人間のクローニングと権力の乱用

ピーター・ギャレット文学修士
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net

『ザ・マトリックス』(1999年)というカルト映画の中で、大部分の人間の胎児が生まれるべき運命にある少数の選ばれた胎児の食料として育てられるという未来世界に私たちは引き付けられました。非常にたくさんの人間の胚や胎児が木のような構造物からぶら下っていて、それは『搾られ』て液体にされるのを待っていました。その結果として生じる『ドリンク』は、その後少数の選ばれた者の静脈の中に注入されるのです。

この簡潔な映画の説明は、二つの簡単な質問に答えようとするものです。その質問は、第一に、どのようにしてイギリスでいわゆる『治療目的の』クローニングが合法化されたのか、そして第二に、あとどのくらいでクローン人間が誕生するかということです。これらの質問に対する私たちの答えは、私たちの社会が『ザ・マトリックス』という映画の悪夢の世界とどの程度かけ離れているかということを示唆するものとなるでしょう。

イギリス政府が行なった決定を理解する一つの便利な方法は、議論の結果は展開される議論の相対的な質によって決まるという旧来の概念を忘れることです。その代わりに私たちは経済、マスコミ、政治の力の相対的な量があらゆる結果を決定するということを認めることになるでしょう。

このような現象をもっと詳しく調査するためには、1970年代の後半にスティーブン・ルークス教授によって考え出された権力の分析を利用することが役に立つかもしれません。ルークス教授によれば、権力には3つの形態あるいは「質」があって、彼はそれらをそれぞれ、権力の第1の形態、第2の形態、第3の形態と名づけています。権力の第1の形態には物理的な力が含まれ、それはポル・ポトの有名な表現を用いれば、銃身から流れ出すものかもしれません。第2の形態には協議事項、議会のスケジュールや番組のスケジュールや、新聞や雑誌やウエブサイトの中身の操作あるいは統制が含まれます。それは議論が打ち切られた、または、妨害された、(特に全国規模の)マスコミにおける議論が一方に偏っているときに用いられます。第3の形態には言語の変更と操作が含まれます。それは新語が作られたり用語が意図的に変えられたりするときに「発生」します。「初期胚」とか『治療目的のクローニング』とかといった言葉は、科学的な根拠は全くありませんが、関わっている人々の行動を変化させるために議論の中に持ち込まれるのです。ここにおいて私たちは、あらゆる社会変化に先立って言葉の変化が見られるであろうというジョージ・オーウェルの警告がこだまするのが聞こえます。実際、『1984年」の中で使われた『Newspeak(世論操作のための欺瞞的表現)」という造語で、権力の第3の形態の乱用を論理的に結論づけたのはオーウェル自身だったのです。その究極的な考えは、言葉の意味を狭めたり歪曲したりして反対意見を押さえ込むというものです。

いわゆる『治療目的のクローニング』を政府が合法化するに至った紆余曲折のいくつかを簡単にまとめた次の文章において、さまざまな権力の使用、そしてときには乱用に気がつくでしょう。以下の一連の状況説明は『治療目的のクローニング』の合法化への主な足取りを簡単にまとめたものです。

1999年9月、デビッド・セインズベリー上院議員は科学大臣でした。当時、医務局長のリアム・ドナルドソン教授が委員長を務めるある委員会が人間のクローニングの問題を審議していました。セインズベリー上院議員は、『ドナルドソン報告書』の内容を知らされるのを待っている状態であったので、その問題に関して中立の立場を取っているべきでした。しかし実際、セインズベリー上院議員は労働党のセミナーの反主流派の会合に姿を現して、人間の胚のクローンを作ることへの明確な熱意を宣言しました。その会合は、『バイオ産業協会』がスポンサーとなって行なわれていて、セインズベリー上院議員は、世界で最初のクローン哺乳動物の羊のドリーの誕生の場所であるロスリン研究所の株を1250万ポンド取得しているジェロン社の取締役のサイモン・ベスト博士と同じ考えを持っていました。

過去数年間にわたって労働党に700万ポンドもの資金を提供してきた人をトニー・ブレア首相がやめさすことはできそうにないので、セインズベリー上院議員は更迭されない大臣だと言われてきました。700万ポンドは、ブラインドトラスト(限定的目隠し信託または白紙信託)に13億ポンドも投資しているセインズベリー上院議員にとっては端金にすぎません。彼はまた政策研究会の議長もしていて、そのグルーブには人気のある新しい労働党の実業家が含まれていて、クリス・エバンズ博士の支持を受けています。(彼についてはまたのちほど)

さて最近の国会審議、つまり2000年12月15日、2000年12月19日、2001年1月22日の3つの重要な審議に話を進めると、注目すべきいくつかの点があります。

