2019年11月にフランシスコ教皇様は「すべてのいのちを守るため」のテーマのもとに訪日されました。テレビ記者にすべてのいのちとは誰のことですか?と問われた時に、教皇様は次の様に説明されています。「命は神から頂いた恵みです。生きている私たち自身も神からの贈物なのです。この恵みに感謝するための一番の方法は全ての命を守ることなのです。
現代において世界の文明は、ひとつの傾向が見られます。それは不要と思われるものは排除するという傾向です。様々な場において子どもたちが見捨てられています。生まれる事を許されずに見捨てられています。そしてもはや何も生み出さない存在として高齢者も見捨てられているのです。今私たちはこの子どもたちと高齢者の方々を大切にしなければいけません」と言われたのです。自分にとって邪魔になると思われる命は排除してしまおうという考えを、完全に否定されておられます。
今日本では生まれる前の子どもの命にとって大きな危機が迫っています。ひとつは「緊急避妊ピル」をドラッグで自由に買えるようにしようとしている事です。このピルによる作用は排卵抑制だけではなく、服用しても一定の割合で排卵しており受精もしています。すでに人の命の宿っている受精卵の子宮着床阻害や着床後の胚を極早期中絶をしてしまう作用もあるのです。様々な重篤な副作用も報告されています。
もうひとつの危機は「経口中絶薬」の承認問題です。本剤の使用は二段階で行われます。一剤目は医師の前で服用し、その作用で胎児を母体内で餓死させ、二日後に子宮を収縮させる二剤目を女性自身が服用して、死んだ胎児を排出させ、その残酷な処理も女性自身が行うのです。副作用は強い腹痛や時に何週間も続く出血があり、手術になる場合もあります。米国では2021年までに服用女性で26人の死者が報告されています。幼いいのちを抹殺するだけではなく、女性のいのちと健康も奪う恐ろしい化学物質なのです。
中絶問題を考える時には、前記の教皇様のお言葉を深く心に留める必要があるのではないでしょうか。高齢者にとっても厳しい時代になってきています。年金支給年齢の引き上げや、医療費自己負担金の増額もあります。若年人口の減少による高齢者比率の増加による結果でもあるのです。日本の65歳以上の人口割合は既に世界一です。政府内閣府による人口予測においても、現在1億2千6百万の人口は40年後に8千6百万人、90年後には4千2百万人と大幅な減少が予測されるとなっています。生物学的観点から見ても、生殖可能人口の著しい減少がさらに続き、日本人口の回復はもはや困難で、絶滅に向かっているとも言われています。
マザーテレサは「日本はすばらしい国です。日本人もすばらしい。でもお忘れなく、子を望まねばそれも消えます」と、また「こんにち、平和を破壊する一番恐ろしいものは堕胎です。みなさんは悩んでいる女性たちを助け、破壊することなく神の似姿である小さな胎児を恐れず、受け入れましょう。」と訪日時の日本講演でハッキリと預言されました。
今話題となっているSDGs(持続可能な開発目標)は、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を目指す世界共通の目標を掲げて、17の目標を提示しています。今後私たちがこの問題に関わる場合は、最も弱く小さく、声をあげる事すら出来ず、差別され、生きる人権すら排除されている母体内の幼い命を守ることこそ、SDGsの最も重要な最優先の努力目標とする必要がある事を、私たちが世界に発信していく必要があるのではないでしょうか。
Hirata, Kunio (ヒラタ・クニオ)
平田國夫
医学博士
生命尊重センター副代表
出典 聖母の騎士 2023年6月号
名古屋信徒協スマホニュース 令和5年5月号に加筆
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