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私の「現代環境論」(3) 気候変動(地球温暖化)問題

気候変動(地球温暖化)問題は地球環境問題の最大のテーマです。

気候変動(地球温暖化)問題を考えるポイントは、その原因とメカニズム、その影響、その対策、解決のための国際交渉、などです。それぞれについてさまざまな角度からの検討が必要ですが、ここでは、気候変動問題の科学、気候変動問題と政治ということで、まとめておきます。

<気候変動問題の科学>

気候変動の科学ということでは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の活動についてのべなければなりません。IPCCは、環境と開発に関する世界委員会が報告書(1987)をまとめ、Sustainable Development概念を提唱し、また、気候変動対策が国際的な課題としてうかびあがるなかで設立されました。IPCCは世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立されたもので、各国政府から推薦された科学者があつまり、気候変動に関する科学的・技術的・社会経済的な評価を行い、得られた知見を政策決定者をはじめ、広く一般に利用してもらうことを役割としています。

IPCCは、この間、5回にわたり報告書を公表しています。それぞれが重要な政策決定につながってきたものです。

 第1次報告書(1990)

 第2次報告書(1995)

 第3次報告書(2001)

 第4次報告書(2007)

 第5次報告書(2014)

最新の報告書である第5次報告書では、

・人の排出する温室効果ガスが、地球温暖化の主因である可能性が極めて高い

・長期にわたり気候が変化し、社会と生態系に厳しく、取り戻せない悪影響が及ぶ可能性が増す

・21世紀末の平均気温は20世紀末より最大4.8℃高く、海面上昇は20㎝上昇する

・熱波や干ばつ、洪水の頻度が増し、食糧や水の不足、貧困、紛争を招く恐れがある

・現世代が努力しないと、「重荷を背負わされる」のは将来世代だ

などとのべています。

このあとさらに、気候変動による影響をおさえるために、気温上昇を1.5℃でとめなければならないということに焦点をあてて、「1.5℃特別レポート」(2018)を公表しています。

さらに、2019年8月の「土地関係特別報告書」や2019年9月の「海洋氷雪圏特別報告書」などを発表しています。2019年5月には第49回総会を国立京都国際会館で開催し、パリ協定の実施に不可欠な各国の温室効果ガス排出量の算定方法に関する「2019年方法論報告書」(いわゆる「IPCC京都ガイドライン」)を採択しています。

 2021年8月、IPCC第6次評価報告書・第1作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表されました。 報告書は、地球温暖化の科学的根拠をまとめたもので、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」とし、「向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は1.5℃及び2℃を超える」としています。

こんご、第2作業部会報告(影響・適応・脆弱性)、第3作業部会(気候変動の緩和)が順次公表され、最終的に2022年秋に統合報告書としてまとめられるとのことです。

<気候変動問題と政治>

気候変動問題が国際政治の場でとりあげられるようになったのは1980年代後半からです。とくに、国連環境開発会議(地球サミット)(1992)では議論の焦点になり、その議論は気候変動枠組条約につながったといえます。気候変動枠組条約は1994年に発効し、気候変動枠組条約締約国会議(COP)がスタートします(1995)。

第3回締約国会議(COP3)は1997年12月に京都で開催され、「京都議定書」が採択されます。しかし、当時の最大のCO2排出国であるアメリカが離脱するなかで、その発効は2005年までずれ込みました。それでも国際的に共同で目標を分かち合いCO2削減に向けた取組みが始まったことはとても重要なことでした。

2015年12月、COP21はパリで開催され、気候変動対策が緊急の課題になっていることを確認し、「パリ協定」を採択しました。

「パリ協定」は、

・世界全体の目標として、気温上昇を2℃より低く抑える、さらに1.5℃未満にむけて努力する、

・今世紀後半に温室効果ガスの排出と吸収を均衡させる

・各国の削減目標の作成・報告、その達成の国内対策を義務化する

・途上国への支援

・被害の軽減策を削減策と並ぶ柱にする

など、これまで以上に踏み込んだものになっています。しかし、これらの目標を達成したとしても気候変動が止められるかどうかという問題を抱えているのです。

このようななかで、いまや「気候危機」の時代にはいったとの認識も広がっています。相次ぐ巨大台風、集中豪雨にともなう自然災害、記録的な猛暑や暖冬など、日本の現実を見ても、確実に気候変動は進行しているといわねばなりません。

残された時間は限られています。気候変動を抑えるために、脱炭素社会にむかって社会・経済全体が大きく転換することが求められています。

 2020年2月11日、KYOTO地球環境殿堂表彰式に出席したIPCC議長のホーセン・リー氏は謝辞・講演を通じて、以下のように述べました。「気候危機」に立ち向かう覚悟が示されたものだといえます。

 「現在までに地球の温度はすでに1度ほど上昇している。これにより、海面上昇、暴風など、気候変動による悪影響が目立っている。このようななかで「パリ協定」は1.5℃の上昇の範囲で抑えることを目指しているが、現在、各国が準備している削減目標では目標達成ができない。さらにすべての国・セクターがさまざまな努力を重ねることが求められている。気候変動の影響を「緩和」するための取組みも重要になっている。とりわけ、もっとも気候変動のリスクにさらされている貧困国の人々への国際的な支援が求められている。気候変動に対する取組みは、新しいテクノロジーの開発、投資先の変更、さまざまなイノベーションなど、新しいチャンスにもなる。IPCCでは、現在、これらの取組みを促すために「第6次評価報告書」を2021年から2022年にむけて準備している。新たな選択肢を示すことが重要である。脱炭素化への重要な10年にむかって取組みを開始しよう。」(筆者の責任で要約したものです)

Tuyoshi Hara
ハラ ツヨシ
原  強
2021期 立命館大学講義テキスト
2021年10月29日複製許可を得る

2021年12月29日複製