最終局面:生殖技術の進歩と自然生殖の消滅

ピーター・ガレット
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net

「未来への愛が始まるところ、それ以外の愛が終わる」

今我々が棲むこの時代、将来の見通しは急速に変化し、人の生殖技術の進化に脅かされている。この論文ではまず実例をいくつか挙げ、次に最も恐ろしい技術的オプションの一部を概説し、最後に生殖技術及びその力と社会との関係を分析する。

世界初の試験管ベビー、ルイーズ・ブラウンは1999年7月25日に21歳になるが、いまだに時折テレビに出ている。実際、メディアがルイーズに寄せる関心は常に金銭にまつわるものであり、それは以下に示す彼女の両親の著書「アワー・ミラクル・コールド・ルイーズ(ルイーズという名の奇跡)」の抜粋を見ても明らかである。

「ステプトウ氏とエドワーズ博士はデイリー・メール紙に関して熱心に見えたので、新聞はかなりいいお金になると思いました。『いくらくらいもらえるんでしょうか?』と私が尋ねると、『二万ポンド近くでしょう』とステプトウ氏は答えました。

結局、メール紙はそれ以上の多額を支払ってくれました」(161ページ)

より近年では、メディアの注目は「金ピカの町」ハリウッドにおける生殖技術の話題に浴びせられることが多い。今日の若者のあこがれの的であるハリウッドの住人たちは、自分のキャリアと家族を持つことをうまく両立させるためには最新の制度や技術を利用することをいとわない。

数年前、ハリウッドの有名な男優がある女優とつき合っていた。二人は子どもを持とうと決めた。女優の方はある映画の役をねらっていたので、妊娠のため体が「ぶかっこう」になることを望まなかった。代理出産ならば問題ないということになり、事前に選択された特徴を備えた代理母との間で、出産に関する契約がなされた。二体の胚(胎児)が母親から代理母の子宮に移植され、数ヶ月間は全てが順調であった。だが不幸にも女優と男優は仲たがいして、二人の関係は終わりを告げた。その結果双子の赤ちゃんは親権をめぐる争いのただ中に取り残されたが、その争いに本気で勝つことを望んでいた者は誰もいなかった。

それから二年ばかり後のことだが、ジョディ・フォスターが母親になる決心をした。しかし自然な方法での妊娠は望まなかったので、精子バンクへ行って運動能力、学才ともに申し分ないドナーの精子を選び出した。そしてジョディ・フォスターはクリニックで人工授精を受けた。

最近ある新聞記事に報じられたとろこによると、ミス・フォスターは、映画のロケで家を留守にする時も子どもの世話にかかわることが出来るように、送受信可能な三十万ポンドのテレビ電話を購入したところだという。テクノロジーを用いた受胎方法に引き続き、子どもの世話に関してもテクノロジーが用いられ、離れたところから育児に関わることが容易になった。テクノロジーが親の役割を作り変えている。


自然生殖を脅かす生殖技術についての概説

A. 試験管ベビー三例

ある意味では、ルイーズ・ブラウンはテクノロジー博物館にふさわしい逸品のようなものである。彼女は単に、ペトリ皿の中で赤ちゃんを作り出し、母親の子宮に移植するという一連の103の試みの中で、最初に成功した実験例であった。

クロウ・オブライエンが誕生した1992年までに技術はさらに進歩していた。クロウの両親はどちらも嚢胞性繊維症を発症する欠陥遺伝子を一本持っていた。二人は、自分たちから生まれる子どものうち四人に一人が嚢胞性繊維症に冒される。つまり肺の感染症、細胞の損傷、生殖機能の障害、限られた寿命を意味することを知っていた。また子どもの四人に二人が、自分たちと同じ欠陥遺伝子を受け継いでしまうことも知っていた。自然妊娠で出来る子どものうち四人に一人のみが二組の正常な遺伝子を受け継ぎ、その病状を呈する危険も、それをまた子孫に伝えてしまう危険もないということだった。

オブライエン夫妻はロンドンのハマースミス病院のロバート・ウィンストン教授に連絡をとった。教授は移植前診断(P.I.D.)として知られる新しい技術に携わっていて、試験管ベビーの遺伝子を検査して及第点に及ばないものは全て選外にするという作業を行っていた。このような形の研究室優生学を取り入れれば、嚢胞性繊維症に冒されているベビー、及び欠陥遺伝子を一本持つであろうベビーを選外にすることが出来るとウィンストン教授は保証した。皮肉にも、両親と同じ遺伝子型(遺伝子の構成)の子どもたちには母親の子宮で九ヶ月間を過ごす権利を得る資格がなかったということである。

