メディアとヒト発生学

Kischer, C. Ward (C. ウォード・キッシャー)
(書籍)ヒトの発達に関する虚偽:真実を述べるとき
C. Ward KischerおよびDianne N. Irving
脚注は英語の記事を参照。
許可を得て複製
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net

1990年に「それは適切ではない。メディアの偏見に関する参考指針」と題した情報提供型の書籍が発行された。(1)著者はBrent BozellおよびBrent Bakerである。これは、基本的に政治的な曝露本であり、政治的問題に関するメディア(実際には、レポーター、ライターおよび特派員)による自由主義者の偏向を詳述している。疑惑の影から、著者らはそのポイントを立証する。

ただし、この偏向に関して他の問題がある。政治的問題に関する明らかな偏向について読む中で、その一部は全くの無知から発生したのではないかと疑問に思うことがあるだろう。数は多くなくても、一部のレポーターやTVニュースのメーンキャスターが自分の感情的な意見を述べているにも関わらず、事実やその真実の背景を確認したかどうかを決して言わない(言うべきではない)ことも明らかである。

1973年に、最高裁で、ロー対ウェード裁判の判決が下された。この判決以前には、発達に関する科学、すなわちヒト発生学に対する大衆の関心は、ほとんど、あるいは全くなかった。しかし、いのちと生存能力の問題が裁判所から提示されたことで、こうした題目および補助的題材が、新聞、雑誌、書籍および科学ジャーナルに書かれる機会が増加した。これらは、ラジオやテレビのトークショーでも議論された(されている)。

信じられないことに、ヒトの発達に関して最も活発に議論しているのは、政治アナリスト、弁護士、神学者および社会学者で、医師はごく少数で、ヒト発生学者に至っては実質上ゼロである。記事を書いたり、講演したりする人々は、事実を確認しておらず、もちろん、ヒト発生学者に相談もしていない。ロー対ウェード裁判による政治的影響での打ち込みを考慮すればある程度の想像はつくが、なぜこうした事態になっているかは謎である。

ロー対ウェード裁判以降、ヒト発生学に関して誤った情報、誤解、半面の真実、不正が、古代を含め、歴史的に例のない数に増加していると言って過言でない。ヒポクラテス(約400 B.C.)以前は、誤りは今より甚だしいものだったが、それほど数は多くなかった。その主な理由は、古代人は、現代人とは異なり、沈黙すべき時を心得ており、その結果、誰もが意見を「事実」として述べていたためと考えられる。

ヒト発生学に関する偏見と無知は、しばしば区別が難しい。ただし、ある事実については立証できる:現代のヒト発生学に関するこれらの記述は、適切で入手可能な参考資料を調べていない

前胚

ヒト発生学に関して書かれた最悪の嘘は、前胚に関するものである。(2,3)これは、1979年に、両性類の発生学者、Clifford Grobsteinが下記の目的においてのみ考案した用語である:受精後14日までのヒト胚の道徳的地位を下げる。(4)

体外受精技術が実行可能な産業になりつつあり、初期のヒトのいのちを操作するために何らかの正当化を行なう必要が生じていたことから、このような道徳的地位の引下げが必要だったと考えられる。Grobsteinが提唱した論拠は、後に、(Grobsteinがメンバーだった)米国不妊学会の倫理委員会5が設定したガイドライン、および米国婦人科学会の倫理委員会(5,6)のガイドラインの基本になった。Grobsteinの論拠は、1994年に国立衛生研究所の顧問委員会が提示しているように、ヒト胚研究を正当化する根拠にもなった。(7 )

前胚という用語は、信頼できるヒト発生学者には認められておらず、また認められるべきでもない。唯一の例外はKeith Mooreで、彼は、ヒト発生学の教本の第5版でこの用語を使用している。(8)ただし、この著者への個人的な書簡において、Mooreは、次の版ではそれを削除すると述べた。実際、彼の教本の第3版で、前胚という用語が削除されている。ただし、それに相当する「前胚の」という用語は残っている。

