ヒトクローニングに対する聖座(カトリック教会の本部)の見解
国際連合へのバチカン使節団

Documents, Official (ドキュメント, 公文書)
2003年2月
英語原文より翻訳: www.lifeissues.net

内容

  1. 聖座の見解
  2. クローニングの生物学的背景
  3. ヒトクローニングの考えられる目的
    • 3.1 子どもを作る方法としてのヒト胚のクローニング
    • 3.2 幹細胞を作る手段としてヒト胚をクローニングすること
    • 3.3  遺伝子機能及び後生的機能研究の道具としてのヒト胚のクローニング
  4. ヒトクローニングは---いかなる目的のために行なおうとも---人類の尊厳と私たちの生命の権利に反するものである。
  5. いかなる目的のために行なわれたヒトクローニングであれ、国際法の基本原理に反する
  6. 結論

1. 聖座の見解

聖座は、いかなる技術が使われ、いかなる目的のためであろうとも、ヒトクローニングに対する世界的で全面的な禁止を強く支援します。その見解は(1)クローニング過程の生物学的分析及び(2)人類学的、社会的、倫理的、法的考察により、ヒトクローニングが生命や人類の尊厳、権利に与える否定的影響に基づいています。

聖座は、ヒト胚が生物学的にも人類学的にも人間であるという見地に基づくこと、かつまた、たとえ社会に益をもたらす場合であっても、無罪の人を殺すことは間違っているという基本的倫理や、社会ルールに基づいて、「人を再生する」ヒトクローニングと「治療の」(または「実験的」)ヒトクローニングの間に、概念の定義をすることは、倫理的、法的に意味がないと考えています。

クローニングに対して提案されている禁止は、植物を作ったり、また非人間胚や非キメラ胚(人間-動物)をつくるために、人間の胚でない他の数々の生物学的存在(分子や細胞、組織)を得るためのクローニング技術の使用を禁止しようとしているものではありません。

2. クローニングの生物学的背景

考え方として、また実験的状況下では、「クローニング」という表現は、異なる技術的手法、異なる目的を指す、異なった意味をもってきました。クローニングそれ自体は、それの元となったものに遺伝子的に一致する、または非常に類似している生物学的実在の生殖を意味します。この表現は次の事項を意味するために使われています:

a. それぞれの単一もしくは複数コピーから発生した核酸(DNA、RNA)または蛋白、または細胞の系統の製造。この過程において個人の生命というものは関連していないので、特に倫理的、法的問題はない。

b. 性的に生殖をする種(植物、動物及び人間)に属する1以上の生物学的個の、無性で人工的方法における作成。動物と人間に関しては、発達の早い段階で胚分裂をすることによって、または細胞の二倍体核を胚、胎児または成人から、核を排除された卵母細胞に移植することを通じてのどちらかによって行なうことができる。後者の場合はうまくゆけば、活性後、再建された卵母細胞は、さらに発達して誕生できる胚へと発達してゆくだろう。その目的如何にかかわらず、クローンされた胚は、クローンされたその種の生命の初期段階である。

3. ヒトクローニングの考えられる目的

ヒトクローニングは、人間を作るために使われる科学技術です。胚分裂も核移植クローンのどちらの結果も、初期段階ではありますが確かに、胚の段階を作るという人間の再生です。このように、ヒトクローニングやヒト胚クローニングは同一で、それらはお互いに同じものです。現在ヒトクローニングが試みようとしている目的は次の3つがあります。

3.1 子どもを作る方法としてのヒト胚のクローニング

クローンされたヒト胚が、もとの卵母細胞を作った女性の子宮、もしくは代理母の子宮に着床されると、哺乳動物クローニングによって行なわれてきたと同じように、妊娠後新しい生命が誕生します。このヒトクローニングの使用は、最終目的が成人の人間を再生することが目的であるために、「再生クローニング」と不適切な呼ばれ方をしてきました。

