世界に約14億人の信者を有するローマ・カトリック教会で今年5月,米国人のローマ教皇レオ14世が選出されて以来、外の世界に向かっては大きな波乱もなく、新教皇は順調なスタートを切った。しかし、同性愛カップルへの教会の祝福に対し、レオ14世が明確に拒否したことから、バチカン教皇庁と「祝福は愛に力を与える ― 愛し合うカップルのための祝福」を主張するドイツ教会の間で論争が起きている。
前教皇フランシスコは、教皇在位中、LGBTQグループと定期的に面会し、同性愛の信者に対して寛容な姿勢を示してきた。そしてバチカン教理省は2023年12月18日、「Fiducia Supplicans(司牧的な祝福の意義について)」宣言を発し、一定の条件の下で再婚または同性カップルの祝福を認めた。ただし、同宣言は、特にアフリカのカトリック司教たちの間で激しい批判を巻き起こした。
同性愛カップルへの祝福に関するドイツ教会のマニュエルは、バチカンの「Fiducia Supplicans」の内容、すなわち同性間やその他の「非正規」な関係にある人々に対する教会による非公式の祝福の規範を明らかに超えている。
そのため、ドイツ教会の教区の中でも混乱が見える。ローマ教皇庁によって承認された祝福と一致しないという理由から、バイエルン州の4つの教区とケルン大司教区は、自らの管轄区域におけるドイツ教会のマニュエルの施行を拒否している。その一方、リンブルク、トリーア、オスナブリュックの各教区はドイツ教会のマニュアルを公式の教会広報に掲載し、それぞれの教区において法的効力を持たせている、といった具合だ。
バチカンの立場は「同性愛カップルへの祝福はあくまでも自発的に行われるべきであり、厳粛な典礼の一部として行われるべきではない。カトリックの教義に基づき男女間のカップルにのみ与えられる結婚の秘跡と混同させてはならない」となっている。
同性愛カップルへの教会の祝福論争を更にエスカレートさせたのは、レオ14世がウェブサイト「Crux」の米国人ジャーナリスト、エリーゼ・アン・アレン氏との2度にわたる長時間の対談の中で、「北欧では既に『愛し合う人々を祝福する』儀式が行われている』と不満を漏らし、「これらは教会の教えと一致しない」と述べていることに発する。
教皇の発言がメディアに伝わると、ドイツ司教会議の秋の総会で問題となった。ドイツ司教会議のゲオルク・ベッツィング議長は、バチカンの公式の見解とドイツ教会が公表した祝福へのハンドブックの間の矛盾点を説明しなければならなくなったわけだ。
欧州のカトリック教会ではクィアの信者が増えてきている。同時に、同性愛者を差別してはいけないと考え、積極的にクィアの信者と対話を模索する聖職者が出てきた。ドイツのエッセン=デルヴィヒの聖ミヒャエル教区主催の祭典で地元のカトリック青年共同体(KjG)がレインボーフラッグを掲げたことが発端となって、同性愛者を支援する信者とそれに反対する信者間で暴力事件が起きたことがあった。
同性愛カップルへの教会の祝福問題でドイツ側と協議してきたバチカンのビクトル・フェルナンデス教理省長官は10月8日、教会内の混乱を収めるため、米国のポータルサイト「ザ・ピラー」の中で、「教理省はドイツ教会の決定を一切承認していないと通知済みだ」と述べている。
バチカンの宣言「Fiducia supplicans」と、法的拘束力のないドイツの祝福に関するマニュエルとの間の緊張関係が今後も続くだろう。しかし、司教たちが官報に掲載することで指針を法的拘束力のあるものにした場合、バチカンは遅かれ早かれ法的措置を取らざるを得ないだろう。
ちなみに、前教皇フランシスコは2022年6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、ドイツ教会司教会議の教会刷新運動に異議を唱えたことがある。要するに、教会改革も行き過ぎはダメというわけだ。
Editorial (オピニオン)
国連記者室
Copyright © 2025年10月22日
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