1990年代を通して、わが国でつくり出された胚の死亡率は96%近くを推移していた。これから遺伝子検査の範囲を広げ、数十億ドルのヒトゲノムプロジェクトから得られる情報を採り入れていくに従って、その死亡率は間違いなく100%に近づいていくであろう。つまり、試験管ベビーにとって、遺伝子検査をパスして、自分の母親の子宮で成長する権利を得ることはほとんど不可能となるだろう。これが試験管ベビーの将来である。

B. 代理出産

代理出産は、クローニングのような新たな生殖技術と連携することによって21世紀にはより一般的になるであろう。代理出産によってネグレクト(無視)や育児放棄といった恐ろしい話が氾濫し続けるだろうし、時には代理出産に同意した当事者たちが赤ちゃんを生かすべきか殺すべきかをめぐって対立する状況を生み出すこともあるだろう。次の三つのケーススタディがそのような成り行きをはっきりと描き出している。

テキサスのデニースという名のある女性が、スーパーの雑誌に載っていた代理母の広告を見て応募した。自分の借金の問題に片を付けるのにはまたとない解決法に思われた。不運にも、デニースの心臓の病気が主治医に発見されたのは妊娠6ヶ月になってからであった。彼女は動悸、息切れの原因を突き止めてくれるよう心臓病学者に嘆願したのだが、精密検査は行われなかった。デニースには医者から装着するよう勧められた心臓モニターを買うお金250ドルを捻出することが出来なかったし、赤ん坊のブローカーからは何の援助も得られなかった。そして妊娠8ヶ月目、出産予定日まであと25日という時に、おなかに息子を宿したまま、ベッドで死んでいるデニースが発見された。二人の遺体はデニースの母親の所に送られ、母親の農場に埋葬された。デニースの母親にはブローカーからも、代理出産の契約を交わした夫婦からも何の連絡も無かった。(ロビン・ローランド著、リビング・ラボラトリーズより)

生殖技術が招いた、生々しいもう一つのケースは、カリフォルニアのジェイシー・ブザンカの件である。彼女の受精と懐胎に関するテクノロジカルな特異性を分析した結果、判事にはジェイシーは孤児であると宣言した。ドナーの精子とドナーの卵子を使って、研究室でジェイシーはつくり出された。そして代理母の子宮に移植された。妊娠期間中に、ジェイシーのために6,250ポンド相当を支払っていた依頼主の夫婦は離婚してしまった。依頼主である「父親」は、ジェイシーは法的に自分の子どもではないと主張して、養育費の支払いを逃れることに成功した。ブザンカ氏に有利な判決を下した判事は、また、ブザンカ夫人も法的にジェイシーの母親ではないという見解を述べた。

これと非常によく似ているのは、匿名の男女間の人工授精によって生まれた、10歳のステファニー・ブロアのケースである。1995年、ステファニーはパパと呼んでいた人物から経済的に縁を切られた。彼女の母親と離婚したその男性は、自分は父親ではないという理由から、養育費を払うことを拒否したのである。離婚以前に、本当の両親のことはステファニーに知らされていなかった。

ステファニーとジェイシーはこのような手法の本当の犠牲者である。とどまるところを知らない生殖技術産業によって、大人が口論し、「彼らの」子どもが傷つく共通テーマの新しい悲劇が、次々と生み出されている。

時には、赤ん坊が生きるべきか死ぬべきかをめぐって依頼主の夫婦と代理母との意見が激しく対立することもある。ある有名なケースでは、代理母が出生前診断を受けたところ、赤ん坊はダウン症にかかっていると告げられた。代理母がこのことを依頼主の夫婦に伝えると、妊娠中絶をするように言われた。私は中絶には反対です、と拒否する代理母に、夫婦は、あなたが中絶するのではない、我々の代わりの中絶、要するに代理中絶なのですと言った。結局代理母は夫婦の願いを聞き入れた。そして今日まで、彼女は自分ではなく、彼らの中絶をしたのだと信じている。このようなケースは代理母に深刻な心理的衝撃を与える。そしてそれらのケースを見れば、現代の生殖技術は母性というものを商業化し、赤ん坊を商品化し、人間性の本質を変えてしまうものであるということが確認できる。

