経口避妊薬ピルについて

Hirata, Kunio (ヒラタ・クニオ)
カトリック医師 平田國夫(名古屋教区)
日本カトリック医師会会誌(第37号)
平成10年11月発刊
許可を得て複製

ピルの歴史と成分

妊娠中は排卵がないのは黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されているためということが分かり、その作用を避妊目的に利用するために体外からプロゲストーゲンを投与し疑似妊娠状態にし、排卵を抑制するように開発されたものがピルである。

天然の女性ホルモンは作用時間も短く分解しやすいため経口投与では効果がないため、経口投与でも活性のある合成ホルモン剤が開発された。

服用中の破綻出血を防ぐ目的でエストロゲンとの混合錠が作られたが、のちにエストロゲンにも強い排卵抑制作用があることが認められた。

世界最初のピルとしては1960年米国で合成エストロゲン(メストラノール 150マイクログラム)と合成プロゲストーゲン(ノルエチノドレル 9.85ミリグラム)の合剤Enovid10が正式に認可された。

その後低用量化のため、より活性の高い合成ホルモン剤に置き換わり、最近の製剤である低用量ピルの一つマーベロンには合成エストロゲン(エチニールエストラジオール 30マイクログラム)と合成プロゲストーゲン(デソゲストレル 0.15ミリグラム)が含有されている。

1錠中のエストロゲン含有量が50マイクログラム未満のものを低用量ピルという。

エストロゲンとプロゲストーゲンの含有量の比率を自然の月経周期にあわせるように月の途中で変化させる二相性や三相性の製剤があるが、わずかな服用ミスでも妊娠しやすいこともあって比率の固定された一相性のものが主流である。またプロゲストーゲンのみの製剤であるミニピルというものもあるが破綻出血などの副作用のためほとんど使用されていない。

作用機序

排卵率と妊娠率

ピルを正確に服用している場合でも排卵率は少なくとも5%あると言われるが服用時間がずれたり飲み忘れたり、抗生剤を内服した場合はさらに上昇する。ピル服用者の妊娠率は現在日本では0.1%と言われているが、実際には全くあり得ない数字である。実際的で信用できる数字は30年以上の豊富な経験のある米国のデータである。現在米国で販売されている全てのピルの箱の中に挿入されている注意書きにはピルを服用していても妊娠する率は3%と記載されている。これは近日中に5%に書き改められるとの情報も入っている。

副作用

血栓症−脳血栓・心臓発作・肺塞栓など

1994年のオランダの調査ではピル服用者の危険度は非服用者の4倍である。喫煙者や35歳以上の場合は危険度がさらに大幅に上昇する。プロゲストーゲンが第二世代のものより新しい第三世代のものの方がより危険度は高まっていることが確認されている。血栓症は服用期間の長短に関係なく突然起こる。(ロシアンルーレット)

若年女性の乳癌

<オランダの調査>

36歳前の乳癌発症者は4年以上ピル服用者はそれ以下の者の2倍のリスクがある。低用量ピル服用者の方が高用量ピル服用者よりリスクが高かった。

<アメリカの調査>

25〜34歳の乳癌発症者は1年以上ピルを服用していた者は1年未満の者より11.7倍多い。

肝臓腫瘍

普通若年者には見られない肝臓腫瘍が15〜40歳の若年者で4年以上ピルを服用した者に多発している。

すぐに現れる一般的副作用

偏頭痛、強い鬱状態またはイライラ感、性欲減退、水分のうっ滞、嘔吐、膣炎、眼球角膜のカーブ変化。

ピルは薬か

薬には全て副作用がある。しかし病気を治療するために最小限使用され、健康が回復したら直ちに止められるのである。治療効果に対し副作用が強すぎれば使われることはない。ピルは病者ではなく完全に健康な女性に投与され、その作用は健康を維持するため神秘的なまでに巧妙に制御されている女性のホルモンサイクルを破壊し、その結果として排卵が止まったり子宮内膜を変質させてしまうのである。脳中枢の視床下部や脳下垂体に作用するため全身の臓器に影響があり、排卵抑制作用はその一部にすぎないのである。ピルは健康な身体を異常な状態にすることを目的とした物質である。他に同様の物質としては覚醒剤や麻薬がこれに該当する。ピルは決して薬ではない。医の倫理を尊ぶ医師なら絶対に処方できないはずである。