2000年12月15日の下院での演説では、公衆衛生政務次官のイベット・クーパーは次のような発言をしました。

私たちは議論のためにかなりの時間をかけましたが、私の知るかぎり、国会の会議場でこれほどの時間をかけた規則や委任立法集はありません。」(英国国会議事録2000年12月15日、コラム935)

しかしながらこのことは2つの明らかで本質的な点を欠いていました。まず、11月17日と12月15日の審議は両方とも金曜日に行なわれましたが、その日にはほとんどの国会議員は選挙区へ帰っていました。そして次に、このような影響力の大きな問題はまず第一に委任立法集として決定されるべきものではなかったという事実です。それは本格的な法案として認められるべきでした。

その日クローニングに反対のずばぬけてすばらしい演説は、ルース・ケリー議員(ボールトンウエスト選出の労働党議員)によるものでした。

私たち全員は遺伝子組み替え治療、つまり将来の世代の操作の一形態としてそのクローニングという治療方法を憂慮すべきです。私の知り得るかぎり、その極めて重要な結果については全く審議されていないのです。」(英国国会議事録2000年12月15日、コラム900)

彼女は続けて『治療目的の』クローニングはクローン人間を誕生させるための懸け橋となるであろうことを指摘しています。またHFEA(ヒトの受精及び胚研究法)はすでに危険なほど拡大解釈されていること、そして大人の幹細胞が、胚性幹細胞に関わる倫理上の難題をもたらさずに多くの問題に対する解決策を提供していることも指摘しました。

ルース・ケリー議員が、もっと多くの国会議員が聞いたであろう4日後の12月19日に再度演説を行なうことはできないと感じたのは残念なことです。ルース・ケリーは19日の審議の間ずっと議場にいました。15日に演説をした他の人は同じことを繰り返して言っていましたが、彼女は1、2回言葉を差し挟んだ以外は黙っていました。19日の審議の特徴は、クローニングに反対の国会議員が、クローニングに反対のもっとも効果的な主張ができなかったということです。大人の幹細胞を使用する技術に賛成の主張に頼りすぎて、ヨーロッパ及び世界の考え方や、倫理面の議論や、HFEA(ヒトの受精及び胚研究認可局)の不十分さまで話を進めることが全くできませんでした。

実際、国会議員に状況説明をする様々な組織間のコミュニケーションが取れていないことによって、同じことの繰り返しとなったのです。下院の問題は、これらの問題に関してリーダーシップを取る人がいないために一層複雑になっています。このことで、系統だった協力をすることが、アルトン上院議員が中心的な役割を果たしている上院よりもずっと難しいものになっているのです。

最終的に下院で票決が行われたとき、その結果は最初から目に見えていて、賛成366票、反対174票でクローニングに賛成の人々が192人も多数であったということは非常にショックなことでした。

その翌日の12月20日、政府は次の国会の会期が始まる翌日に委任立法集を上院に持ち込む意図を発表しました。このことは与野の違いを越えた憤怒の引き金となり、上院議員はそのような性急さは上院の『審議能力』に対する侮辱であるとみなしました。大規模な反乱を恐れて、政府はその審議を1月22日まで1週間延期することにしました。

12月20日はプロ・ライフ側にとっては好都合の日でした。それは労働党政府の高圧的な態度に対する一般的な反感のために、いくつかの予期しない交渉が容易になったからでした。アルトン上院議員は自然と政敵のウォーノック上院議員とクローニングに賛成のオックスフォードの英国国教会のリチャード・ハリーズ司祭と話していました。3人ともその問題を分析するのにもう少し時間が必要であること、そして特別調査委員会を開くことが上院の伝統上一番よいであろうということで意見が一致しました。

クリスマスと正月の間ずっと、クローニングという重要な問題が、投票に関する手続き上の問題と上院の特別調査委員会を設置するか否かの問題の次になってしまいました。1月18日の木曜日には、『浮動投票者層』が特別調査委員会を設置するという考えに傾きつつあり、大多数の議員がその趣旨のアルトン上院議員の修正案に気持ちが固まりつつありました。このような状況では、春または初夏に予想されている総選挙に先立って委員会が報告をすることはおそらくありえないことなので、クローニング賛成の委任立法集は効果的に阻止されていたでしょう。そして、新しい国会が下院で審議を全てやり直さざるをえないということになっていたでしょう。

