ヒトはいつからヒトなのか?
米国上院司法分科委員会にて発表された内容

Lejeune, Jerome (ルジューヌ・ジェローム)
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net

ヒトはいつからヒトなのか?この質問に対し、最新の科学に基づいてできる限り正確な答えを出したいと思う。現代の生物学では、祖先は物質的連鎖の連続によって子孫を残すことが明らかになっている。すなわち、男性の細胞(精子)によって女性の細胞(卵子)が受精することで、その種に新しい生命が誕生する。生命は非常に長い歴史を持っているが、各々の生命は、とても貴重な出来事、すなわち受精の瞬間から始まっている。

物質的連鎖とは、糸状の分子であるDNAを指す。個々の生殖細胞において、長さ約1メートルのリボンのような形をしたDNAは、いくつもの小片に分かれて存在している(ヒトの場合は23個)。各小片は慎重に巻き上げられ、束になっているため(ミニカセットの磁気テープを想像して欲しい)、顕微鏡下で観察すると、小さな棹のように見える。これが染色体である。

受精によって父親由来の23個の染色体が母親由来の23個の染色体と結合するとすぐ、新しい個体独自の性質を表現するために必要かつ十分な遺伝情報がすべて集められる。そして、テープレコーダーにミニカセットを入れるとすぐにシンフォニーが演奏されるように、新しい生命も、受精の瞬間に自己表現を開始するのである。

自然科学と法律学はよく似ている。健康に恵まれた人を生物学者が生まれつき優れた遺伝性質を持つ人と呼ぶように、すべての人の利益になるように調和しながら発展していく社会を、立法者は公平な制度を持った社会と呼ぶ。

自然のしくみもこれと同じである。染色体は、生命の法則を記した目録で、新しい生命体に集められると(受精が情報収集の過程)、その人を構成する性質が完全な形で表記される。

私たちを驚嘆させるのは、その聖典の詳細さである。これには、私たちの体の形成のみならず、最も強力な問題解決装置であり、宇宙の法則までも分析する能力をもった脳の形成にも必要かつ十分な遺伝情報がすべて凝縮されており、しかも個体の基本構造を記したこの聖典は、針の先にきっちりと収まってしまうのである。

さらに驚くべきことがある。生殖細胞が成熟する過程で、遺伝情報はさまざまに入れ替わるため、受胎産物は、過去の個体とも、未来に誕生する個体とも全く異なる独自の遺伝情報の組合せを受け取ることになる。受胎産物は、各々が唯一の性質を持っており、他のものに置き換えることはできない。一卵性双生児や真正の両性個体(男性生殖器と女性生殖器の両方を持つ異常な個体)は、遺伝子の構成は1人につき1つという法則が当てはまらない例外である。ただし、興味深いことに、こうした例外が起るのは受精の瞬間をおいて他にない。受精後にアクシデントが起ったとしても、その個体が両性個体として発達することはないのである。

こうした事実は以前から知られており、試験管ベビーが作成されるようになれば、そのベビーは試験管の性質を受け継ぐのではなく、受胎産物として自主性を表現するはずであるという意見に誰もが賛同していた。

そして今、試験管ベビーは現実に存在している。

牝牛の卵子が牡牛の精子によって受精したら、液体の中を自由に漂っているその受胎産物は、牛としての生涯をすでに開始していることになる。受胎産物は、通常1週間ほどかけてファローピオ管を移動し、子宮にたどり着く。しかし、科学の力を利用すれば、この受胎産物は、それよりもずっと遠くまで移動し、海までも渡ることができるのだ!

体重2mgの牛の受胎産物を最も効率的に移動させるために、この受胎産物をメスうさぎのファローピオ管に移植する。(妊娠している牝牛を航空貨物で運ぶよりずっと簡単である。)目的地に到着すると、まだ小さな存在であるこの生体を慎重に取り出し、レシピエントである牝牛の子宮内に十分注意しながら着床させる。数ヵ月後には、本当の両親(卵子と精子を提供した牛)から受け取った遺伝資質をすべて持った子牛が誕生するが、この子牛が一時的な入れ物として利用した動物(うさぎ)や育ての親として子宮を借りた牝牛の性質を発現することはない。

1つの個体を形成するには何個の細胞が必要なのか?最近の研究から、その答えが明らかになっている。マウスの受胎産物をごく初期の段階で解体すると(特定の酵素で処理する)、細胞をばらばらに分解することができる。複数の胚芽を分解して得たこれらの細胞の懸濁液を混合すると、細胞が再び組み合わされる。その小さな集合体をレシピエントであるメスのマウスに移植すると、そのうちの何匹かが(実際にはごく少数)子宮内で発育し、全く正常なマウスとして誕生する。理論的に予想・立証されている通り、キメラのマウスが2個、時には3個の胚芽から誕生することはあるが、それ以上の胚芽から誕生することはない。1個の個体の形成に関わる細胞は最大で3個ということになる。