ピルは環境ホルモン

環境ホルモンとは「外因性内分泌撹乱化学物質」とも言われる。胎児の正常な発生・発育には時期にあった非常に微妙なホルモンサイクルが必要とされるが、環境ホルモンはそれ自体がホルモン類似作用を行い自然なホルモンサイクルを撹乱してしまう。そのため母体内に入り受精卵や胎児がそれに曝露されると、胎児の発育に重大な影響を及ぼすことになる。例えば流産防止のためとして600万人の人の女性に投与された合成エストロゲンDES(ジエチルスチルベストロール)や殺虫剤のDDTは、胎児にエストロゲン用作用を及ぼすため、体勢期にそれらの曝露を受けると、生下時すぐに認められる生殖器官系の異常や、生下時には外見的に異常はなくても子供が成長し思春期になってホルモンの影響を受けると発症する膣癌や精巣癌などを起こす危険性がある。DESを服用した母親から生まれて思春期を過ぎた若い女性に、普通なら滅多に発生しない膣癌が多発した悲劇こそが、人類の環境ホルモン被害の第一号と言われている。ピルに含まれるエチニールエストラジオールもDESと同様の合成エストロゲンである。低用量とはいえ余分なホルモンを与えるわけで、脳の中枢の視床下部や脳下垂体に作用し健康な女性の自然なホルモンサイクルを完全に狂わせ排卵を止めてしまうほど強い活性を持っている。またピルは何年間にもわたって長期間使用される。米国のデータで実証されているように、ピル服用者の3%が妊娠しており、生まれた子供は胎生期に合成エストロゲンに曝露されていることは明らかである。1995年の米国の産婦人科雑誌に妊娠前18カ月から妊娠6カ月まで低用量ピルを服用した女性から、男性の遺伝子を持ちながら女性の生殖器を備えた子供が生まれたケースが報告されており、他にもモーニングアフターピルとしてピルを6錠服用したが出産した例で同様のケースが報告されている。PCB(ポリ塩化ビフェニール)、ビスフェノールA、DDT、ダイオキシンなど代表的環境ホルモンは全てエストロゲン作用またはその他の内分泌撹乱作用によって重大な影響を与えるわけだが、その問題にされる量は脅威的な極超微量である。ダイオキシンを例に取ると、WHO(世界保健機構)の定めた1日あたりの許容摂取量は体重1kgあたり10pg(ピコグラム)である。1pgは1兆分の1gなので、体重50kgの人の1日の許容量は500pgつまり100億分の5gである。このような極微量を摂取したからといって母胎には何の変化も認められないが、その物質がホルモン作用を行う場合は、卵や胎生期初期の胎児に対しては深刻な影響を及ぼす恐れがあることが分かったからこそ規制されているわけである。一方ピルにおいては合成エストロゲン・エチニールエストラジオールが最も少ないものでも1錠中30マイクログラム含有されているが、これは即女性の自然なホルモンサイクルを破壊し排卵を止め、また子宮内膜を変質させてしまうほどの強い作用を発揮する量なのである。これを毎日何年間も服用するわけだが、その女性自身はもちろん胎内の卵や胎児が浴びる合成エストロゲンの量は、いわゆる環境ホルモンで問題とされている量と比較するとけた違いの大量である。また天然の女性ホルモンと異なり分解しにくい人工合成ホルモンのため尿や便として排出され、下水処理場の下流では重大な環境汚染が懸念されるのである。ピルを服用する女性やそれを認めるものは環境ホルモン問題に対して発言する資格は一切ないと思われる。