ヒト発生学に関する事実の確認を怠っているのは、中絶賛成論者だけではない。生命倫理に関するバチカンの出版物である「いのちの始まりに関する教書」においてさえも、不正確で不適切な前胚という用語が使用されている。(9)この教書の編纂者が、用語が信頼性を欠き、疑いもなく道徳的地位を引き下げることを知らないのは、事実上明らかである。看護教科書でも、この用語が正規の段階として使用されている。(10 )

これは、医師、特にヒト発生学者から適切な訂正が行なわれることなく、誤った情報が持続的に間断なく使用された残念な結果である。事実を知っている人たちが、ヒトに関する発生学的事実の乱用として最悪のケースであるこの用語の扱いに対応しなかったことは、実に不可解である。

メディアの監視

ヒト発生学の教授を30年以上務めてきた者として、私は、メディアがこの話題について述べている内容に初めて興味を持った。私の生徒たちに、蔓延している誤りや虚偽の記述を認識してもらうことも目的である。そこで、数年間にわたり、彼らに購読者の多い人気の新聞、雑誌および科学ジャーナルからヒト発生学に関する記事を抜粋するよう指示した。彼らには、誤りを見つけ、それを解析してもらった。下記の引用は、ここ数年に見つかった誤りのタイプの一例を示している。各引用について、適切な修正を行った。

「〔形成中の胚〕は、分割した虫のように見える」…「魚や両生類の鰓弓のようなものが目立ち始め、尾がはっきりと見える。」「顔は哺乳類だが、なんとなくブタのようだ。」「8週間目の終わりまでに、顔は霊長類に似てくるが、まだヒトのようではない。」‐Carl Sagan and Ann Druyan 1990. Is It Possible To Be Pro-Life and Pro-Choice? (中絶反対または中絶賛成を選ぶことは可能か?)Parade Magazine, 4月22日。

これは、おそらく偏見と無知の最も恥ずべき露呈である。Saganの無知は、上記の引用に留まらない。記事は、全くの虚偽にあふれている。

記事には、概して、ヒト胚の人間的側面を貶める効果がある。我々は、胚として進化する過程で変化を経るが、それは他の脊椎動物の変化に似ているという真実がある。こうした類似性は、同じ肉体的・化学的法則の支配下にあるすべての生物の基本的な生物学的計画を雄弁に表している。ヒト胚が、鰓弓、あるいは鰓、あるいは尾を発生することはない。これは、ヒト胚だけでなく、虫、ブタまたは霊長類にも当てはまる。Carl Saganは、ヒト発生学者ではなく、天文物理学者である。彼は、Parade Magazineと同様、一般大衆に多大な悪影響を及ぼしている。

「死後の組織の話をしていることを忘れてはならない。」‐1993年1月28日、NIHの前所長Bernadine HealyにPrime Time LiveのDiane Sawyerがインタビュー。

Sawyerは、パーキンソン病などの症例に対する移植組織に生きた胎児を使用することについてHealyにインタビューを行なった。事実、死んだ組織では役に立たない。移植組織に生きた細胞が含まれている必要があり、生きた胎児からそれを入手することが、唯一の確保手段となる。

「救急室では、心臓の鼓動が停止したら、その人は死亡したと宣言する。だから、その反対で、心臓が鼓動を開始したときをいのちの始まりと考えている‐1993年4月17日、アリゾナ州ツーソンのKNSTの午後のトークショー視聴者参加番組医学部3年生の発言。

医学部の学生には、ヒト発生学が適切に教えられていない。この学生が、この題材についてほとんど、あるいは全く教育を受けていないのは明らかである。わが国の医学生の約半数が、発生学に関して履修単位の取れる授業を受けていないことから、これは驚くに値しない。実際、ヒト発生学者は全員、いのちは精子と卵子が最初に接触したときに始まると考えており、それこそが、道理に適う唯一の意見なのである。