3.2 幹細胞を作る手段としてヒト胚をクローニングすること

ヒトクローニングの第2番目の目的は、組織工学及び移植、または細胞 治療の使用のために胚の幹細胞を作成することです。ひとたびヒト胚がクローンされれば、その後の発達は移植の前(通常は胚盤胞段階)に停止されるため、胚のさらなる発達は破壊されます。この種のヒトクローニングは、例えば「治療のクローニング」というような名前が提案されていますが、行為の目的と、その過程において実際に行なわれている姿を混乱させているため、誤解を生じさせています。ここではまさに胚の幹細胞を作るために、生きたヒト胚が意図的に作られ、破壊されてきたのです。

3.3 遺伝子機能及び後生的機能研究の道具としてのヒト胚のクローニング

人間の組織細胞から、核を排除された人の卵母細胞への核の移植や次に起こる胚発達の研究は、細胞の成長や能力、分化、再生、老化の遺伝子的、後生的機能メカニズムを理解する目的で行なわれるかもしれません。この種の細胞生物学における実験のデザインは「核の初期化」と呼ばれてきました。この名前は無害に聞こえますが、実際はこれに反して、実験の目的のみのためにヒト胚をクローンしています。

4. ヒトクローニングは---いかなる目的のために行なおうとも---人類の尊厳と私たちの生命の権利に反するものである

クローニングが、ヒト胚を破壊しないように、成人に成長させる人間の子どもを作る目的で行なわれたとしても、この行為は人間の尊厳を侮辱することに変わりはありません。不自然な無性生殖の形式として、それは生物学的行為及び、人間の愛の行為としての人間の生殖の根源である本質的関係や相補性を深く混乱させることを表わしています。クローニングは人間の性を物質化し、女性の身体を製品化します。さらに、女性は卵と子宮の供給源になることで本質的尊厳を奪われるのです。同様に、他者や技術の力がクローンされた人の人生の最初から終わりまで、その人の独自のアイデンティティーを完全に支配するため、その人の尊厳は脅かされることになります。再生クローニングは生物学的、個人的人格を脅かし、クローンされた人は、すでに存在している人の遺伝子構成を強要されます。代わりに、クローンされた人の人間性は、他者のアイデンティティーによって外的にも内的にも利用され、それは個人的完全性に対する暴力的な攻撃であります。バイオメディカル研究や幹細胞再生のために行なわれたクローニングも、再生クローニングの状況に表わされているように、人間の尊厳や完全性に反する攻撃に加担しているのです。意図的にその破壊を計画してヒト胚をクローニングすることは、潜在的治療の未知の「善」とか科学的発見という名のもとにおいて、初期段階の人間の生命を意図的に、そしてシステム化された破壊行為を組織化するでしょう。この展望は科学や医療の進歩を適切に支援する人々も含め、ほとんどの人々が矛盾であると感じています。まさに核移植クローニングは、組織移植や細胞治療の唯一の、もしくは優れた方法では全くないのです。組織再生への分化転換アプローチを伴った、出生後状況において採取した多能性同種幹細胞の使用は、移植を受けた患者における免疫の拒絶反応を避けるための、非常に有望な代替法です。加えて「野生型」や遺伝子導入動物の使用も、細胞生物学の遺伝的 また後生的機能メカニズムを解明する方法です。後に指摘するように、人体への医療実験は国際法のもとでは犯罪となります。この展望は、たとえ全体的に科学研究に賛成している人々でさえ、道義的にまた倫理的に間違っていると思っています。現在、必ず破壊されるヒト胚のクローンを作る必要なしに、同じ潜在的目的を達成する科学的細胞研究の代替方法が存在します。破壊する計画的意図をもって生命を作ることは、全ての人間の個と完全性を守るべくデザインされた倫理的、道義的、法的に考慮すべき問題事項の基本的正常さに背いています。

国連の設立以来、この組織の働きに全人類の繁栄と保護が中心課題であることは全く明らかです。現在そして来る世代の人間の安全を守ること、基本的人権の改善が国連の仕事に不可欠です。世界人権宣言はあらゆる人間の生命の神聖さと、それが危険から守られるための無視できない必要性をここでも主張しています。この点で、宣言の第三条は全ての人が生命に対する権利をもっていると断言しています。生命があれば、将来の希望、つまり全ての人間はその尊厳と権利において平等であると認めることによって世界宣言が守るところの希望が生まれます。生命に対する権利があれば、人の自由や安全があります。これを守るために、世界宣言は一人ひとりの人間は自己決定の希望でいっぱいの未来を保証されている実在である、と宣言しています。この目的を促進するために、奴隷的状態に人間を追いやったり、生命や自己決定への基本的権利を否定する状態は非難すべきです。