ピルの妊娠中絶作用

ピルを正確に服用していても5〜10%に排卵が認められるとされるが妊娠率はこれより少なく、これは子宮頚管粘液の変性による精子の通過阻害のほか、ピルによって子宮内膜が変質し受精卵が着床するのを阻害し化学的中絶が行われているためと思われる。事後に高用量を服用するモーニングアフターピルはこの作用を狙ったものである。日本には堕胎罪があり、ピルに化学的妊娠中絶作用があることを告知せず本人の承諾も得ずに処方した場合は、妊婦の同意を得ない堕胎(刑法215条:6カ月以上7年以下の懲役(未遂罪も成立))に該当すると思われる。なぜならもしこの事実を知らせていたら服用しなかった者が服用した場合、本人の気持ちに反して化学的中絶を行ってしまうことになり、後に知った場合は倫理的に苦しむ結果を招くことになる。ピルを服用していても実際には5〜10%の排卵が認められることから計算すると普通の夫婦生活をしている婦人において受精した卵が着床できずに排出されてしまう化学的中絶は2〜3年に1回起こる確率となる。日本でもし600万人の女性が服用した場合、少なくとも年間200万人の受精した生命が中絶されることになる。

ピルと女性解放

ピルは女性を解放するどころか傷つけ束縛するものである。

ピル解禁後の中絶件数

米国の実例からもピルは未成年者に多用されるが、未成年者は経済的にも生活スタイルからも毎日服用したり、同じ時間に服用することは困難である。ピルを普通に服用していても3%が妊娠するとされるが、未成年者の場合、妊娠率ははるかに上回ると考えられる。また未成年者はほとんど未婚者のため、妊娠した場合、中絶手術を受ける結果になることが多い。米国のデータはそれを実証している。ピルが解禁されたら中絶手術件数が減るというのはウソである。

ピル解禁国は先進国か

先進国でピルが解禁されていないのは(1998年現在)日本だけと言われるが、健康および倫理的問題であるピルを工業先進性で論じること自体ナンセンスである。むしろエイズ患者数を国別人口比で比較すると、現在のピル解禁国は全て後進国となる。

ピルと核兵器

受精卵や胎児にいつから人の生命が宿るのかは永久になぞである。それゆえすでに活発な生命活動が始まっており、現存する我々全ての人間がその時点を通過してきた受精卵の段階から生命が宿っているものとして扱うのが最も自然である。ピルは受精卵を排出してしまう作用があり、また周囲の人々や子孫にも重大な影響をもたらす環境ホルモン作用があることも認められてきている。日本のほとんどの人々は生命と環境を破壊する核兵器の使用には、それを正当化しようとするいかなる理由も認めないはずである。そして核実験反対の大合唱が起こるのである。しかし実際には日本の誰も核実験や核兵器のスイッチを押すわけではない。胎児の生命を抹殺する妊娠中絶はもちろんさらに環境破壊も加わったピルの使用は小型の核兵器である。そしてそのスイッチは貴方の手の中にあるのである。自分自身はいろいろ理屈をつけて妊娠中絶を行い、ピル使用も正当化しようとする者が「いかなる理由があっても核実験を許すな、一個の人の生命は全地球より重いのだ。」と叫んでも何と空しいことか。

ピルの真実がなぜ報道されないか

製薬メーカーはピルによって、世界的には年間何兆円もの売り上げを記録している。仮に日本で米国と同じ比率でピルが使われるとして600万人の女性が服用すると、年間の売上額は約3000億円程度に達すると思われる。産婦人科医師はピル処方時の健診料や薬剤料の利益はもとより、多くの健康女性の3カ月毎の定期受診は圧倒的な増患対策になり、その健診でひっかかる一般の疾患を保険診療することによって大変うるおうのである。そのためピルの作用には受精卵の着床阻害作用もあるという研究者なら誰でも知っていることすら売り上げが落ちることを恐れ、メーカーも産婦人科医も積極的に公表しないのである。解禁するか審議中の日本においては米国では常識の服用していても3%が妊娠するという事実を全く報道せず、0.1%というありもしない数字を報道する情報操作も行われているのである。今非常に重要な問題となっている環境ホルモン作用についても、ピルの成分は作用時間も短く分解しやすい自然の女性ホルモンとは異なる化学物質である人工合成ホルモンだからこそ問題になっているにも関わらず、それを隠蔽し全ての女性は女性ホルモンを排出しているのだから今さら問題ではないというとんでもない非科学的な意見がまかり通っているのである。我々は製薬メーカーと一部の産婦人科医の商業主義とそれに乗せられた浅はかな評論家のピル解禁論にだまされることなく、自分自身と家族・子孫と日本の将来のためにできるだけ多くの人々に真実を伝えてピルが解禁されないように力を合わせて戦わなければならない。