「妊娠中に飲酒した女性を投獄する社会を想像できますか?」‐ラジオの人気診断医、Dr. Dean Edellはこう言って、飲酒し、胎児期アルコール症候群の赤ん坊を産む妊婦の告発や投獄を一蹴している。1994年頃。

彼は、誕生前の胎児にヒトとしての権利を認めるべきだという考えも揶揄している。彼は、胎児に法的権利を禁止する声明を読み上げ、「アーメン」と唱えた。もちろん、これは胎児を「第2の患者」と見なす医学的概念に反している。また、彼の主張は、生存可能な胎児の過失による死亡に対する訴訟を認めた31の州、ならびに25以上の州での刑事訴追と矛盾している。

Dr. Edellは、「医学部で過ごした時間は大嫌いだった」とも公言している。彼がヒト発生学を尊重しないこともうなずける。

「胎盤は、母親の血中に含まれる毒性物質から胎児を守り、ほとんどの薬を漉し取る役目を持っている」‐Joanne Silberner. U.S. News & World Respect。「Fighting Disease Before Birth(誕生前の病気との闘い)105:62, 1988年11月21日。

残念ながら、真実はその反対である。事実上、すべてのヒト発生学者は、次のように述べている:「…医薬品および医薬品代謝物質の大半は、難なく胎盤を通過する…胎児の薬物中毒は、母親がヘロインやコカインなどの麻薬を使用した後に起こる。」(11)

「過去20年の医学の進歩により、ヒトの胎児が母親の子宮外で生存できる年齢、いわゆる生存可能年齢は徐々に下がり、妊娠20週の未熟児の一部および24週の未熟児の大半が子宮外で生存できる」‐Meyer S. and D.K. De Wolf 1995.「Fetal Position(胎児の位置)」National Review、3月20日、pp.62

母親の子宮外での生存は、誤った概念である。ばかげている!新生児は、満期で誕生したか未熟児で誕生したかに関わらず、そのニーズが満たされている場合にのみ、母親の子宮外で生存できるのである!誕生後は、誕生前以上のケアが必要となる。

満期よりも早い段階で誕生するほど、クオリティ・オブ・ライフの低下が大きいとは言われていない。未熟児出産の多くの問題は解決されていない。未熟児が抱えている問題を明らかにしないで、早期出産の生存可能性を語ることは無責任である。

「今、女性の多くは80代、90代まで生きる。したがって、50代で子どもを持つことも突飛なこととは言えない。」‐Elisas, Marilyn. 1994。「Who Controls Reproductive Technology(生殖技術は誰が管理するのか)」USA Today, 1月5日、A1:4.

それどころか、とんでもないことである!そうした意見を述べることも論外である。特にトリソミー21(ダウン症)の場合、妊婦が高齢になるほど、出生異常が増加することがわかっている。

「AMAは、脳がない状態で誕生した無脳症児について、特定の状態と診断され、親が提供に同意する場合、彼らを臓器ドナーとして利用することは容認できるという見解を示している」‐Amanda Husted. Atlanta Journal Constitution. 1995. Doctors Can Say No To Patients(医師は患者にノーと言える)ワシントンタイムズの報告。5月4日

AMAは恥を知るべきだ!その内容は、ヒト発生学者の発言でもなければ、彼らが言うべきことでもない。無脳症は、重大な発達障害である。臓器移植を考える前に、他の欠陥がないか注意すべきである。Mooreは、次のように述べている:「3つ以上の軽微な異常を持つ乳幼児の90%には、1つ以上の重大な欠陥もある。」(12)その逆が必ずしも真実とは限らないが、重大な欠陥の大半は、本来、単独ではなく複数で現れる。

「母親の生活や母親の健康に関する例外について規定がないため、この法案には署名できない。」‐1996年4月10日に部分出産中絶(パーシャル・バース・アボーション)禁止法を拒否したクリントン大統領。

「妊娠第三期の健康な赤ん坊にこの処置を施す医師がこの国にいるのですか?」‐1996年6月2日「部分出産中絶(パーシャル・バース・アボーション)禁止」と題した番組でDr. Warren Hemにインタビューする60 MinutesのEd Bradley。「そういう医師は知りません。知りません。」‐上記の質問に対するDr. Hemの回答。