1月18日木曜日の夕方、プロ・ライフ(胎児のいのちを守る)運動団体はここ数年で初めての国会での大きな勝利を収めそうに見えましたが、問題の可能性がまだ一つ残っていました。木曜日の夜上院を後にしながら、プロ・ライフチームは、もしアルトンの修正案に対抗する修正案が出され、それが規制の可決とさかのぼって審議をするための特別調査委員会の即時設置を要求すればどうなるだろうかと案じていました。翌朝、ディチャント出身のウォルトン上院議員がまさにその対抗修正案を出したとき、私たちが恐れていた最悪のことが確実なものとなりました。もちろん論理的な観点から、被告に判決を言い渡してから証拠を分析することは意味がないのですが、それはそうとして『浮動投票者層』は新しいヴィアメディア(両極端を避けた中道)を見つけることとなったので、大挙してそれを受け入れたのです。特別調査委員会ということを言い出した3人のうちの一人であるウォーノック上院議員でさえウォルトン案に賛成、アルトン案に反対の票を投じましたが、一方何を考えているかわからないリチャード・ハリーズ司祭は、棄権したほうが自分がすでに英国国教会の内部で引き起こしてしまつた意見の対立を緩和するのに役立つだろうという計算をしました。

アルトン上院議員はすばらしい筋の通った演説をし、その支持にまわった人々はよくまとまっていて、その中には影響力のある、ユ一ル出身の前検事総長のローリンソン上院議員と著名な人権擁護の弁護士のブレナン上院議員の二人の議員が含まれていました。双方の「学識のある」法律家は、1990年のHFE法(ヒトの受精及び胚研究法)は司法的に再検討をされている途中であり、いかなる種類のクローニングに対しても防御の役割を果たせないことが判明するかも知れないと忠告をしました。残念なことに、彼らによる審議のための時間延長の要求は注目されることなく、不名誉にも下院についで上院も、大差で人間のクローニングに事実上賛成するという結果になりました。(アルトン修正案に対する投票結果:賛成92、反対212、従って120票の多数でクローニング賛成)

クローン人間の誕生:あとどのくらいで?

1995年にエリオ・スグレシア(現在のエリオ・スグレシア大司教)は賢明にも、『インプリンティング』の問題が大人の体細胞の核におけるゲノムの完全な発現を妨げるために人間のクローニングは不可能だと断言しました。『インプリンティング』とは、『大人』の細胞核における遺伝子の多くが閉じこめられている状況のことを指しています。個々の細胞においては、その場所と機能に必要とされる遺伝子だけが発現しタンパク質を作り出すのです。残りの遺伝子は「スイッチが切られた状態になり」発現しないのです。遺伝学者としてスグレシアは、一般に受け入れられている知識を繰り返していて、ほとんどの専門家の意見は、細胞生物学上のこの重要な問題のために人間のクローニングから世界は守られるであろうという彼の意見と同じでした。

羊のドリーの時代まで2年間話を進めましょう。突然『インプリンティング』の問題に出口が見えはじめます。ドリーの誕生はいかに重要なことだったでしょうか。ある生物学者は、世界の歴史をBD(ドリーの誕生前)とAD(ドリーの誕生後)に分けることを提案しました。一方、ドリーの生みの親のウィルムットとキャンベルは、クローニングに関する自分たちの本に『第二の天地創造』という題をつけました。1神の真似をすることを望まない時代は終わったのです。

ドリーの誕生以来、完全なクローン種の人間の誕生についての問題は、「そのようなことが一体起こるのだろうか。」ということから「いつそれが起こるだろうか。」というもに変わってしまいました。

私が今これを書いている2001年の初春に、この問題に対する答えを出せるかもしれません。

12ヶ月前、最初のクローン人間の受精と妊娠が目前に迫っているということの憶測をしていたのは、特異なウエブサイトか『非主流』の出版物だけでしたが、過去数ヶ月の間に、タイム誌2とタイムズ紙3がまさにそのようなことをほのめかす特集を掲載したのです。

しかしながら、2001年2月発行の「ワイアード誌」4に、これまでで最も充実した調査結果が発表されましたので、その調査のアウトラインの重要な部分をみてみましょう。

最初に紹介されているクローニング賛成の科学者は「クリエイター(創造主)」という仮名で通っていて、有名な大学の研究所で働いていて、自分がインプリンティング問題を克服するための正しい方法を予測した最初の科学者であると主張しています。彼は感情に左右されやすい社交家で、1年ほど前に息子を病気で亡くしましたが、その息子の組織のサンブルを保存しているヨーロッパの依頼人と事前に面会をしています。

依頼人の死亡した息子のクローン化された胚を妊娠するために5人から10人の代理母との契約が行なわれ、「創造の作業」はアジアのどこかの大都市の研究所で行なわれるでしょう。『クリエイター』の計画の解説をしながら、動物のクローニングの科学者であり、人間の体外受精の専門家であるアラン・トゥルーソン博士は、次のように述べています。

