神はわたしたちの叫び声を聞いた

Editorial (オピニオン)
国連記者室
2012年1月2日掲載
出典ウィーン発『コンフィデンシャル』
許可を得て複製

ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王べネディクト16世は先月25日、慣例のクリスマス・メッセージの中で 、「神はわたしたちの叫び声を聞かれた」と述べ、「救い主イエス・キリストの降臨はその証しである」と語った。

昨年3月、東日本地域で大震災が発生し、2万人余りの日本人が犠牲となった。「想定外」の自然の力を前に多くの人々は 「どうしてこのような大災害が起きるのか」と絶叫し、神を信じる人々は愛の神の存在に首を傾げた。

べネディクト16世は昨年4月、日本人のお母さんとイタリア人の父親から生まれた女の子エレナから、「 どうして多くの人が亡くならなければならなかった か」と質問された。ドイツ人法王は、「エレナ、自分も同じ質問をしたいと感じている。われわれはその答えを知らないが 、イエスやイエスの中におられる神は 苦しむ人々の側におられることを知っているだけだ」と語った。その上で、「大震災と津波を受けた日本人もある日、 どうしてそのような苦難が生じたのかを理 解できるだろう。その痛みは価値ある苦難だ」と強調している。

バチカン法王庁のサン・ピエトロ広場で昨年10月23日に行われた列聖式の最中、男が広場の柱廊に上がり、 手に持った聖書を燃やして「法王、神はどこにいるんだ」と叫んだが、神父たちの説得に応じ、柱廊から降りた」 というハプニングがあった(AP通信)。

ギリシャの哲学者エピクア(紀元前341年〜271年)は、「神は人間の苦しみを救えるか」という命題に対し、「 神は人間の苦しみを救いたいのか」「神 は救済出来るのか」を問い、「救いたくないのであれば、神は悪意であり、出来ないのであれば、神は無能だ」 と主張している。

「赤と黒」や「バルムの僧院」などの小説で有名な仏作家スタンダール(1783年〜1842年)は( 神が人間の苦痛を救えない事に対し)、「神の唯一の釈明は『自分は存在しない』ということだ」と辛辣に述べている。

ポルトガルの首都リスボンで1755年11月1日、マグニチュード8・5から9の巨大地震が発生し、 同市だけで3万人から10万人の犠牲者を出し、同国 で総数30万人が被災した。文字通り、欧州最大の大震災だった。その結果、欧州全土は経済ばかりか、社会的、 文化的にも大きなダメージを受けた(「大震災の文化・思想的挑戦」2011年3月24日参照)。

仏哲学者ヴォルテール(1694年〜1778年)はリスボン大震災の同時代に生きた人間として被災者に心を寄せ、「 どうして神は人間を苦しめるのか」を問い掛け、「神の沈黙」へ苦悩を吐露している。

また、「マザー・テレサ」と呼ばれ、世界に親しまれていたカトリック教会修道女テレサは貧者の救済に一生を捧げ、 ノーベル平和賞(1979年)を受賞 し、2003年に列福された。その修道女マザー・テレサも生前、書簡の中で、「私はイエスを探すが見出せず、 イエスの声を聞きたいが聞けない」「自分の中 の神は空だ」「神は自分を望んでいない」といった苦悶を告白し、「孤独で暗闇の中に生きている」 と嘆いていた事が明らかになっている(「マザー・テレサの苦悩」2007年8月28日参照)。

日本の大震災は「神の存在」と「その不在」についてわたしたちを考えさせた。犠牲者の死は決して無意味ではなかった。 その尊い供え物を無駄にしない為に もわたしたちは今年も「神の存在」について考えていきたい。そして、出きることならば、神を再発見し、 神と和解できれば、と願っている。

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