母親の「いのち」または「健康」が、産道に残っている胎児の頭によって危険にさらされる場合、最も簡潔な方法は、頭に穴を開けて突き刺したり、脳を吸引するのではなく、頭部を導き出すことである。したがって、その目的は、母親の「いのち」や「健康」を守ることではなく、胎児を殺すことになる。

純粋に選択的な手順において、胎児に重篤な障害が予想される場合、乳児に施すべき面倒を見たり、養子の決断をする悩みがなくなることで、母親の「健康」は救済されるだろう。

「60 Minutes」の特集で証言した女性も、4月10日の拒否権発動を祝ってクリントン大統領と登場した5人の女性も、故Dr. James McMahonから中絶手術を受けていた。Dr. Martin Haskellと共に、彼らはこうした部分出産中絶(パーシャル・バース・アボーション)を数千件行なっているが、その大半は、純粋に選択的なもので、その80%は健康な胎児に対して行なわれた。Ed Bradleyと60 Minutesは、Dr. Hemに上記の質問をする前に、すでにこのことを知っていた。

「…胚には乳幼児や子どもと同じ道徳的地位がなく、こうした胚に関する調査から大きな収穫を得られる可能性がある…私のような人間には、原始細胞の小さな塊が「人間」に近づくものになるとは考えにくい。」…例えば、生きて呼吸している動物を殺害するより、感情も感覚もない一握りの細胞を排除することのほうが簡単に思われる。」‐Cantwell, Mary. 1994「Should We Make Research Embryos?(研究用の胚を作るべきか?)」The New York Times. 11月25日

全く傲慢である。これは、NIHのヒト胚調査委員会が推奨する研究案と言われていた。Cantwellがヒト発生学といのちの連続体の現実を正しく理解していないことは明らかである。彼女の論理を使えば、何らかの理由で感情と感覚を失った人は、医学実験や殺戮から逃げられないだろう。1930年代および40年代にナチスドイツで行なわれたことは、まさにこれに相当する。

「受精卵を人間とは思っていませんよね?」‐1996年8月7日のCrossfire(CNN)番組でのGeraldine Ferraroの言葉。

ファミリー・リサーチ・カウンシルの代表、Gary Bauerにこの質問をぶつけた。彼は沈黙し、ただ肩をすくめただけで答えなかった。Crossfireの共同司会者であるRobert Novakでさえも答えなかった。

こうした沈黙(Bauerは、質問が聞こえなかったと著者に主張した)は、中絶賛成の問題を増幅させるだけだった。生物を学んでいる高校生なら、「もちろん」と答え、Ms. Ferraroにヒトの受精卵がカエルやブタやチンパンジーになると思うのかと聞いただろう!

結論

これはまだ始まりにすぎない。主要な出版物、新聞、雑誌、ならびにヒト発生学について報告している科学ジャーナルは、我々の分析を避けている。

確かに、我々は科学的な評定システムを使った正確性の判断を行っていない。しかし、誤りや虚説のないクリーンな出版物は存在しない。

ここで報告した内容は一例であり、明らかになった誤りのタイプをすべて紹介しているとは限らない。出版物の中には、品質管理が全く行われていないものもあり、それはライターについても同様である。

重大な問題が存在することは明らかである。一部の無知なライターは、自分が実際に提示すること以上を知っているように思っているが、一般大衆は、ヒト発生学についてほとんど知らない。こうしたライターが少しでも努力して、基本的な情報を集めるなら、問題の多くは解決されるだろう。政治アナリスト、政治家、倫理学者を探しても、問題解決にはならない。

このように多くの戯言、訳のわからない話、虚偽の情報が主要なメディアに蔓延しているにも関わらず、それについて意見を述べないヒト発生学者にも非はある。善良な市民であるという側面からだけでも、彼らには誤った情報を修正する責任がある。彼らがそれをしないことは謎である。これについては調査すべきである。

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