C. 精原細胞移植術

自然生殖に対するもう一つの脅威は、精原細胞移植術によるものである。この技術はもともと競走馬のために開発されたもので、例えばレッド・ラム(グランドナショナル3回優勝)のような優秀な種馬が、国中の馬の飼育場を回ることなくより多数の種付けをする、つまり多数の子馬の父となることを可能にすることが目的であった。

方法としては、ドナーとなる種馬の精巣の組織の一部を取り出し、他の種馬の精巣内につくり出されたスペースに移植するというものである。これの改良版の一つでは、ドナーから持ってきた別の組織が移植される前に、レシピエント(移植を受ける側)の精巣の組織の一部をレーザーで破壊する。この特殊な処置を加えることによって、遺伝学的にドナーから生まれた精子とレシピエント自身の細胞から生まれた精子が交ざり合った、ハイブリッド精子の個体群が生み出される。

全ての子が確実にドナーの遺伝子を受け継ぐようにするためには、レシピエントの精巣内の精原細胞組織全てをレーザーで焼き尽くす必要がある。

この技術を開発した二人の科学者は1992年に特許の申請をした時、これを人間に応用できるようになることを楽しみにしていると述べた。

精原細胞移植術を用いた場合に侵害される夫婦間の人間関係と、ドナーによる人工授精(AID)で侵害されるそれとは異なる。実際、精原細胞移植の方が好ましいと主張する解説者もいる。なぜなら、生まれる子どもとは遺伝的なつながりがないとしても、少なくとも夫(レシピエント)が子どもの受精時に関わることが出来るからである。

この技術が独裁者の手に渡れば悲惨な結果を招きかねない。もし全ての男性がこの処置を受けるよう強制されたとしたら?もし独裁者の精原細胞の組織が研究室で増殖されて、それが全成人男性の精巣に移植されたとしたら?このようなシナリオもさほどばかげた作り話ではないかもしれない。これまでにも精子バンクや試験管ベビーセンターの臨床指導者が、夫やドナーから提供された精子の代わりに自分の精子を使用するのが目撃されている。彼らはただ、生物学的に見た成功とは、多くの子を作る能力があるということというダーウィン的思考に駆り立てられたにすぎない。

D. 卵子の融合

ネズミの卵子細胞の研究をしていたアメリカの科学者たちが、刷り込み問題として知られているある問題の一面を解決する方法を発見した。これまでの科学では卵子の発達を促すことは不可能であった。「同一の」源から派生した遺伝子どうしは互いに「情報を伝える」ことを拒絶するからである。ということは明らかに、細胞核の遺伝学的性質の持つ何かが、父親から派生した遺伝子か母親から派生した遺伝子かどうかを見分けているのである。

しかしこのような遺伝学的妨害装置のスイッチを切る方法が発見された今、科学者は卵子の細胞核を融合させ、胚を形成させることに成功した。この技術をネズミからヒトに応用するには2年かかると推測されている。それが成し遂げられたあかつきには、レズビアンの親が、平等に二人の血を引く子どもを持つことが出来るようになるであろう。このオプションは、以下に述べるクローニングというオプションと比べたらより魅力的なものとなるかもしれない。というのも「親になる」のはクローニングの場合と違って片方だけではないからである。一つ確かなのは、将来男性がどこまで必要になるだろうかということである。

E. 男性の妊娠

男性も絶望することはない。なぜならばテクノロジーによって女性が男性なしで子どもを持てるような方法がもたらされているのと同様に、男性自身が母親となれるような方法も示されている。

「男性が母になる」ことに関して書かれた最近の記事の中で、ウィンストン卿は次のように論じている。

「男性の妊娠は確かに可能であり、それは女性の子宮外妊娠と同じです。ただし妊娠を維持するには当の男性に多量の女性ホルモンを投与しなければなりませんが。」(サンデー・タイムズ、1999年2月21日)

実際、オーストラリアでは少なくとも5組のホモセクシャルのカップルがすでにこの「処置」とやらの申し込みを済ませたという。

申し込みは、通常は安全性の問題からすべて却下されている。1990年代初期にはそのような男性の妊娠によって「男性ママ」の50%近くがいのちを落とすだろう、とされていた。ウィンストン卿はより厳密な医学的管理によって死亡率の統計値を許容できるレベルにまで下げることが出来ると確信している。

ノッティンガムの生殖補助センター所長、サイモン・フィッシェル博士も同じ意見である。彼は次のように述べている。「男性が身ごもることができない理由はどこにもありません。胎盤によって必要なホルモン状態が用意されるので、なにも女性の体内でなければならない、ということはないのです」


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