これらの点をよりよく理解するために、この段階では私達の人間の本質を見極めるのが賢明でしょう。私達一人ひとりは、国籍、性別、人種、民族性、宗教に関わりなく同じ起原をもち、社会の自然で基本的な単位である家族ではじまる社会の一員として成長することが運命づけられています。私達は自己、家族、国のための目標を進めようと努力しますが、同時に同じ人間という仲間として、国を越えて現在と未来の世代のために共通の善を助長する任務があるのです。私達は、人として存在している全ての人々を守るためにこれを行っています。しかしながら、ある人々の運命が、国連の関心事の中心であるこれらの人間の本質に関わる基本的原則を考慮しない目的のために利用されるとなれば、全ての人々に保障される生命や自己決定への基本的権利を否定する奴隷的状態へと引き下げられることになるのです。人間をクローンすることは、いかなる目的のためであれ、その人と他の人間家族をつなぐ、この人間の基本的な存在論的要求を否定するものです。この人には、自分の未来に対する自己決定の希望は全くないのです。研究の目的を促進したり、すでに存在している人間のナルシズムを高めるために、この人の個人的人格は破壊されるからです。どちらの場合においても、クローンされた人は、自由で自己と社会の発達に寄与することができる独自の一個人である、という人間存在の基本的本質に反する奴隷状態へと引き下げられるのです。

5. ヒトクローニングは国際法の基本原則に反する

様々な国際文書が、人間の尊厳は国際法の中心であると認めています。それがたとえ何の目的のために行なわれようとも、ヒトクローニングは人間の尊厳を守る国際法の基準に反しています。第一に、国際法が保障しているのは、全ての人間の生命への権利であって、ある特定の人々の権利のみを保障しているのではありません。特定の研究目標に達するやクローンされた人は意図的に殺されるという、破壊を運命づけられている人間の形成を行なわせること、また人間を不本意な自由の拘束や奴隷制に引き渡すこと、そして人間への医学的、生物学的実験に不本意に提供されるということは、道義的に間違っており、許すことができないものです。ヒトクローニングはまた、クローニングを行なう人々が、性別、人種などの人間のある特定の特徴を選択したり、増殖できるようになり、他者を排除することへの多大な脅威を示しています。これは「超人種」の制度へと導く人種改良の実践と同様のものとなり、自然なプロセスを通して生まれた人々に対する差別は不可避となるでしょう。ヒトクローニングはまた、研究目的で生まれたこれらの実験材料に、当然受けるべき国際法や法の平等な保護を与えないことにもなります。加えて、国の行動や地域条約の発展が、いかなる目的のために行なわれるヒトクローニングも、法に反するものであると認めているということを覚えておかなければなりません。

6. 結論

ヒトクローニングが関わる全ての過程は、それ自体が、人としてのまさに初期段階、つまり、ヒト胚を作るという点で、再生過程です。聖座は「再生」と「治療の」(または「実験的」)クローニングの区別について、その道義的、法的根拠が欠けているため、原則として受け入れることができない、とみなしています。この誤った区別は、胚の幹細胞を作ったり、他の実験を行なったりするために殺す目的で人を作る、といった現実を隠してしまいます。それゆえ、ヒトクローニングはそれがいかなる目的を追求していようとも、全ての場合において禁止されるべきです。聖座は生後の幹細胞を使う実験を支援していますが、それはこのアプローチが効果的で、有望で組織移植と細胞治療を行なう上で道義にかなっているからです。

これらの目的が以前にも議論されていますが、その目的をここにくり返し言う価値はあります。ヒトクローニングの目的の一つは、胚を作るということに焦点をあてており、この胚は生まれてくることができません。胚は医療研究のため、とか「治療の」ためと呼ばれて他の目的に使われるでしょう。ヒトクローニングに関連したもう一つの目的は「再生」であり、言い換えれば、生まれさせるためにヒト胚を作成し、その人の遺伝子物質が採られた人を模写することです。

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