「クリエイターの精神は、私たちが今いるこの歴史的瞬間、クローニングに賛成の論議の集中、タブーの崩壊、そして科学の阻止不可能な進展によって目覚めたのです。これらの領域はきれいにオーバーラップしているので、人間のクローニングは明日にも行なわれるかもしれません。」

動物のクローニングを専門に行なっている会社のインフィジェン社の社長であるマイケル・ビショップ博士はさらに次のように話しています。

「昨年の春、私は秘密のサミットに出ましたが、そこには人間のクローニングの研究者として知られている人が全員来ていました。ある日の夕方、食事をした後で、私たちのうちの数人が話をしていたのですが、人間のクローニングがまだ行なわれていないと信じている人は一人もいませんでした。」

1998年12月にエクスプレス紙が行なった調査と、同紙がアメリカで少なくとも7社がすでに最初の人間のクローンを作り出す競争に入っていることを発見したという事実を振り返ってみれば、人間のクローンがすでに代理母の子宮内に移されていると結論づけていいでしょう。

ビショップ博士はさらに続けて、どのようにインフェジェン社が哺乳動物のクローニングの効率を上げているかを説明しました。

「目標は、体細胞のDNA上の哺乳動物のインプリンティングを消去することです。インフィジェン社はそれにかなり成功を収めていて、その成功率は30%にまで上がり、人間の対外受精とほぼ同じになっています。今我が社は、健康な胎児の遺伝子がどのようなものなのかを正確に見るためにDNAマイクロアレーの利用を始めました。そのようなDNAマイクロアレーによって当て推量に終止符が打たれ、牛や豚や人間のクローニングは自然の生殖よりも効率のよいものになるでしょう。」

一方、研究グループの中で最も有名なものは、モントリオールの郊外に潜んでいます。ここにUFOの地、人間のクローニングの問題の解決にかなりの財源をあてているレイアリアン教団の本拠地があります。教団の結成のもととなっている話は不吉な感じがしますが、自称クローン人間の創造者として彼らが呈している脅威は真剣に考える必要があります。

教団のリーダーであるレイアルは、1973年にUFOに乗って地球にやってきた「セクシーなロボット」に誘拐され性的ないたずらをされたと主張しています。レイアリアン教団は、人類は他の惑星から来た知的生物によって地上にもたらされ、彼らはクローニング技術によって最初の地球人を作ったと信じているのです。レイアルは次のように述べています。

「クローニングはレイアリアン教団にとって宗教的なプロセスであり、クローニングは聖書の遺伝学である不死を私たちに与えてくれるでしょう。」

レイアリアン教団にはクローン人間を作る競争において他のほとんどのグループより有利な2つの大きな強みがあります。まず提供される豊當な卵子を利用できることです。次にクローン化された胚の代理母に進んでなってくれる女性のメンバーが少なくとも50人はいることです。レイアリアン教団の中心的科学者であるブワスリエ博士の娘でさえ、その計画に進んで参加しているのです。

ブワスリエ博士自身、高い資格をもったフランス人の化学者であり、彼女がそれぞれの必要な分野におけるかなりの専門的技術を持ったチームの指揮をとっています。これらの科学者のうちの二人は、細胞の核移植の準備として2001年2月13日以来、卵細胞から核を摘出することを行なっています。タイム誌は、そのチームが2001年3月末までに最初の人間の胎児を移植する計画であることを明らかにしました。

ドリーを作ったイアン・ウィルムット博士は、彼の研究をレイアリアン教団が利用していることについて意見を求められたとき、彼は率直に次のように言いました。

「悲劇的な死に方をした子どものコピーを作ろうとするときに、最も可能性の高い結果がもう一人の子どもの死であるということは非常に大きな皮肉でのように思われます。」

クローニング専門の解説者の多くは、レイアリアン教団には人間のクローン製作のレースに勝つための専門的な技術が欠けている可能性があると確信していて、イタリアのセヴェリノ・アンティノリのような体外受精の専門家がそのレースに勝つだろうと主張しています。

アンティノリは、62才の女性が子どもを産む手助けをしたことで有名になりましたが、その行為は彼が所属していると言っているカトリック教会があまり喜ばない行為でした。彼は裕福で、影響力があり、有名な科学者の友人がたくさんいます。彼には賞を勝ち取るだけの大胆さと能力があります。彼は次のように主張しています。

「1年程度たてば、世界はクローニングを受け入れるようになるでしょう。最初のクローン人間が生まれれば、あとは全てうまくいくでしょう。やがて世界には非常にたくさんのクローン人間が生まれるようになるでしょう。」

