カトリック教会と「万能細胞」

Editorial (オピニオン)
国連記者室
出典 ウィーン発『コンフィデンシャル』
2012年10月12日掲載
許可を得て複製

山中伸弥・京都大教授のノーベル生理学・医学賞受賞について、世界に約12億人の信者を有するローマ・ カトリック教会の総本山バチカン法王庁はおおむね歓迎する一方、「人間のクローン化への道が開かれる」 として懸念を表明する声も少なくない。

山中教授は2006年、世界で初めてあらゆる種類の細胞になる万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を開発した 。万能細胞の作成はそれまでは受精卵(胚)から作る「胚性幹細胞(ES細胞)」だった。そのため、 生命倫理上の問題があるとして、バチカンも強く反対を表明してきた経緯がある。iPS細胞の場合、 患者の皮膚からも作成できるので倫理上問題が生じない、といわれる。

欧州連合(EU)司教委員会(ComECE)は8日、ブリュッセルで「 非受精卵万能細胞技術研究開発にとって大きな成果だ」と山中教授のノーベル賞受賞を歓迎する一方、「 EUの資金を受精卵による万能細胞作成研究には絶対投資してはならない。受精卵は生命であり、 既に人間として尊厳されなければならない。受精卵を利用した万能細胞作成は禁止されなければならない、 とした欧州人権裁判所の判決(2011年10月)を遵守しなければならない」と強調している。

生命保護事業「Utvitamhabeant」のエリオ・スグレチャ枢機卿は「 非受精卵による万能細胞作成研究は既に成果をもたらしている。一方、 受精卵を利用した万能細胞作成研究は成果らしいものがない。われわれは後者の研究を容認できない。なぜならば、 生命の破壊を意味するからだ。前者はその点、倫理的には容認できる可能性がある」と述べている。

それに対し、独アウグスブルクのアントン・ロージンガー司教補佐は「 山中教授とグルドン教授のノーベル賞受賞には反対だ。クローン技術は人間のクローン化の道を開く」と批判する。 同司教補佐によると、体の一部の細胞再生技術は人間のクローン化問題と余り距離がなく、Pluripotency( 多様性)細胞だけではなく、Totipotency(全能性)細胞(例・受精卵) を作成できる可能性が考えられるという。

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