日本 プロライフ ムーブメント

「命を選びなさい」―現代の性教育を考えるために

アメリカで、ある先生が授業で語った話です。 

「先生の親しい友達が、ある夜、突然たずねてきて、何も言わず泣き崩れた。彼はハンサムでスポーツマン、 いつも自信に満ちていた。なぜ泣いているのか、しばらく落ち着くのを待つしかありませんでした。彼は、 苦しそうに打ち明けはじめました。 

彼はその数か月前にすばらしい女性と出会い、二人は生涯を共にしたいと思うほど深く愛し合うようになりました。 二人は同棲をはじめました。最近、その彼女が体調を崩し、『風邪がなかなかよくならない』と思い、病院へ行ったところ 、エイズに感染していることがわかったのです。女性にとって彼は初めての人でしたが、彼のほうは以前、 遊びで複数の女性と関係したことがありました。エイズは、彼が恋人に感染させたのでした。 

友達はなぐさめようのないほど打ちのめされていた。『ぼくは彼女のために自分の命だって喜んで捧げる……それなのに、 ぼくは彼女をエイズに感染させてしまった……』。」 

先生は生徒たちに訴えかけました。将来伴侶となる人のために、いちばん良い贈りものができるようにしよう、 そのために純潔は大切なのだと。 

「安全なセックス」?

次のようなことをよく聞きます。若者にとって好きになったら性的関係を持つのは当然になっている、「責任ある行動」 を取れるように、「安全なセックス」を教えなくてはならないと。価値観や心の問題をいったん脇において、 考えてみましょう。 

医療関係者が深刻にとらえ警告しているように、今、若者たちの間で性感染症が急速に広がっています。多くの場合、 自覚症状がないため、本人は感染に気づかず、人にうつしていきます。また、完治しない病気が多いのです。そこで、「 愛する人を守るために」コンドームを使おう、と呼びかけられています。 

コンドームはもともと避妊具で(あまり効率のよくない)、病気を予防するものではありません。エイズに対しては、 実験室で85%の予防効果があるとされていますが、実際の状況は実験室とは違います。同じ効果があったとしても、85 %しかブレーキの効かない車に乗りたいと思いますか? アフリカ諸国での数々の統計や、タイとフィリピンの比較研究( コンドーム100%普及キャンペーンを行ったタイと、教会がコンドームに反対したフィリピン)(注1)など、 多くのデータが語るのは、コンドームを広く配布してもエイズの感染率を下げることはできず、 感染率を急激に下げる効果があるのは、パートナーの数を減らす教育(ウガンダで行われた国家的プロジェクトなど) だということです。(注2) 

深刻なのはエイズだけではありません。性感染症は不妊症や次世代の子どもの障害の原因にもなります。ヘルペスや、 若い女性の子宮頸(しきゅうけい)癌(がん)を引き起こすヒトパピロマウィルスは、 腹部や下肢などの肌を通しても感染するのでコンドームでは予防できません。 

子宮頸癌は予防できる、とワクチンが日本でも導入され、公費負担で安く受けられるようになりました。将来、 性感染症にかかることを予想し、まだいたいけな十一、二歳の女の子に打つのです。ところが、 この癌を引き起こすウィルスは10種類以上、導入されたアメリカ製ワクチンは2種類にしか効きません(注3)。 税金を使って異常なことが行われています。 

日本で十数年前に合法化された経口避妊薬ピルは、人工ホルモンのピルを毎日服用し、 擬似妊娠状態を保って排卵を抑えるというものです。しかし、必ずしも排卵は抑制されず、 数パーセントの割合で受精卵の早期中絶が起きていると言われます。 若い健康な女性はホルモンのバランスによって健康が保たれ、いつか命を宿し、産むように準備されています。 女の子は生まれたときには、生涯排卵される卵子がすべて卵巣に備わっています。ピルを服用すると、健康な体に毎日、 人工のホルモンを浴びせることになります。アメリカのロイド・デュプランティス薬学博士は、「 毒を飲むのと同じことです」と断言しています。ピルには、血栓や心筋梗塞、免疫力の低下など、 多くの深刻な作用があります。イギリスでは、ピルを服用して亡くなった十代の少女たちの親が、 製薬会社を相手取って集団訴訟を起こしています。 

「命を選びなさい」

命への責任を伴う性の意味を無視し、安全のためといってさまざまな道具が差し出され、 若者の心と体は危険にさらされています。アメリカのマーガレット・ミード医師(注4)は、「最も悲しいケースは?」 と問われ、答えています。「どのケースも、若い人が心身ともに苦しむのを見るのは本当に辛いですが、 影響の長く続くケースが最も辛いかもしれません。……健康な女の子が、 生まれて二日目からひきつけを起こしたケースがあります。母子感染で、脳にヘルペスが感染したためでした。 その両親にはもう一人子どもが生まれましたが、この赤ちゃんは歩いたり話したりするのが困難です。 16歳の若い女性が子宮頸癌の手術で不妊になるのを見るのも、胸が痛みます。子宮頸癌は、 子宮頸管の一部あるいは全部を摘出しなければなりません。その影響は彼女と夫だけでなく、 祖父母となるはずであった人々など、ほかの家族にも及びます。皆が、人生の最も豊かな祝福を奪われるのです。」 

私たちは、神様からの賜物である「性」を、面倒な問題を引き起こすもの、死をもたらすもの、 若者の心を押しつぶすものではなく、本来のいのちあふれる恵みとして、取り戻さなければなりません。それは、 ピルやコンドーム、ワクチンによってではないはずです。人を愛するために、自分のいのちを贈りものとするために、「性 」を結婚の中で大切にすることを伝え、この決して楽ではない道を共に歩むことによってではないでしょうか。 

「今日、私は、命と死、祝福と呪いをあなたの前に置いた。命を選びなさい。あなたの神、主を愛し、 その声に聞き従いなさい。主こそあなたの命である。」(申命記30・19‐20) 

Sakura Izumi (サクラ イズミ) 
佐倉 泉 
カトリック生活 2012年8月号掲載 
Copyright ©2012.9.22.許可を得て複製