アンティノリだけが、場合によっては完全な人間のクローニングを認める方向へ進んでいる高名な体外受精の専門家なのではありません。イーストアングリアのボーンホールのピーター・ブリンスドンもまた、それを治療不可能な不妊の治療方法として考えようとしています。そしてこの問題に対するロバート・ウィンストン上院議員の立場は、彼の見解が次のように目まぐるしく変わっているのでよくわかりません。

「人間のクローニングの可能性は全くありません。なぜでしょうか。いろんな理由があります。一つは、提供される人間の卵子の数が信じられないほど少ないことです。」(上院:2001年1月22日)

「残念なことは、マスコミがこの実験の途方も無い可能性を無視して、予想される影響をセンセーショナルに報じてしまったことです。人間の生殖において、クローニングの技術は治療不可能な不妊に苦しんでいる人々に希望を与えることができるでしょう。」(ウィンストンによる「人間の医学に対するクローニングの将来性。道徳的脅威ではなく素晴らしい挑戦」という題の記事:1997年3月29日発行の英国医学ジャーナル)

ただ混乱を増すだけですが、さらに二つ引用します。

「人間のクローンを作る医学的な理由はなく、あるのは明らかな危険です。私は、人間のクローンを作ることにメリットがあると真剣に信じている人はひとりもいないと思います。」(1997年2月24日発行のタイムズ紙)
「私は人間のクローニングが利益をもたらしうるかどうかわかりませんが、私はたぶんもたらすだろうと思います。」(1998年1月12日月曜日発行のインディペンデント紙)

いろいろ考えた結果、私たちは、もし最初のクローン化された胎児の妊娠がまだ始まっていないとしても、あと数日もすれば妊娠が行なわれるだろうという結論を出さなければなりません。このような妊娠は、明らかに健康な赤ん坊が生まれるまで秘密にされるでしょう。しかしながら、さまざまなグループ間の熾烈な競争によって早期の発表が余儀なくされるかもしれません。最終的に、その話を最初にマスコミに配給する権利は、控えめに見積もっても3千万ポンドの価値のあるものになるだろうと言われてきました。一方、クローンの作成者がエルドラドの唇気楼に向かって進むにつれて、死亡するクローン胎児の数は膨大なものになるでしょう。羊のドリーを作り出した実験から推測すると、明らかな成功のたびに30回の妊娠の失敗が予想されるでしょう。実際、奇形になったり、『突然変異』を起こしたりするクローン人間の子どもの数はとてつもなく多くなると予想できます。成長が早すぎる子どもや、免疫システムが傷ついたり、全く存在しない子供どもも多くできるでしょう。インプリントされた核を細胞質がどのようにリセットするかについてほとんどわかっていないので、起きる『エラー』の分類システムの充実には何年も何年もかかるでしょう。

人間のクローンを作ることは、少なくとも2つの点で代理母にとっても危険でしょう。まず、奇形の胎児は母親にとって直接の身体的な脅威となり、その結果として『治療目的の』中絶が必要となるかもしれません。第二に、妊娠中に細胞が胎盤の中を移動し、これらが生物学的に不安定な状態のままとなり、母体に腫瘍を形成させる原因となることも起こり得るでしょう。

医学的大虐殺のこの長々とした話に加えて、クローン人間の赤ん坊の遺伝子時計がゼロにリセットされてないかもしれません。そして『かなり年をとった』DNAを持った新生児が生まれる可能性がおぼろげながらも見えます。ドリーの染色体を調べてみると、ドリーは小羊の姿をした大人の羊であることがわかりました。ドリーの染色体の年令は3才ですが、遺伝子レベル、あるいは、「テロメア」の年令は9才でした。ドリーは6才の羊の細胞の核から『作られた』ので、そのような説明がつけがたいことはありません。

結論として、私たちはまさに人類史上最も野蛮な大規模な実験の一つを目撃しようとしていると言うことだけはできます。罪のない人間のいのちに対する被害は予見できるもので意図的に行なわれるのです。

倫理か利益か?

人間のクローニングがイギリスでいかに首尾よく合法化されたかを見て、そして最初のクローン人間を代理母が妊娠するまであとどのくらいかかるかを当てる試みが終わった今は、もっと深い問題に取り組む時です。

一、 なぜ人間の胚のクローニングが首尾よく合法化されたのか?

二、 この『部分的な』合法化は、クローン人間の赤ん坊を作る地球規模の競争に関わっている人々の助けとなるのか?