この実験結果から、受精卵は、通常2つに分裂し、そのうちの1つがもう一度分裂することで、3という以外な数の細胞が、それを保護する透明帯の中で誕生すると考えられる。

私たちの知る限り、個体の個性化には、受胎に続く数分間が必要不可欠な段階となる(3つの基礎細胞に分裂した段階)。それは、イギリス人の(ロバート)エドワード博士と(パトリック)ステップトゥ博士が、生体外(生体の外、試験管内)において(レズリー)ブラウン夫人から成熟した卵子を(ギルバート)ブラウン氏の精子で受精させた結果からも明らかである。数日後に博士らがブラウン夫人の子宮に移植した小さな受胎産物は、腫瘍になることも動物になることもなかった。この受胎産物は、信じられないほど幼いルイーズ・ブラウンとして成長を続けた。彼女は、今3歳(*この論文を書いて21年後の今は24才)になった。

受胎産物の生存能力は驚くべきものである。実験では、マウスの受胎産物を超低温で凍結し(-269℃まで)、慎重に解凍した後、着床させることに成功している。それをさらに成長させるには、レシピエントの子宮粘膜から胚盤に十分な栄養素が供給されるだけでよい。生命カプセル、すなわち羊水に包まれた初期の生体は、宇宙服に身を包んで月に降り立った宇宙飛行士ほどの生命力がある。すなわち、母船から必要なエネルギーを常に補給し続けている。こうした栄養補給は、生体の生存に不可欠であるが、最高の技術を駆使したスペースシャトルでも宇宙飛行士を作成できないように、それによって赤ん坊を「作る」ことはできない。その違いは、動き始めた胎児によってさらに明らかになる。

ソナーを使った高度な画像表示技術により、1年前にイギリスのイアン・ドナルド博士が、世界で一番若いスター、すなわち受精後11週の胎児が子宮の中で踊っている様子を映像化することに成功した。胎児は、言ってみればトランポリンをしていたのである!胎児は、膝を曲げ、壁を押しながら上下に何度も動いている。胎児の体は羊水と同じ浮力があるため、彼は引力を感じることはなく、地上の他の場所では不可能なぐらい非常にゆっくりとした優美な動作でダンスを踊っている。これほどゆるやかな動作が行えるのは、引力のない状態にいる宇宙飛行士ぐらいのものだろう。(ところで、初めての宇宙旅行では、燃料を運ぶチューブをどこにつけるかが技術者の課題となった。結局、臍帯を改良する形で宇宙服のベルトのバックルがチューブをつなぐ場所に選ばれた。)

以前、上院で証言したとき、私は、失礼ながら親指より小さい男のおとぎ話を引用した。妊娠2ヶ月の胎児では、頭から臀部までが親指よりも短い。胡桃の殻に簡単に収まってしまう大きさながら、この胎児には、手、足、頭、内臓、脳をはじめ、すべての器官があるべき場所に備わっている。心臓は1ヶ月前から鼓動を打っている。よく見ると、手のひらにはシワがあり、占い師がこの小さな人間の未来を予言することも可能だ。高性能な拡大鏡があれば、指紋を検出することもできる。身分証明書に必要な書類をすべて揃えることができるのだ。

技術の目覚しい発達により、私たちは胎児のプライバシーを覗くことになった。特別な通水式聴音器を用いれば、生命の最も初期の音楽を聞くことができる。その音楽は、1分間に60〜70回(母親の心臓の鼓動)の割合で聞こえる深く力強い打音と、150〜160回(胎児の心臓の鼓動)というもっと早く、高ピッチのリズム音で構成されている。このコントラバスとマラカスのような音の競演は、すべてのポップ・ミュージックの基本リズムとなっている。

今や、私たちは、胎児が何を感じ、何を聞き、何を味わっているかを知ることができるだけでなく、若さと魅力に溢れたダンスをしている様子さえ観察できる。科学は親指トムのおとぎ話、すなわち、私たちの誰もが子宮の中で経験している物語を再現することに成功した。

こうした検査がいかに精度の高いものであるかを説明しよう。受精直後、子宮への移植までにはまだ数日かかるごく初期の段階で、ベリー状の個体から1つの細胞を取り除き、それを培養して染色体の様子を調べることができる。学生がこの細胞を顕微鏡で見て、その染色体の数、形、結合パターンを確認できなければ、また、それがチンパンジーのものなのか人間のものなのかを問題なく区別できなければ、彼は試験に落ちてしまうだろう。

受精の瞬間に新しいヒトが生命として誕生するという事実を認めるか否かは、もはや個人の好みや意見に左右されるべきものではない。ヒトのヒトとしての性質が、受精の瞬間からその後ずっと続いていくことは、形而的な議論の対象となる問題ではなく、科学的根拠に基づいた事実なのである。

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