだ。だから、「両親の幸福を胎児の殺害で買うことになる」という辛らつな批判も飛び出すわけだ。 

PIDが認められれば、行き着き先は米国では既に半ば実現している“デザイン・ベビー”の誕生となる、という危惧もある。 

一方、賛成派は、「遺伝子病に悩む夫婦の健康な子供を生みたいという願いに応えることができる。その上、妊娠後期の中絶を減少できる」と主張するが、PIDが容認されているフランスでは、「妊娠後期の中絶件数が増えている。PIDが健康な子供を出産する完全な保証とは成り得ないからだ」(バチカン放送独語電子版)。 

以下は、当方の見解だ。PID問題の専門家ではないが、当方なりに考えてみた。 

遺伝子操作で問題のある遺伝子だけを除去できる医学技術があるならば、遺伝子病に悩む夫婦の願いに応えることは「時代の恩恵」として容認されるべきだろう。一方、遺伝子操作の乱用で「生命の倫理」が蹂躙される危険性も考慮しなければならない。 

PID問題だけではない。どんな最新技術や医療技術が開発されたとしても、当然のことだが、その受益者というべき人間がそれらをどのように利用するかで結果は大きく変わる。技術そのものが「生命の倫理」を蹂躙するわけではない。その技術を利用する人間が蹂躙するのだ。 

このように考えていくと、漠然としているが、「人間が良くなれば、全ての科学・医療技術の発展は本来、恩恵として自由に活用できるのではないか」という結論が見えてくる。 

ただし、「どうしたら人間は良くなるか」「良くなるとは何か」等の昔からのテーマがわれわれの前に依然、横たわっている。そして「人間が変わらない限り」、PIDを含む最新の科学・医療技術の応用では一定の条件や制限がやはり必要となってくるだろう。 

Editorial (オピニオン) 
国連記者室 
出典 ウィーン発『コンフィデンシャル』 
2011年7月12日掲載 
Copyright ©2011.8.15.許可を得て複製