人間の胚を作りそれを破壊してもよいという理由の範囲を広げることに賛成の投票をするよう上下両院の議員を説得するために、クローニング賛成派の人々は、大人の細胞や新生児の臍帯血から採られた幹細胞よりも胚性幹細胞の方が良い実験結果が得られることを示すことが必要でした。

報告書や既得権を持った患者集団を持ち出すことによって、このことを達成した方法は、上院での1月22日のプロ・ライフの演説者によって見事に分析されました。しかし、その審議の影響をよく考えることは価値のあることです。なぜならそれが、異なった研究方法に対する論拠の相対的なメリットの提示が実質的に歪められたものだとたくさんの一流の科学者が判断していることを明らかにしたからです。

ブリストル大学の臨床科学教授である二一ル・スコールディング教授は、2001年2月3日に「ランセット誌」に次のようなことを書きました。5

「二つの重要な点が、政府の姿勢の根底にあるように思われます。その一つ目は、胚性幹細胞は「苦しみを終わらせるとてつもない力」を今にも解き放つ準備ができているということです。二つ目は、それに代る現実的な方法がないということです…しかし潜在的な代替手段を無視し続けることはもはやできません。ここ1、2年の間に、生物学と大人の組織から採った幹細胞の潜在的治療価値に対する理解が著しく進みました。12ヶ月前に準備されたドナルドソンの報告書と王立協会の報告書に、大人の幹細胞研究に対する熱意が見られないことのたぶん説明となるのは、2000年12月だけで4つもの重要な研究結果が発表されたという程、実際、現在はこの研究は驚くほどの速さで行われています。

スコールディングは次のように付け加えて結論を述べています。

「もし人間の胎児の『特別な地位』が何らかの意味をもつものなら、これらの素晴らしくて非常に必要とされている治療の発達を遅らせることも制限することもない、完全に実行可能で倫理的に健全な代替手段の出現が、純粋に幹細胞生産の手段としての人間の胚のクローニングにイギリスの国会が賛成することをきっと思い止まらせていたはずです。」

一方ドイツの一流の科学者やアメリカのウオールストリートジャーナル誌もまた、大人の幹細胞を用いる方法は、倫理的に問題のある胚性幹細胞を用いる方法と少なくとも同じ可能性を提供していると結論を出していました。実際、ウオールストリートジャーナル誌は、投資金は大人の幹細胞研究の方に流れるだろうと示唆しました。

相対的なメリットが国内的国際的に再評価されていることを考慮すれば、わが国の審議期間中に、科学的に提示されたものに影響を与えるようになった組織的な『歪曲』をどう説明すればよいのでしょうか。その答えは、政治と権力のいかがわしい世界、その世界の蓋を私たちがほんの一時的にしか持ち上げることができず、現代のイギリスの民主主義を支配している混乱が本当はどこまで及んでいるかを他の者に探険させるままにしている世界にあるのです。

覚えておかなければならない一つの面は、生物科学産業の規模です。2000年11月、トニー・ブレア首相は、ロンドンで行なわれたヨーロッパ生物科学会議で演説をしましたが、その中で彼は集まった人々に、ヨーロッパだけでもその市場は1千億ドルの価値があり、2005年までに300万人の人を雇用できるだろうと言いました。彼はイギリスがこの分野で先頭を切って進むというイギリス政府の決意を強調し、「バイオテクノロジーは知識経済の次の波であり、私はイギリスがヨーロッパの中心となることを望みます。」と述べました。

しかしながら、もっと不気味なことに彼は次のように続けたのでした。

「事実を手にし、それからその道徳的重要さを判断しましょう。何が自然であるか、あるいは正しいかについての私たちの信念によって、真実を発見することにおける科学の役割が妨げられてはいけないのです。」

そしてその日下院で審議された幹細胞研究に言及して彼は、「道徳的に認められる結果は一つではありません。倫理的理由で全ての形態の幹細胞研究に原則として反対している人々がいます。しかし私たちは、幹細胞研究が病気で苦しんでいる人々の生活を向上させる大きな可能性を持つとき、明確で効果的な規制がなされる限りそれに賛成する強い倫理的な主張も存在するということを認めなければなりません。」と述べました。

そしてこのような考え方は下院において明らかにされ、そこでは国会議員が自由な投票権が与えられるのが前提となっていますが、政府がその規制を可決させるために大きな圧力をかけたのです。GM食品(遺伝子的な操作により品種改良した食品)に対する抗議をも非難したブレア首相の演説に対してグリーンピースは、トニー・ブレアは「奴隷のごとくに」科学を崇拝していると非難しました。1千億ドルがかかっているので、彼は奴隷のように金を崇拝しているというのがきっと事実に近いでしょう。

1月22日の上院の審議に向けての熱のこもった準備期間の間に、ウィンストン上院議員(1995年にトニー・ブレア首相に爵位を授けられた)は同僚に、もし思い通りにならなければ(人間のクローニングを合法化することに成功しなければ)、アメリカ合衆国へ行ってそこで永住すると話していました。

