もつれた生命のリボンを解く

Lejeune, Jerome (ルジューヌ・ジェローム)
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net

ローとウェイドの裁判では、ヒトがどの段階からヒトになるのかは実際のところ誰にもわからないため、その判断は個人に委ねるという判決が下された。この裁判以降、科学は目覚しい進歩を遂げている。本件では、1973年の時点と比較して、我々がヒトであることの始まりについていかに多くの知識を得たか説明したいと思う。

生命には、長い長い歴史があり、それは人類において数千年にわたって受け継がれてきている。

しかし、我々一人一人の生命は、とても貴重な一瞬から始まる。その一瞬とは、必要かつ十分な遺伝情報がひとつの細胞、すなわち受精卵に集められる瞬間であり、その瞬間に受精が完了する。

この事実について疑いの余地はいささかもない。

遺伝情報は、DNAと呼ばれるリボン状の物質に書き込まれる。DNAは、細長い分子で、その上に将来ヒトとして誕生する人間の性質がすべて特別なコードを使って記録されている。精子中のDNAは長さがちょうど1メートルで、染色体内部は23の小片に分かれている。また、卵子中のDNAも長さ1メートルである。したがって、我々はその命が始まる瞬間に、あらゆる情報がコード化されたリボンを2メートル持っているようなものなのである。生命の法則を記したこれらのリボンがいかに小さなものかは、長さ1メートルのこのDNA分子がきつく巻き上げられ、針先にも簡単に乗るぐらいの大きさになっていると言えば、お分かりいただけるだろう。命の設計図は見事なほど緻密な言語で書かれているのだ。

ローとウェイドの裁判が行われた時点では、生命の情報が最初の細胞の中に書かれていることまではわかっていたものの、だれにもそれを解読することができず、それがどのようにして発現されるのかは不明であった。情報の内容は、生命体が誕生し、「自分はヒトである」と告げるまで誰にもわからなかったのである。

今日では、生命が音楽を録音する磁気テープに非常によく似た仕組みを持つことがわかっている。テープ自体に音符が書かれているわけではない。テープレコーダーの中にミュージシャンがいるわけでも、その中で楽器が演奏されているわけでもない。それにもかかわらず、マイクロフォンから集められた情報は、テープに伝えられた瞬間に記録されているため、プレーヤー/レコーダーはそれを再び読み、スピーカーを通じて音を発することができる。したがって、あなたの前に再生されたものはミュージシャンの演奏でもなければ、楽譜に書かれた音符でもない。あなたに伝えられているものは、もしあなたがアイネ・クライネ・ナハトムジークを聞いているのだとすれば、それは本物のモーツァルトなのである。

人生のシンフォニーもこれと全く同じように奏でられる。それはごく特別なコードでDNA上に書き込まれており、最初の細胞が磁気読み取りマシンの最初の役割としてDNA上のコードを解読し、ヒトの生命という音楽を演奏するのである。テープレコーダー、つまり最初の細胞の中に蓄積されている情報がヒトの情報だとすれば、その情報がすなわちヒトということになる。生命が生まれるときにはメッセージがあり、それがヒトの在り方を説明しているものだとしたら、このメッセージこそがヒトの原点なのである。

生命の情報に関するこの概念は希望的思考に基づいたものではない。この概念は形而上的な仮説ではなく、純粋な科学である。こうした含蓄に向かい合うことを嫌う人々は多くの場合、生命は常に活動するものであり、その動きを止めることはできないと意見するだろう。しかし、今や我々はヒトの初期胚を凍結保存することができる。体温を下げれば、時間の流れを遅らせることができ、さらに凍結状態に入れば、時間はそこで停止する。

ただし、凍結保存されたヒトは死んでいるわけではない。通常の体温に戻すことで、生命は再び動き始める。自律性を回復し、自己を取り戻すことができるのである。我々は生命の活動と前進を確かに中断したのだが、情報が破壊されなかったために、その生命の再開が実現したのである。

1973年の時点では、最初の細胞に何が含まれているか誰にもわからなかった。もし我々がその中身、つまり記録されている遺伝子のメッセージを読もうとすれば、その細胞は死んでしまうしかなかった。ごく初期の胚にも同じことが言える。受精後1日、2日、1週間のヒトの胚の場合も、そこに書かれているヒトの性質に関する情報を読もうとすれば、胚に侵襲を加えなければならないため、胚を破壊しないままこうした情報を解読することは不可能とされていた。

1985年に極めて画期的な技術が開発され、その技術は1987年以来、多くの実験で活用されている。細胞数が4個または8個に分割していると思われる受精後3日の胚から、その細胞の1個を極めて慎重に取り出すのだが、その時、透明帯にごく小さな穴を開けて細胞を取り出し、その後穴は塞いでおく。取り出した細胞から、PCR、いわゆる「連鎖重合」という最新の技術を用いて、その細胞独自のDNAを複製し、解析が十分可能な数のDNAを入手する。この技術を用いることで、1つのDNA分子からわすか24時間で同じ分子のコピーを数百万個も複製することができる。生命よりも早くDNAを複製することは奇跡的にも思えるが、これは生命自体が利用しているトリック、すなわち実際の生命体でも使われるある種の酵素と特定の周期をうまく応用することで実現できる。

1990年に、英国において、in vitroで産生したヒトの胚について研究を行っていたモンクとホールディングが、胚から1個の細胞を取り出し、その細胞のDNAを重合化させた後、特殊なプローブを使ってDNAを観察した結果、その小さな胚が男性か女性かを特定することに成功したと発表した。

彼らの発見により、受精後1週間の胚であっても、最新の技術をもってすれば、その胚が「男性なのか女性なのか」を識別することが可能になった。その結果、受精後1週間の胚が男か女かを突然知ることになった法律家が、その胚が同時にヒトでもあることを無視してしまうのではないかという懸念が生じている。

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