欧州で08年、286万件の中絶

Editorial (オピニオン)
国連記者室
ウィーン発 『コンフィデンシャル』
2010年3月7日掲載
許可を得て複製

数字は一見、冷たいが、現実を容赦なく表示する手段だ。スペインの「家族問題研究所」が3日、ブリュッセルで発表したところによると、欧州連合(EU)の27カ国で2008年度、286万件の中絶が行われたという。中絶が欧州の死因トップというから恐ろしい。

バチカン放送がイタリアの「生命の為の運動」のカルロス・カシニ会長とのインタビューを掲載しているが、同会長はそこで「欧州では具体的に生まれるまでは胎児を子どもと考えない傾向がある。これは欧州全土に見られる価値観の危機を現している」と指摘し、「スペイン研究所の数字を厳密に受け取ると、欧州で毎年、ドイツ・ミュンヘン市の市民が全て殺害されていることになる」と述べている。

欧州だけではない。中絶問題は米国の大きな国内問題だ。米国の著名な神学者ジョージ・ヴァィゲル氏は「神学的、哲学的、道徳的に真摯にものを考えるカトリック教徒にとって、オバマ大統領を支持できない。なぜならば、同氏は中絶問題であまりにもリベラルな見解の持ち主だからだ」と指摘し、オバマ大統領の中絶容認政策を批判している1人だ。

ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王ベネディクト16世は07年9月、オーストリアを訪問した際、「如何なる中絶も許されない」とのメッセージを発信した。オーストリアでは妊娠3カ月以内で母体に危険がある場合は堕胎が許されている。それに対しても、ベネディクト16世は「中絶は許されない」と表明したのだ。政府関係者も少なからず衝撃を受けたことはまだ記憶に新しい。

前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世は生前、「中絶が増加する現代社会では、死の文化が席巻している」と強く警告している。カトリック教会では、暴行を受けて妊娠した女性の堕胎をも許さない。そのため、多くの人権擁護機関から「バチカンの根本主義」という非難を甘受せざるを得ないわけだ。

欧州社会は少子化傾向に直面し、結婚件数が減少する一方、離婚件数が増加してきている。音楽の都・ウィーン市では3組に2組が離婚する社会だ。中絶の是非は、「家庭像」と「性と愛」問題の枠組の中で考えていかなければならないテーマだろう。

繰り返すが、286万件の中絶が1年間で行われたという事実は軽く扱うにはあまりにも重すぎる。

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