調査してみるとすぐ、ウインストン上院議員が細菌の細胞の遺伝子操作の特許をたくさん持っていることが明らかになりました。この種の遺伝子技術は、精子や卵子、あるいは精子や卵子になる細胞に対して行なわれます。この種の操作は、受精された個人ばかりでなく、遺伝子操作の行なわれた個人の子孫として将来生まれてくる全ての個人の遺伝的素質に影響を与えます。このような遺伝子組み替え技術はほとんどの人々によって危険で倫理に反すると考えられていますが、ウィンストンはいつもその最先端にいるのです。実際、国会に提出された規制緩和によって、母親の細胞質のミトコンドリアに欠陥がある場合、細胞核移植によるある種の遺伝子の組み替えが許されることになるでしょう。たぶんウィンストン上院議員は、この遺伝子組み替え技術というこの出発点がのちにより広範囲の自由化につながり、そのことで彼が所有している特許の市場価値が上がると期待していたのでしょう。

ウィンストン上院議員が投資をしているもう一つの研究は、体外受精のための「人間の卵子」を作り出すために、卵巣の組織を体外で成熟させる研究です。普通、ウィンストン上院議員はこの組織を治療予定のそれぞれの女性から採取しています。

もしこの研究がうまく行けば、人間の卵子の不足という人間のクローニングの最も障害となっているものを克服することができるでしょう。なんとそれは経済的に価値のある技術でしょう。

もちろん、「卵子」の成熟のための卵巣組織の潜在的な供給源はもう一つあり、それは中絶された女の赤ん坊の遺体に見つけることができます。偶然にも(そのような組織の提供のための)ある契約がイーリングのマリーストープスクリニックと、ウィンストンが研究のいくつかを行なっているインペリアル大学の間に交わされています。私たちはウィンストン上院議員がそのような組織の供給源から公には距離を置いていることを知っていますが、それは彼の同僚が開拓したいと思っている研究への手段なのでしょう。

そんなに多くの特許を持ち、そんなに多くの研究に投資をしているにもかかわらず、ウィンストン上院議員は「国会議員の投資登録」に自分が投資をしていることを公表していない数少ない上院議員の一人です。

一方、伝えられるところではウィンストン上院議員は、権力の第2の形態の戦術のレパートリーに、純粋な身体的な攻撃の一行を加えることとなりました。外国のテレビクルーにインタビューを受けていたときに、伝えられるところでは、彼は胚性幹細胞の方が大人の組織から採取した幹細胞よりもはるかに安全だと主張したそうです。若い女性の弁護士がウィンストン上院議員に反論するために口を差し挟みました。この時ウィンストン上院議員は、再び伝えられるところでは、若い女性の口を手で押さえて、自分は科学者なのだから黙っていろと彼女に言いながら彼女を押しやったということです。その事件はロンドンの警察に報告されたので、私たちは事態がどう進展するか楽しみにしています。

ウィンストン上院議員の国会での親友の一人は、昨年トニー・ブレアから爵位を受け、今労働党の議席に座っているレスリー・ターンバーグです。彼は上院議員仲間に、彼は『医学研究慈善団体協会」の科学顧問だと言いました。彼が言わなかったことは、彼がまた『遺伝学と保険に関するイギリス公開討論会』の議長もしているということです。保険業界は、もちろんある人が望ましい保険の契約者であるかそうでないかを見つけるために遺伝学の利用の仕方を考えだすことに大いに関心を持っています。その二つの職業のつながりは、2年前に『遺伝子顧問委員会』の議長をしていたコーリン・キャンベル卿が辞職して、保険業界の実入りのよいポストに就いたとき明らかになりました。

『医学研究慈善団体協会』の顧問としてのポストに就いて、ターンバーグはクローニングのためにヒト胚の使用を支持していると言われている120以上もの慈善団体のリストを同僚に配布しました。その慈善団体がそのように利用されていたことを知って驚いた団体の中に、『イギリス同毒療法トラスト』、『トミーズキャンペーン』、そして、『リスター予防医学協会』がありました。『パーキンソン病協会』は、一度も相談を受けたこともなくまた胚性幹細胞の使用以外の選択肢はないという嘘が広められたと抗議をして協会を離脱しました。

もし1月22日版の『サイエンティスト誌』を読めば、ターンバーグもわかるように、アメリカでの最近の研究では胚性幹細胞を用いた多くの動物実験で腫瘍が発生しましたが、議論を引き起こすことのない大人の幹細胞には同じことが起きないことが示されているのです。『科学顧問』は慈善団体にそのようなアドバイスをするでしょうか。慈善団体は役に立たないアドバイスを与えたことで彼を訴えることができるでしょうか。