カトリック者の使命

今、日本は太平洋戦争前夜と同様な危機的状態といっても過言ではない。もしピルが解禁されれば計算上少なくとも年間200万の受精した生命が中絶されるのである。それをくい止めるため日本カトリック司教団とカトリック医師会には今働かねばならない使命が与えられているのではないだろうか。私は以前から生命倫理に関心はあったが、昨年のマザーテレサの葬儀の日の不思議な出会いがあるまでは、ピルについて全く無知であった。その後の付け焼き刃のわずかな調査ではあるが、ピル問題にはカトリック教会と人類存亡の危機がかかっているのではないかと思われるのである。日本におけるピル解禁が目前に迫っているのに日本カトリック司教団やカトリック医師会から何のコメントも出されていないこと自体がすでにその危機の一つなのである。私も気づかなかった一人であり他を責める資格はないが、間もなく解禁が取りざたされる現在、他のいかなる仕事を削ってでもピル問題に全力で取り組まなければ、解禁後神から責任を厳しく追及されるのではないだろうか。私自身がそうであったように、ピルに関しての正しい情報が全く得られないため、現時点でも産婦人科の医師においてすら本当のことをほとんど知らないのが実情である。そのうち重要なポイントの一部は以下の通りである。

カトリック者が今アピールしなければならない点は、この受精卵の着床阻害による中絶作用である。人の生命の始まりがいつなのかは何億年論議しても分からないがゆえに、受精した瞬間から霊魂が宿った人間として扱わなければならないのである。もし双子になる場合は一個の卵に二つの霊魂が宿っていると考えられるのである。受精卵が着床する前や大脳皮質の発生前の段階においても、それ以降と比べ些かも軽く扱ってはならないのである。なぜなら神が作られた霊魂は最初から完璧なものであり、その宿っているかも知れないものをいくら発生の初期の段階といえども人の考えで処分することは許されないからである。以上は歴代の教皇様が繰り返し教書を通して述べられていることである。妊娠中絶作用のみを行う避妊リングはもちろん、中絶作用も含まれるピルもこの観点からカトリック者は絶対に認めてはならないのである。人類存亡の危機がピルによる生殖異常つまり環境ホルモン作用(ピル服用者と服用者から生まれた次世代者の不妊症)であるならカトリック教会の危機はこの受精卵の倫理問題なのである。体外受精で捨てられる受精卵の問題も含め、生殖倫理問題において今ほど教皇様との一致が重要な時期はないと思われる。医師としてピル服用者の健康障害や環境ホルモンの問題も、もっと真剣に取り組まねばならないが、幸いカトリック以外の団体でこの点についてはピル反対の動きが出ている。カトリック者に今求められることは、ピルの倫理問題をクローズアップさせ隠蔽されているピルの中絶作用について各方面で検討されるようにすることである。これができるのは日本カトリック司教団とカトリック医師会だけなのである。それだけにその責任は重大である。具体的手段としては、厚生省はもちろん各省庁や日本医師会・看護協会・薬剤師会などの諸団体に対し『ピルの作用には受精卵の排出作用があるため、体外受精や脳死問題と同じようにその作用を国民全体に周知させピルの倫理的問題について宗教者も含め幅広く検討すべきである』と申し入れをして、それを報道関係者にも知らせることだと思う。カトリックの信仰と医師としての才能の両方の恵みをいただいた我々は御身可愛さと、何となくわずらわしいからとの思いで自分は専門外だからなどと言って、今ピル問題から逃げることは許されないと思う。

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