しかしバイオテクブームで本当に大勝利を治めた人は、クリス・エパンズ博士でした。彼は、過去2年間の間労働党に多額の寄付をしてきた一人であり、彼はケンブリッジシャ一に1億ポンドかけて作られた『遺伝子キャンパス』に関わっています。ブレア首相は最近、『ヨーロッパのバイオテクハブ』と名付けられたこのキャンパスに個人的な支援をしました。ブレア首相とエバンズ博士は、ヨーロッパのバイオテク市場は2005年までに7百億ポンドの価値があるものになるだろうと言っています。エバンズ博土は、定期的にブレア首相のところを訪ね、彼にバイオテクブームに関してのアドバイスを与えていると言われています。そして彼は最終的にはイギリスで最も金持ちの一人となるでしょう。  ブレア首相は、エバンズのために時間を割いてバイオテク業界に話をすることができたにもかかわらず、クローニングに対する反対の説明をするために面会に来てよいかと4回連続して尋ねた宗教指導者と会う時間は予定表に見つけることはできませんでした。

エバンズ博士は「セレブラス社」を含めたいくつかのバイオテク会社の会長をしています。マーガレット・ベケットがそれらのバイオテク会社のオープンを宣言したとき、彼女は「これは私が奨励したい種類のビジネスです。」と言いました。その会長のジョージ・ポウスト博士は、スミスクラインビーキャム社の取締役もしているのですが、ヒト胚のクローニングについてのアドバイスをするために二つの公共団体『ヒトの受精及び胚研究認可局』と『遺伝子顧問委員会』によって選ばれた4人の顧問の一人でした。彼らはヒト胚のクローニングにゴーサインを出した最初の顧問でした。

1996年エバンズ博士は、キングズカレッジの3人の科学者によって設立された『リニューロン社』という会社を支援しました。彼は500万ポンドの投資をしました。『リニューロン社』は、パーキンソン病のような脳の障害を治療する可能性を持った革新的な細胞移植技術を開発しているイギリスでただ一つの会社であると言っています。彼らは、中絶された人間の脳細胞を研究に使用してきました。

トニー・ブレア首相のもう一人の悪友は、『マイダスの手を持つ男』の異名をとるロナルド・コーエン卿です。彼は1997年に労働党に10万ポンド寄付をし、2000年に爵位を得ました。彼はベンチャービジネスに投資をしています。彼が投資した会社の中には、羊のドリーを作り出した『PPLセラピューティクス社』というバイオテク会社があります。『PPL社』はロスリン研究所で開発された研究に関するクローニングの特許のいくつかを所有しています。となると一つの輪につながっていることがわかります。なぜなら、そのロスリン研究所はバイオテク業界の最大の会社の一つであるジェロン社と業務提携の契約を結んでいるのです。ジェロン社は1200万ポンドをロスリン研究所に注ぎこみ、労働党のセミナーでの会合の主催をし、その会合で科学大臣のセインズベリー上院議員が胚のクローニングに賛成の有名な宣言を行なったのです。セインズベリー上院議員は当時、クローニングの倫理を検討する審議会を担当していました。彼は自分の決心がつくのを待っていたのでした。

上院での投票の翌日、ジェロン社の株が7%も急上昇しました。

したがってやり方は一目瞭然です。医学あるいはバイオテクノロジーの分野で少し金儲けをしたあと労働党に寄付をし、爵位を授けられるのを待ち、それからさらに金儲けをすることを容易にするために(上院の場合のように)直接的に、(ナイト爵の場合のように)間接的に将来の立法に影響を与えればよいのです。高い地位への昇進という本当に好都合の循環が、私たちの民主主義を危うくしているのです。

あらゆる形態の権力がわが国の民主政治の仕組みを侵すために、私たちの科学分野の、そして国教会の、エリートの客観性を破壊するために、そしてSFの最も創造的な作家によって描かれた『ザ・マトリックス』の世界と同様に暗黒の悪夢の世界を開くために用いられているのです。死の文化についての真実は、それを表したいかなる小説よりも奇妙で暗いのです。プロ・ライフ運動による超人的な努力のみが、この悪化の過程の加速を防ぐことができるでしょう。警告はすでに私たちに発せられているのです。

References:

1  Campbell, K and Wilmut, I, The Second Creation, Hodder Headline, 2000. [ Back]

2  Time magazine, 20 February 2001. http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,98940,00.html[  Back]

3  The Times, 20 February 2001. http://www.thetimes.co.uk/article/0,,340-87544,00.html[  Back]

4  Wired magazine, pp122-135, February 2001. [ Back]

5  The Lancet, Vol 357, 3 February 2001, pp329-330. [ Back]


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